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17-7. ウェディングスチルと大湿原(2)

「うわあ…… ついにきた!」


 海から陸地に入って、いくつもの街や森の上を飛んで、数十分。教えてもらわなくても、すぐにわかった。

 見渡すかぎり、ほとんど水だ。そのなかに点々と、草におおわれた島や、森が浮かんでる ――


「ここがファンタナールか……!」


「をんをんをんをんっ♪」


 チロルの解説によると 【今は雨季なので、こんな感じですww】 ってことらしい。


【乾季には、だだっ広い緑の草原のなかにいくすじもの川やハート型の湖なんかが見えますww】


「ハート型、好きだな!?」


【乙女かわいいでしょww】


 言われると、乾季の景色も気になってくる。けど……

 この 『ひたすら水!』 な光景には、やっぱり感動しないではいられないよね!


「地球は水の星だった……」


「なにを今さら当たり前のことを」


「でもでもー。ほんとに神秘的だよねー!」


「エルミアさんさんのほうが神秘的でキレイだよ?」


「やだーハロルド(はっち)ったらー! 人の前でばっかり、そんなホントのこといっちゃってー!」


 小型飛行機の速度が少し落ちた ―― と思ったら。

 すぐ下を真っ白な大きな鳥がたくさん飛んでる。長い首のクニュッとしたラインや透き通りそうに薄く大きい翼がきれいだ。


【ダイサギですww】


 ダイサギの群れの上を通りすぎてしばらくすると、高度と速度がまた、ぐっとさがった。


「おっと……」


「わー! すごーい!」


 エルミアさん(ルミたん)が、落ちそうなほどに身を乗り出した。

 この小型機はチロルいわく 【観光優先】 の仕様だそうで、窓から頭も出せるし体感加速度(G)はカットされるのだ。

 俺もエルミアさんの真似をして、顔を機外に出してみた。しっとりした空気が押し寄せてくるみたいだ。濃い雨のにおいと緑のにおい。それに、甘いバナナっぽいにおいもする。なにかの花かな……?


【ちょっと下を見てくださいww】


「ほんとすごいよー! ヴぇっちもハロルド(はっち)もジョナたまもみてー!」


「おおおっ……!?」


 下を見て、めちゃくちゃびっくりした。

 ―― 島だと思っていたところは、ワニの巣 (?) だったのだ。

 100匹…… いや、200匹かな? 草と水の境目のところに、ぎっちぎちに密集している。黒く光る皮が折り重なるみたいにして延々、連なっている。


「これでバッグ作ったら、すごそー!」


「えっこんな平和なやつらを……!?」


 そう。ワニって獰猛(どうもう)なイメージだったけど、実際のやつらは、単にのたくってるだけだった。

 すぐ目の前で、さっきのダイサギに似た黒と白の色の混じった鳥が、熱心に水の中をつついていても、まるっきり無視して寝てる。休日の父さんっぽい。

 それに、ワニの背中では、灰色の小さい鳥がのんびり羽を休めているし。上から見たらちょっとした飾りみたいだ。


「いやいやいや。こいつら肉食ってきいてたけど、なに? ウソなの?」


【肉食ですよwwww あと、ワニ皮のバッグは、お土産店にありますww ゲームですから実際には殺してませんし、割安ですので、ぜひどうぞww】


「やったー! ゲーム最高ー! ねーハロルド(はっち)?」


「ふふ。そんなものがほしいなら、いくらでも買ってあげるよ、エルミアさんさん」


「きゃー! ハロルド(はっち)大好きー!」


 そのあとハロルドがボソボソとエルミアさんに何か言って、エルミアさんが嬉しそうに笑ったから…… きっと、またコッソリとディスってたんだろう。


「俺はワニのフィギュアがいいな。小さい恐竜みたいでカッコいい! ストラップとかないの?」


【ありますよww 初代もふもふガイド犬(ちちふさくん)つきですけどww】


「おっ、ちちふさくんつき! 買うしかないな!? な、ジョナス!?」


「遠回しにねだるとは、あさましい。さすがは平民女 「えっ…… もしかして、買ってくれんの!?」


 まさかジョナスから、買ってくれそうな反応があるとは思わなかった…… 優しくてなんかこわい。


「やった! オトコマエだなジョナスっ」


「 ………… 」


 両手をとって感謝したのに、黙ってぷいっと横を向かれてしまった。

 そうそう、優しいジョナスもいいけど、やっぱり、いつものこの反応がね! なんだか、ほっとするよ!


 ―― ともかくも、お土産が決まったところで。


『ヴェリノさん、ジョナスさん、エルミアさん(ルミたん)さん、ハロルドさん』


 サクラから無線が入った。


『もうすぐエンディー高原なので、振り袖に着替えてくださいね』


 今回のファンタナール旅行の目的のひとつは、ウェディングスチルを撮ることだ。

 サクラの提案で、和装とウェディングドレスの2種類を、この広大な自然の中で撮りまくることになっている。


 そのまず最初が、ファンタナール外れのエンディー高原。

 切り立った崖を背景にそれぞれの機で自動撮影されたものを、あとで1枚につなげる予定だそうだ。


『そろそろですよ。3、2、1でポーズをとってください』


 サクラのガイドに合わせて、あらかじめポーズしておく。長い袖に描かれてるいろんな花や扇の細かい模様までよく見えるように…… 

 顔の下で両手クロスだ!


「ヴぇっちー! 和製魔法少女っぽいー!」


「だろ? こういうの何て言ったっけ? ほら、臨兵闘者皆陣列在前! みたいな」


「えーと? わかんないー! けど、わかるー! かっこいーよねー!」


 あたしもやろっと、と、エルミアさんも同じポーズになった。

 そういえば、エルミアさんの振り袖は今回が初だな (お正月はドレスだった) ―― 白から薄い青のグラデーションの地に、雪山と松が描かれている。模様というより、1枚の絵みたいになってて、大胆な感じだ。


『では、いきますね。3、2、…… 』


 と、ここで。

 輝くようにあざやかな、赤と青のなにかが、窓の外を横切った。


 真ん中が炎よりも明るく強い赤で、先っぽが紫がかったブルー ―― 大きな翼。

 とってもカラフルな鳥が2羽、つかず離れず、といった感じで、俺たちと一緒に飛んでくれている。


『…… 1、はい』


「わーい! 初スチルー!」


「おーい、イヅナにエルリックにミシェル! それから、エリザとサクラも! 鳥、見えてる?」


『おう!』 『もちろん見えているよ』 『お姉ちゃんっ! 鳥さんキレイだねっ』


 イヅナたちは、うまくやってるみたいだな。


 『あれはベニコンゴウインコね』 『カップルなんでしょうか』


 エリザが博識なところを見せた。サクラは 『ばっちりいい感じですね』 と嬉しそうだ。

(あとでサクラが見せてくれたスチルには、巨大な崖と宝石みたいな鳥、そして機ごとにノリが違う俺たちが確かにバッチリ写っていた。)


 ウェディングドレスに着替えてもう1枚、鳥たちとスチルをとったあと、小型飛行機は再び速度をあげて、次のポイントに向かった。


 次は ―― この高原で最長の滝。その名も 『花嫁のヴェール』 というらしい。

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

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― 新着の感想 ―
[一言] 着実にジョナスがデレてきている( ˘ω˘ )
[一言] キャラが立っていて、みんな楽しそうです。
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