17-22. ウェディングスチルと大湿原(17)
俺たちがログアウトしている間に、雨がふったらしい。湖が、明らかに大きくなっていた。
ロッジのまわりの木にも草も、露がいっぱいついてて、よく見ると、露の1つ1つに夕焼けの空がうつっていた。きれいだな。
木々の間を、小さなツノの鹿が、ざあっとたくさんの雫を落としながら、ゆっくりととおりぬけていった。
そして漂う、ちょっと生々しいのになぜか 「美味しそう!」 って思っちゃう魚を焼く匂い……!
いよいよ、夕ごはんなのだ。
「ほーい! お待たせアル!」
ガブさんが大きなプレートを運んできた。両手両腕頭で計5枚。素晴らしいバランス感覚だ!
「ガブさんカッコいい! ニャンドゥティーのドレスもよく似合う!」
「おっ、やっとワシの良さがわかったアルね!」
嬉しそうにガブさんが配ってくれるプレートの上には、濃い緑色の大きな葉っぱが敷かれていた。その上には、大量の南国フルーツとフライドポテトっぽいなにかと、こんがりとしたキツネ色の怪獣彫刻 ―― じゃなくて、魚のフライ。
ぽっかり開いた口からのぞくギザギザの歯とうつろな丸い目と頭の形が、いかにも怪獣っぽい。
「ピラニアとキャッサバのフライ、フルーツ盛り合わせアル!」
そう。夕食は、お昼に俺たちが釣ったピラニア ―― 楽しみすぎる! けど見た目がかなりこわい!
そして、これを食べたら、このファンタナール旅行も終わりか…… もっと居たかったなぁ……!
「うわぁ…… 俺、もう胸がいっぱい……!」
「見た目だけで決めるの良くなくってよ?」
「じゃなくてさ、エリザ」
うん、フライの見た目もたしかに、いっぱいいっぱいではあるけどね。
「―― なんか、またここに来たいな、って」
「来て来てアル! いくらでも会いに来てアル!」
言った瞬間、ガブさんが凍りついた。
「わきまえなさい、ガブリエル。我々にとって、あなたが水鳥やカピバラやジャガー親子に優先することなど、ありえないのですから」
眼鏡クイしながら冷酷に宣言するジョナス ―― やっぱりどうもここんとこ、問答無用で氷魔法を使う頻度が上がってる気がする。
この前 『動く冷蔵庫』 とか言っちゃったせいかな?
「いや、ジョナス…… ガブリエルは優秀な案内人だったのではないかな? おかげで私は、多種多様なもふ、いや、動物たちとふれあえて楽しかったよ」
エルリック王子が凍ったガブさんの頭から、魚の乗ったプレートを優しくおろした。
「料理人としての腕も良いし ―― ここに来たら、また彼を雇ってもいいだろう?」
「…… 王子がそうおっしゃるなら」
ガブさんの氷がとけた。
「それにさ、また焼き肉はしてほしいよね!」
「美味しかったよねっ、お姉ちゃん! またお姉ちゃんと食べたいな」
「俺も、またミシェルと食べたい!」
「これもー、おいしーよー!」
ばりっ、と良い音がした。
なんとエルミアさんが、こんがり揚がった怪魚を頭からかじったのだ……!
「エルミアさん、それ! かたくないの?」
「んー? かたいよー? ぱりぱりー!」
「エルミアさんさん…… そんなものも、食べられるんだね……」
「うん! ハロルドの知らない一面でしょー♡」
ハロルドまでどん引かせてしまうエルミアさん、ある意味最強だな!?
