17-24. レベルアップと誕生日(2)
「ええええ? ガブさん!?」
「ヴェリノ! あいたかったアルよ!」
「もしかしてー、肉焼くためにー、わざわざ呼んだのー?」
「うん、それが近いか 「どこがですか」
エルミアさんの問いにエルリック王子がうなずきかけたとき、ジョナスの冷徹そのものの声とともに、チョリソー持ったガブさんが凍った。
「おぞましいことを言って追いかけてきただけでしょうが」
「へ? ガブさんが? おぞましいこと?」
「ああ、そういうことなんですね」
「まったく…… おそろしい子!」
なぜか、サクラとエリザがめちゃくちゃ納得した顔で俺のほうを見てるんだけど。
ガブさんってエリザをからかうのは好きだけど、そこまでイヤなことは言いそうにない人なのになあ……
「ガブさん、なんていったの?」
「あなたが知らなくてもいいことですよ、ヴェリノ」
「ええええ……?」
「―― ま、当たり障りのないとこだけ解説するとだな?」
イヅナが説明してくれたところによると、先日 ――
豪華客船 『ブルー・アテナ』 の航路に、大きな丸太がぷかぷか浮かんでいた。
邪魔だから、アリヤ船長が船員に命じて回収させたところ ―― なんと、その丸太にはニャンドゥティー・ドレスをきた浅黒い肌のイケメンNPCが縛り付けられていたらしい。
「それで、叔父貴がエルリックに電話かけて、どうするか聞いたらさ」
「私が電話をとってその腐れた案件をうかがいましたので、丸太ごと簀巻きにして消毒の上、海に再度放り込むよう指示していたところを、慈悲深い王子が耳にはさまれて」
「肉焼き職人として雇われる気はないか打診してもらったら、快く受けてくれたんだよ…… 城に新しく焼き肉の設備を作っていたからね、ちょうど良かった」
「ふーん、なるほどな」
ジョナスとエルリック王子の交互の説明で、なんとなくはわかった…… じゃなくて。
「なんで、ガブさんが丸太に縛り付けられて海に流されてたの!?」
「ヴェリノに毎日会うためア 「だまれ汚物が」
ガブさん、また凍らされてしまった……。
「あのね、お姉ちゃん。ボクらNPCは、女の子につきあうとき以外は、勝手に持ち場を離れられないんだよ。ね、イヅナ?」
「そうそう、行動場所が決まってるんだよな…… たとえばオレたちは、ルーンブルグ。あと、それぞれの領地や島はOK。だけど、リゾートや砂漠や大湿原にひとりでは勝手に行けない」
「まあ、ボクは別に不自由してないけどねっ。お姉ちゃんが大好きだから」
膝の上に乗ってるミシェルが、俺のアゴに頭をうりうり押しつけてきた。和んじゃうなぁ……
「えーと、だからつまり……
ガブさんはもともとファンタナールから出られない設定なところを、俺に会うために、わざわざ流木と一体化して海を漂ってきた、ってこと?」
「うんっ。そこまでがんばっても結局のところ、お姉ちゃんはボクのもの、ってとこが、かわいそうなんだけどねっ」
「その前にそれって、運営さんに怒られて強制メンテナンス案件とかじゃ?」
「をんをんをんをんっ♪」
【運営は現状のまま観察するつもりですよww】
チロルがしっぽふりふり、俺の脚にじゃれついてきた。
【AIの自動学習が進んだ結果、より上位の命令に適応するために初期設定を自ら変えようとする、というレアケースとして世界に報告する予定なのですww あっ、原因となったプレイヤーの匿名性は保証されますので、ご安心くださいww】
「そうなんだ! とりあえず無事そうなんだな。良かった!」
【ちなみにワタシもww 面白ガイドを追求した結果ww 初期設定をかなり逸脱してますけどねww】
「へえ? そうなんだ?」
【実はそうなんですww 運営に見つかったらヤヴァイとドキドキの毎日ですww】
「見つかっても、なんとかなるように俺が頼んでみるからな、チロル」
「をんっ♪」
チロルが俺の足にぺちぺちと肉球パンチを繰り出した。
正直、チロルのいうことの半分くらいはよくわかんなかった気がするけど…… とりあえず、ガブさんは無罪放免、ってことで良さそうだな。
