16-19. クリスマスの恒例イベント(6)
それぞれのプロポーズで。
エルリック王子は、キラキラエフェクトが超強化されていた。
ミシェルは、照れてぷにぷにのほっぺを赤くしながらも、幸せそうに笑っていた。
イヅナは、ちょっと緊張気味ではあったけど、いつもとそんなに変わりなかった。
だが、ジョナスは ――
なんか、暗い! どよんとしたオーラが背後に見える気がするくらい、暗い。
そして、いつもよりもさらに、真面目っぽい!
そして、内容が。
プロポーズというより、お説教だ!
「―― 公平に見るならば、結婚は必ずしも幸せとは限りません。わかりますね、ヴェリノ」
「…… まぁ、そうかな? よくわかんないけど……」
「とくに、私にとっての1番は王子であり、これはいかになにがあっても揺らぐことのない真実です。たとえ、ヴェリノ、あなたといえど、王子を超えることはあり得ない。よろしいですね?」
「うん、めちゃくちゃよく知ってる!」
「ですが…… ヴェリノが王子を大きく超えている点もあるのもまた、事実です。非常に残念ながら」
「えっ、うそ…… なになに!?」
俺が、パーフェクトで公平で優しいエルリック王子に勝ってる…… そんなとこがあるなんて!
俺、すごくない!?
「あー! だから、プロポーズしてくれてるんだ?」
「……っ! そうとも、いえますが…… 少しは恥じ入りなさい」
「ごめん話が全然見えない」
ジョナスはタメイキをつき、またうつむき加減に眼鏡をクイっとやった。
「ヴェリノ、あなたは…… 王子の千倍、手がかかるのですが。まさか全く気が付かなかったのでしょうか」
「うん!」
そっかぁ…… ジョナス的には、王子の千倍も手をかけてくれてたんだな。
いつも見ててくれたのが、イヤミ言うためだけじゃないことくらい…… 俺だってもう、わかってる。
ジョナスがいなければ、俺がゲームオーバーを迎える頻度は、格段に上がっていただろう……!
「ジョナス。今までありがとう! そして、これからもよろしく……!」
「…… まだ、よろしくするとは言っておりませんが」
「えっ…… よろしくしてくれないの?」
「………… しないなどと、ひとことも言っておりませんが」
「だよね! ありがとう! やっぱりジョナスは親切だな!」
「ああただし」
ジョナスは眼鏡をクイっと指で押し上げ、俺から目をそらしたまま、一気にしゃべりだした。
「私があなたの世話を一生焼き続けるとしてもそれは王子があなたのことをプロポーズなどという不祥事をおかしてしまうほど大変に気に入っておられるからであり私自身が心配で見てられないからつい手を出してしまうなどというわけでは全くありませんからその点をきちんとわきまえておいてくださいヴェリノあなたはあくまで永遠の2番ですから」
―― 運動会に引き続き、肺の使用記録を更新しちゃったね、ジョナス!
俺はジョナスの手を両手でガッチリと握った。
「ありがとう、ありがとうジョナス! これからも、俺の世話を焼き続けてください!」
「わかったから放しなさい」
ジョナスは俺から離れると、エルリック王子の左側ですっごく嫌そうに花束を捧げ持った。
「さあ、これで、全てのプロポーズが終わりました…… さて。ヴェリノさんの返事は? それから、エリザさんもそろそろ、硬直状態解除してくださいね」
ノってるなぁ、サクラ。
「全員OKでもいいですよ、ヴェリノさん」
それが、サクラとエリザの望みだということは、俺も知ってる。
全員で仲良くウェディングエンドを迎えたい ――
そのために、俺たちは今まで楽しく頑張ってきた。
だが ――
もし、それ以上の希望を、俺が持っちゃったら?
―― 俺はけっこう流されやすくて、八方美人で、それは、オンラインでしか出会わない友だちと気持ち良くすごすためには、だいじなことだし、けっこう楽しくもある。
だけど、このゲームで出会った仲間たちと、築いた関係…… ワガママ言ったり言われたり、失敗してフォローしてもらったり、逆にフォローしてあげたり。腹が立つことがあっても、一緒に遊んでるうちにいつの間にか忘れて、どうでもいいや、って気持ちに自然になっちゃってる。
そんな関係は、もっとだいじで、もっと楽しかった。
―― ずっと、エンディングなんて迎えたくない。
どんなハッピーなエンドでも、それで終わりじゃ、ハッピーだと思えない。
成功するかはわからない。
もしかして、失敗して、全てが台無しになるかもしれない。
けど、それでも、俺は試してみたい ――
だって、失敗したら確実に、エリザやサクラに怒られるとは思うんだけど……
このままじゃ、終わりがきちゃうだけだもんね ――!
それに、失敗しても、エリザやサクラなら確実に、良い対処法を俺と一緒に考えてくれるに、違いないんだ。
「さあ、ヴェリノさん。お返事を……!」
サクラも、男の子たちも、ものすごい期待してるっぽい目で、こっちを見てる。
(ジョナスまでが、ややそらし気味ながら、たまに微妙な横目でチラ見してきてる。)
そして、やっと硬直状態が解けたらしいエリザも、アリヤ船長への返事を忘れてこっちに注目してる。
(アリヤ船長は、そんなエリザにデレデレの目線を送っている…… やっぱりイヅナの叔父さんなんだな。)
―― よし。言おう。
俺は、覚悟を決め……
全員に、頭を下げた。
「 ―― ごめんなさい! 」