17-3. カウントダウンとお正月(3)
豪華客船で行く世界遺産の旅。
ブリリアント砂漠 7泊8日の旅。
1日月面生活体験。
ミラクルリゾート1ヵ月フリーパス。
―― 敗者復活戦の景品は、旅行関係に片寄っているらしい。本選よりも豪華な気がする ――
「あっ、俺、ビンゴ!!!」
気づいたら、穴がちょうど真ん中、横1列でキレイに開いていた。
景品のほうにびっくりしてて、リーチになったのに気づいてなかったんだ。なんか得した気分!
「良かったね、お姉ちゃん!」 「やっぱりね」 「隠れ幸運値……」 「ヴェリノぉっ! やったな!」 「さっさと行きなさい。ほかのみなさんに迷惑ですよ」 「おめでとう、ヴェリノ」 「をんをんをんをんっ♪」
みんなからお祝いしてもらえるのって、やっぱり嬉しいな!
「はいはいはいはい! 俺、ヴェリノです! じゃなかった、ビンゴです!」
コタツテーブルの間を、スクリーン前に進み出た。スポットライトが当たるのが、まぶしくて、ドキドキする。
―― 何が当たるんだろう?
「おめでとう、ヴェリノ」
巨大スクリーンいっぱいにイケオジ、アリヤ船長がほほえんだ。
「君への景品は、これだ。 『豪華客船で行く、ファンタナール ―― 世界最大の湿原への旅』 ……!」
ファンタナール!
なんだか喉が乾きそうなネーミングだな、ってちらっと思ったけど…… それ以上に、割かし豪華っぽい景品がもらえたことが感動だ。
「ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです……!」
巨大な引換カードを両手で受け取って、タキシードの係員NPCが差し出したマイクに向かってひとこと感想。
俺の声がかまくらの中と豪華客船で二重に響くのが、変な感じだ。
「みなさんで、楽しんできてください」
「はい! ありがとうございます!」
なんと、みんなでいけるんだ!
いくしかないよね、これは!
もう1回お礼を言って、係員に巨大なカードと引き換えに本物のチケットをもらう。『同行者3名まで無料』 か…… だったら、もう誘う相手は決まったな。
席に戻って、サクラとエリザ、それにエルミアさんにチケットを見せた。
「ねえねえ! みんなでいこーよ!」
「えー! あたしも行って、いーのー?」
「もちろんだ、エルミアさん」
「やったー! ハロルドも聞いたよね? あたし、絶対行くー! ありがとヴぇっちー!」
「はっはっはっ。そんなに喜んでくれるとは、嬉しいな」
「 ………… 」
ハロルドが無言でにこやかな顔を俺に向け (ろくでもないこと考えてそう) 、エリザが 「仕方ないわね、行ってあげても良くってよ!」 と扇をやたらとパタパタさせる一方で、サクラが遠慮がちに首をかしげた。
「でも…… わたしたちより、男の子を誘わなくていいんですか?」
「え? 今さらその発想になるの?」
「いいえ、一応ですけど……」
「だよな!」
サクラが俺と顔を見合わせて、ふふっ、と笑った。
―― そう。エルリックたちはみんな、きっと俺たちを追いかけてきてくれるはず。
修学旅行のときにえげつなく改装した、王子専用のジャンボジェットで……! (確信)
「行くとしたら、やっぱり3月かな。春休み!」
「春休みでもいいわよ? けど、ウェディングスチル撮影はどうするのかしら?」
「んぐっ…… げほっ。あっ、それもあったか……」
エリザに指摘されて、俺は食べかけてたマンゴーをうっかり丸のみしてしまった。
―― クリスマスに、みんなでいっせいにプロポーズを断ったために見られなくなった結婚式イベント。その代わりに、みんなで豪華ウェディングドレスを着てスチルを撮影する ―― それが今度の春休みの目標だったのだ。
それも、ただの撮影会じゃなくて 『これまでの思い出の場所を全部めぐろう!』 って、このスキー合宿の間もしばしば、みんなと話し合っていたんだ。
旅行チケット当選が嬉しくて、一瞬、頭から抜け落ちちゃってたけど…… たしかに、世界最大の湿原なんて、行ってみたすぎるけど……
「友だちに喜んでもらうより大事なことって、このゲームにあるんだろうか……?」
「バカね。あなたのゲームでもあるでしょ。好きにしなさいよ」
「でもなぁ…… サクラにもエリザにも、これまでめちゃくちゃ、お世話になってるしなぁ…… やっぱり一番喜んでほしい……」
みんなで行った思い出の場所を巡って、もう一度がっつり遊んでスチル撮影 ―― っていうのを言い出したのはサクラで、俺たちみんな 『楽しそう!』 って賛成してたんだよな。ラストはエルリックの城でパーティーだ。
それを今さら、やめるだなんて言いにくいよ!
「なら…… えーと、その」
「どうした? サクラ?」
「あの…… 予定変更とか……」
言いにくそうにもじもじしてるサクラの肩に、イヅナがそっと手を掛けた。
「サクラ…… いつもみたいに、ハッキリ言ってもいいんだぞ?」
確かに。サクラって、穏やかそうに見えて実はけっこうシビアだ。でも、いったんは遠慮するところがいかにもヒロイン!
「そうよ。ハッキリおっしゃい。うっとおしい」
エリザに斜め上から見下ろされて、サクラはやっと、口を開いた。
「わたしとしては…… 思い出の地めぐりよりも、あっ、思い出は思い出で大切なんですけど…… 実は、世界最大の湿原でウェディングスチル撮るほうが嬉しいような……」
「そんなこと!」
エリザは、腰に手を当てばいーんと胸をそらすお得意のポーズで、おごそかにのたまったのだった。
「あたくしもよ!?」
「エリザ! サクラ!」
青い手乗り竜が、エルリック王子の肩で翼をパタパタさせて 「カホール モ!」 とアピールし、ミシェルが 「わーい! お姉ちゃんと旅行!」 とはしゃぎ、ジョナスが眼鏡をクイッとして 「…… 仕方ないですね」 とタメイキをつき、エルリック王子は 「決まりだね」 と、なぜだか俺をお姫様抱っこした。
「では…… 」
ビンゴ大会はいつの間にか終わって、アリヤ船長が 『今年も残り10秒となりました』 って司会してる。
「さあ、みんなでCOUNTDOWN!」