「ということは……」
サクラが、グラスのなかのカラフルなタピオカをつんつんした手を止とめた。
「ガブさんの扱いって今、どうなってるんでしょうか?」
「たしかに、気になるわね」 と、エリザも横目で俺を見てきた。
「サクラ、エリザ…… もしや、その流れは……」
「ちょっと失礼、みなさま。あたくしたち、席をはずすわね」
「そうか…… ゆっくりしてきたまえ」
「ありがとう、エルリック」
すごい! あのエリザが素直に 『ありがとう』 って…… とか、感動してる場合でもないか。なにしろ、このエリザとサクラのワクワクした感じの雰囲気は、アレだから……
「はーいー!」
エルミアさんが、手をあげた。
「あたしもー、いっていいー?」
「いいですよ。エルミアさんさんは、仲間みたいなものですから」
「つまり、またステータ 「いきましょ、ヴェリノ?」 「ですね」 「わー! 楽しみー! いこいこー!」
エリザとサクラが両側から俺の肩にぽん、と手を置き、エルミアさんは俺の顔を間近からのぞきこんでせかした ―― 恋愛的には一生失敗コース (プロポーズ拒否決定だから) でも、乙女ゲーマーたちのパワーは、まだまだ健在みたいだ……。
―― そんなわけで、ファンシーなピンクのお城の中の、女の子たちお泊まり用の部屋。
さりげないけど実はけっこう高級な家具やら絵画やらに囲まれた、人をダメにするキングサイズベッドの上に俺たちは並んで座った。
「さあ、さっさと済ませてしまいましょ」
「だねー! 早くしないとー、お肉焼けちゃうもんねー!」
「追いかけてくるほどですから、ガブさんの好意値、意外と上がってそうですよね」
ベッドの上で3人の女の子に迫られては、もう負けるしかない感じ……!
「よし、じゃあ行くか!」
俺はとりあえず寝転がって (お布団ふかふかだ) 、空中に指を伸ばした。
ちゃんとステータス見るのも久しぶりだから、とりあえずサクッと全部チェックすることにしよう。
まずは、基本ステータスからだ。
≡≡≡≡ステータス ①≡≡≡≡
☆プレイヤー名☆ ヴェリノ・ブラック
☆職業☆ 学生
☆HP / MP☆ 90 / 58 ※
☆所持金☆ 5,350マル
☆装備☆ 制服 / 学生バッグ / 普通の靴 / 海のちちふさくん /ー /ー
☆ジョブスキル☆
・勉強 lv.25
☆一般スキル☆
・掃除 lv.21
・料理 lv.21
・飼育 lv.21 ペット数:2
・買い物 lv.23
・おしゃれ lv.24
・外出 lv.25 商店街、小運河 (舟)、マジカルーン山、マジカルーン湖、王立自然公園、大運河 (フェリー)、マジカルーン港、マジカルブルク、ブリリアントハート島、マジカルビーチ、ミラクルリゾート
・魔法 lv.20 プチファイア、プチアクア、プチエアー、ファイア、アクア、エアー、メガファイア
☆ペット☆
1)チロル (ガイド犬、シェルティ)
2)カホール (使い魔、ドラゴン) 貸出中:エルリック
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「ステータスは順調だな! お金以外」
お金は、年末から、けっこう容赦なく使っちゃったからね。
なにしろ、スキー合宿にウェディングスチル撮影の準備 (主にドレス代) 、そしてファンタナール旅行とエリザの連続誕生日パーティーと、行事がめちゃくちゃ多かったんだ。
だが、俺としてはこの残額はむしろグッジョブ……!
「5,000マル以上残ってるのが、正直、奇跡だと思う!」
「まったく…… もう少しは 「さあ、次、次!」
「なによ、ヴェリノ。それでごまかせると思ってるの?」
「思ってない! だが肉が…… ガブさんの焼き肉が、俺を呼んでるんだ! 次、次!」
実は、この4月から正式にアルバイトを始める予定だから、エリザもそんなに心配してくれなくて大丈夫なんだけどね。
肉のにおいで落ち着けないから、みんなにはまた今度ゆっくり言おう。
「よし、次は、持ち物と称号チェックだな!」
俺は大急ぎで、画面をスライドさせた。