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17-6. ウェディングスチルと大湿原(1)

【ファンタナールww 地球最大級の湿原 ―― 正確には、雨季の間の約半年は水につかってしまうという旧ブラジル近辺の大平原 『パンタナール』 を模していますww】


「なんつう安直なネーミング!」


【wwwwww】


 もふもふガイド犬のチロルから講習を受けつつ、エリザ、サクラ、エルミアさん(ルミたん)と豪華客船で1週間ほど女子旅 (俺も女の子で良かった!) を楽しんで、海の中の島に到着したのは、昨日のこと ――


 デッキに出たとたんに一瞬、モワッとした熱気に包まれた。


【南半球のイメージですのでww ただいま3月は、雨季で気温は40度近くですww】


「先に言ってよ!」


【すみませんwwww】


 みんなで急いで服を着替えた。俺とエリザとサクラは、昔エルリックとジョナスからプレゼントされたカウボーイスタイルだ。


「どーしよー! そんなの持ってないー!」 と、体操服を着ようとするエルミアさん(ルミたん)には、サクラがデザインした牧場の制服(白) を貸してあげた。

 透き通るみたいな緑の髪に、意外なほどよく似合うな。


エルミアさん(ルミたん)まじ妖精っぽい! なあ、エリザ?」


「ふんっ…… ま、似合ってないこともないと認めてあげてもよくってよ!?」


「ふっふーん。こー見えても、エルフタイプだからねー? それにしても、これいーねー? 着やすいし!」


「ありがとうございます」


 サクラ、嬉しそうだな。

 コンペには落ちた (たぶんオトナの事情ですよ、とミシェルが言ってた) 制服だけど、俺たちの間では一番だ。


 着替えたところで、小型飛行機に乗り換えて、いよいよファンタナールに向かう。


 男の子たちとは、向こうのロッジで合流する約束にしてたんだけど……


「やあ、ヴェリノにエリザにサクラ」 「お姉ちゃんっ!」 「おっ、偶然だな、サクラ! みんも!」 「…… エルミアさんさん? 船旅は楽しかった?」


 空港でばったり、鉢合わせしてしまった。


「うわ。エルリックにミシェルにイヅナにハロルドも!」


「カホールモ!」


「おう、カホールも、よくきたな! …… みんな、今ついたところ?」


「数時間前にね。ジョナスが、私たちが疲れないように休憩を提案してくれたんだ」


「わー! ジョナス、さすがだな!?」


「…… はて。当然のことをしたまでですが。王子の体調管理も義務ですからね」


「えええ……? 俺たちに合わせてくれたんじゃなかったの!?」


「どうしてなぜわざわざ、そのようなことをする必要があるのでしょうか。身の程を知りなさい、この平民女が」


「こう言ってはいるけれど、ジョナスは出発前から一生けん」


 言い終わる前に、エルリック王子の口にジョナスが丸くて大きい焦げ茶色のなにかを無理やり突っ込んだ。


「どうぞ。空港のお土産店で購入した名物のチョコレート菓子です。コーヒーもございますが、いかがしましょう」


「―― 私も、もらってもいいかな?」


「どうぞ、アリヤ船長」


 少し間をおいて悠々と姿をあらわしたのは、イケオジだった。いつものビシッとした船長服ではなく、そでと首が広く開いた白シャツにゆるっとしたハーフパンツ姿だ。全身で休暇を表現している。


「いつも思うんだけど船長、都合良すぎない?」


【それは、乙女ゲームですからww 愛しい彼女が旅行いくっていったらww 無理してでも合わせるでしょうww】


「なんかいま、モヤッとした」


【wwwwww】


 俺とチロルがコソコソやりあってる間にも、船長はジョナスからもらったチョコレートとコーヒーをゆったりと味わって、エリザに 「ペンギンの群れは見た?」 などと聞いている。

 船長と違って、エリザは固まってるなぁ…… 「見ましたけどなにか!?」 っていうのが精一杯みたいだ。

 せめて 『あたくしよりもペンギンなんかが気になるの?』 くらい言ってあげればいいのに。


「久々の(ナマ)船長だから、無理だと思いますよ」


 サクラが俺だけに聞こえるように呟いたとおりだ。正月には結局、巨大スクリーンに映ったビッグサイズの船長しか見ていないことを考えれば……

 エリザが生船長(ナマせんちょう)に会うのは、クリスマス以来、まる3ヵ月ぶり、ってことになる。

 