「さあさあ、みんなもどうぞアル! しっかりカリカリに揚げてあるから、ホネまで食べられるアル!」
「でも、ちょっと怖いですよね……」
いろんな角度からプレートのスチルを撮りながら、サクラがつん、と自分のピラニアをつついた。
「コワカワイイと言えないこともないですけど、ちょっと」
「ちっちっちっ。見た目で決めちゃダメなのアル!」
「よし、サクラ! おおおお、オレが毒味してやるぞ! 怖くなんかないから!」
今度はイヅナが、ピラニアの頭にくいついた。
ぱりぱりとホネを噛み砕く、いい音がしている。
「イヅナさん、がんばってください……!」
「………………」
モゴモゴ口を動かし、固そうなホネをやっとゴックンしたあと、イヅナはこう評価した。
「けっこう、うまいぞ」
「じゃあ、食べてみるか!」 「…… そうですね」 「…… ええいっ、こんなもの! あたくしだって余裕で食べられるわよっ!」
「よし! …… じゃあ、せいの、」
「「「「いただきまーす!!!」」」」
―― けど、やっぱりこわすぎるな、ピラニアの顔…… いや、いくぞ。
俺は目を閉じて口を思いっきりあけ、魚の頭にかじりついた。
―― 意外にも、食べやすい。
見た目固そうな骨だったのに、かめばパリッと崩れて、口のなかですぐに小さくなる。味も、ほどよい塩味にピリッとしたスパイスが効いてて、美味しいな。
「けっこう、いくらでも食べられそう!」
「おせんべいみたいでー、ガラナと良く合うよねー!」
しゅわしゅわと泡立つ黄色いポーションをゴクゴクと飲み 「ぷはーっ♡」 と息をついたあと、3匹めのピラニアを手にとるエルミアさん。気に入ったんだな、怪魚の味が。
「ふっ…… こんなもの! このあたくしにかかれば、大したことなくってよ!」
エリザは最大限に口を開けて (っていっても俺の半分くらいだ) ピラニアの頭と格闘している。なんとなく、さっき会った赤ちゃんジャガーを思い出した。
「………… そうね。思ったほどヒドくはないと、認めてあげてもよくってよ」
「見た目に似合わず、さっぱりして上品な味なんですよね」
「白身魚だからね。小骨が多いから、カリカリに揚げたのは良い調理法だよ」
エリザもサクラもアリヤ船長も、ピラニア気に入ったみたいだな。
(アリヤ船長が食べるとこ見てなかったのがなんか残念!)
「ほら、カホールも食べたまえ」
「タベテルヨ! カホール コノ オイモ スキー!」
「良かった」
エルリック王子も、みんなと同じく手づかみでピラニアに挑戦。キラキラエフェクトが増えてるところを見ると、満足してるみたいだな。
その肩の上では、青い手のり竜のカホールが翼をパタパタさせながら、フライドポテトっぽいものを両手でもって、少しずつかじっている。
「キャッサバのフライも食べるよろし!」
「どれどれ…… おっ、これもうまい!」
外がカリっとして中がモッチリ、薄甘い芋に味付けの塩がベストマッチ……!
「をんをんをんをんっ♪」
チロルが、しっぽをふぁさふぁさふって解説してくれた。
【キャッサバは南米原産のイモですよww タピオカの原料でもありますww】
「タピオカ?」
「―― この白い粉がなにか?」
ジョナスが内ポケットから出してきた袋には、たしかに 『タピオカ粉』 と書いてある。
「それなに? なんでジョナスがもってるの?」
「タピオカだと書いてあるでしょう、バカですか。そして王子のために購入したまでですよ。勘違いしないことですね」
「うん、勘違いはしてないけど…… ジョナスなにげにお土産屋さんチェック早いな?」
「オカイモノスキーネ! コノコノー!」
「現地の情報チェックを欠かしていないだけです。いいかげんなこと言うと、ポケット妖怪の世界に強制送還しますよ。この青トカゲが」
「テレチャッテ モー!」
カホールとジョナス、なんか仲良くなってるよなぁ……。
「でさ…… 結局、タピオカってなんなの?」
「そんなに知りたいかい、ヴェリノ?」
おお? エルリック王子が珍しいくらいにドヤ顔だな。
「うん、知りたい!」
「だったら、教えてあげるよ……」
パチン、と王子の指が鳴った。
「ガブリエル!」
「ほーい! お待たせアルー!」
ガブさんは今度は、なにやら半透明のカラフルなツブツブが入ったお茶らしきものを人数分、両手に抱えて持ってきたのだった。
「タピオカ・マテミルクティーなのアル!」