「ですけど、これはこれで素敵ですよね」


 緊張の全然とれてないエリザと、そんなエリザを温かく見守る船長を、サクラは何枚もスチルに撮ったのだった。


 ―― そうこうしているうちに、小型飛行機の搭乗時間が近づいてきた。

 この海の中の島からファンタナール空港までは、小型飛行機しか運航していないのだ。もちろん、全員いっぺんには乗れない。

 3グループにわかれるために、くじを引いた結果 ――


「わーい! ヴぇっちといっしょー! よろしくねー!」


「僕もだ。ああでも、僕のことなんて気にしてくれなくていいよ? 僕も気にしないからね」


「はい。ぜひそれでよろしくお願いしやす……!」


 なんとヤンデレの吸引力なのか、エルミアさん(ルミたん)とハロルドと俺が一緒になってしまった。


(あくまでイメージだけど) ハロルドに密かに毒盛られないように、ひたすらペコペコしていたら、頭をポン、と誰かに押さえられた。


「気にせずに済むように、機内での言動には気をつけていただきたいものですね、ハロルド」


「ジョナス……!」


 頼もしい…… めちゃくちゃ頼もしく聞こえるよ、この冷酷そのものの口調が!


「ジョナスぅ…… よく来てくれた……! 俺もう、めちゃくちゃ不安で……!」


「別にあなたのために来たわけではありませんが」


「うん知ってる! それでも、ありがとう!」


 心を込めて頭にのせられた手をうりうりしながら礼を言うと、ジョナスから不意に 「うっ……」 という声が漏れた。


「―― 失礼。少し眼鏡の調子がおかしいようですので、調整して参ります」


「そっかあ。まだ搭乗まで時間あるし、しっかり眼鏡なおしてきてね!」


「…… あなたごときに言われるまでもありませんとも、ではのちほど」


 早口で言って早足で去っていく ―― よっぽど眼鏡が緊急事態なんだな、ジョナス。

 その後ろ姿を見送って、なぜかエリザがこう呟いた。


「あら…… めずらしく素直だったわね」


「あのどこが!?」


「ふっ…… ヴェリノにはわからないわよね」 


「そこがヴェリノさんの良いとこですよね」


 アゴを上げて斜め下にみおろしてくるエリザと、フォローしてくれるサクラ、それにアリヤ船長が同じグループ。

 イヅナとは同じじゃなかったけど、サクラは 「特等席です」 と嬉しそうだ。


 残りの1グループがイヅナ、エルリック王子、ミシェルになった。


「ジョナスばっかり、ずるぅぅぅい!」 と、文句をいうのはやっぱり、ミシェルだ。


「ボクもお姉ちゃんと一緒がよかった!」


「ミシェル…… ハロルドが一緒だから、今回はガマンだ、な? お姉ちゃんは、ミシェルを危険な目にあわせたくない」


「うっうぐっ…… ボクだって、ハロルドに時限爆弾仕掛けることくらいできるもんっ!」


「いやそれすると、ニコニコしながら核ミサイルぶっぱなされそうだからやめとこうな、ミシェル」


「うっうっひくっ…… そ、その前にっ…… ぐすっ…… 爆弾のスイッチ押しちゃうもん…… あっ」


 やっと戻ってきたジョナスが、片手でミシェルの襟首をつかんで持ち上げた。怪力だ。


「不毛でハタ迷惑なことしか考えないとは、さすが幼児ですね」


「違うもんっ…… ああっ」


「おっと」


 ぽいっ、と放り投げられて、すぽん、とエルリックの腕の中に収まるミシェル。

 尊いです、とサクラがすかさずスチルを撮ったとき ―― やっと、搭乗時刻になった。


「俺、エルミアさん(ルミたん)と並んで座りたい!」


「あたしもー!」


「どうぞお好きに」


「エルミアさんさん……?」


 みたいなやりとりのあと、グッパで別れてみたら結局は、俺とジョナスとチロルが前のシート、エルミアさんと寡黙なガイド犬のナスカくんとハロルドが後ろのシート、っていういつもと変わらない感じにおさまって、いよいよ出発。


 まずは空から、大湿原を観光するのだ。


 ―― 小型機のプロペラがまわる音を聞きながら、高速で動く景色をしばらく見ていると ――

 やがて、ふわり、と浮き上がる感覚があった。

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[良い点] それにしても…… 安定してるなぁ、サクラは笑 [一言] も、もしや次回はジョナ様回?? (*'▽')?
[一言] ファンタナール、検索検索……うわぁ行ってみたい!!!!
[一言] 空から湿原観光。 これもそうはできなさそうです。
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