16-13. クリスマスパーティー(3)
「いやあ、エルミアさんって、すごい子だなぁ……」
ハロルドの外面にだまされなかったのに、ハロルドと付き合えてるって…… 核戦争前でいうなら 『レッドリスト掲載レベルの絶滅危惧種』 って感じだろうか。
(ちなみに今のリアルでは絶滅危惧種は全然、珍しくなかったりする)
「そんなことないよ?」
ちゃらっちゃっちゃー、と華やかな曲に合わせて、見た目イイ感じだが本気で踊る気ゼロで揺れながら、ハロルドが首をかしげた。
「頭が軽い、見た目どおりの女の子さ」
「それ、 『彼女のすごさは僕だけが知ってればいいんだ』 的なあれ? 妹の少女漫画で見たことある!」
「…… さぁ? なんのことだか」
曲はまだ続いているが、待ちきれなくなったんだろうか。
ミシェルがハロルドの礼装の裾を、くいっと引っ張った。
「もう代わってよねっ」
「どうぞ?」
ハロルド、今日一番のいい笑顔だな……。
「わーい! お姉ちゃんっ、よろしくねっ」
「おう!」
ミシェルとは身長差がありすぎるから、両手をつないでくるくるターンだ。
はぁぁぁっ、解放感!
ハロルドは実際にはイヤミ攻撃も毒霧噴射もしてこなかったけど、どうしても緊張しちゃうんだよな……。普段の行いが行いだけに。
向こうでは、エリザとエルリック王子が華麗なステップを披露している。イヅナとサクラも、いい雰囲気で癒されるな…… おっと、その向こうに見えるのは。
緑色の髪に、とんがった耳のエルフタイプの女の子。
「エルミアさん!」
「やっほー! ヴぇっちー!」
ダンスしながら、器用に片手を振り返してくれる。
パートナーは確か、エルミアさんと同じグループの王子キャラだ…… 確か、運動会で見掛けたな。
「ヴぇっちー! このたびは、ありがとねー!」
「いやー、こっちこそ! おかげで助かった!」
「どーいたしましてー!」
器用にステップを踏みながら、こっちに近づいてきてくれるエルミアさんたちを呆然と見ていたハロルドが、 「どうして」 と呟いた。
「旅に出るって…… ウソだったのかな……」
「いや、ウソじゃないぞ! 俺も聞いたし!」
ただ、それが割かし短期間だった、ってだけの話だ。
―――― このクリスマスパーティーでのエスコートを俺がハロルドに頼んだ理由。
それはなにも、俺たちのグループ内のイザコザを回避するためだけでは、なかったのだ。
俺が最初に相談したとき、エルミアさんは寮の部屋中をジタバタと、ころげまわっていた。
「あたしもー、ヴぇっちたちと学園のクリスマスパーティー行きたいー! でもハロルドが、そんなのヤダってきいてくんないのー!」
「エスコート役、ほかの子に頼めば?」
「でもでも、やっぱりハロルドも一緒がいいよー! 平気な顔してるけど、ひとりにすると絶対にいじけちゃって超かわいい…… かわいそうだからー!」
それからエルミアさんは、 『どーしよー! いじけてるハロルドもじっくり楽しみたいけど、そのままじゃ、かわいそーだしー?』 と、ひとしきり悩み……
そして、俺たちはお互いに協力しあうことに決まったのだった。
俺は、ハロルドにエスコート役を頼むことで、グループの男の子たちの仲が悪くなるのを防ぐととともに、ハロルドを学園のクリスマスパーティーに引っ張り出す。
いっぽう、エルミアさんは、ほんのちょっと旅に出て、ハロルドを適度にいじけさせたあと、エスコート役とのファーストダンスに間に合うように帰ってくる。
ファーストダンスが終わったら、ハロルドはエルミアさんに引き渡して、みんなで楽しくパーティーだ。
これが。
エルミアさんとふたりで 『完璧ぃ!』 と盛り上がった、 『みんな仲良しクリスマス大作戦』 の全容なのである! ――――
「やっほー! ヴぇっち! うまくいったねー!」
「おう! さすが、俺とエルミアさんだよな! ほれ、ハロルド。待たせたが本命登場、ってやつだよね? 俺のことはもういいから、エルミアさんと自由にしてくれ!」
「あー、でもねー、ジョーたんに悪いからー」
隣のエスコート役を、横目でチラッと見上げるエルミアさん。半端ないキラキラエフェクトからすると、王子ポジションみたいだ。
―― ハロルド、口元にはまだ、柔らかな微笑みをキープしてるけど…… 目の奥の底知れなさは増してるな。
絶対に内心では 『ここまで僕をコケにするなんて…… お仕置きだね』 とか思ってそう! (エルミアさんの作戦どおりだ!)
「ねー、はっちー! はっちとー、ジョーたんとー、3人でー! いっぱい、いっぱい、遊ぼーねー!」
「……………… わかったよ。仕方ないね」
「わー、やったー! ハロルド大好きー! ジョーたんも好きー! 両手に花ー! なんちってー!」
こうしてエルミアさんは、大満足でパーティーの人混みに紛れていった…… 同志よ、また会おう (なんちってー!)
「さて。じゃ、ミシェル。俺たちはローストビーフで乾杯しよう!」
「チーズとポテトもねっ。ボクの領地から直送だよ、お姉ちゃん」
「もちろん! 楽しみだなー!」
さっき目を付けた、激美味そうな肉の近くのスタンドテーブルにはもう、ジョナスにエルリックにイヅナにサクラにエリザ…… 俺たちのグループの仲間が集まってきている。
「飲み物は…… と、サイダー味のポーションでいいかな」
「お姉ちゃん、ボク持つねっ」
「おっ、ミシェル。頼りになるな!」
全員分の飲み物の乗ったお盆を、とんでもなく真剣な顔してそろりそろりと運ぶミシェル。
―― 手伝ってあげたいけど、ここは応援しながら見守るべきだよね。幼児にだってプライドはあるんだから……
「皆をどれだけ待たせる気ですか?」
「あっ、ジョナス! それはミシェルが……!」
「何を間抜けたことを。できる者がさっさと運べばいいでしょう」
お盆は一瞬で、ミシェルの手からジョナスの手に渡ってしまった……
片手でお盆を支え、スタスタと席に戻っていくジョナスの背中をうらめしそうに見つめる大きな緑の瞳に、みるみるうちに涙がたまっていく。
「ふぇ…… ぼ、ぼく…… ぼくが……」
「あーほら、泣かない泣かない! 抱っこしてあげるから! ミシェルはよく頑張った!」
「お姉ちゃぁぁん……!」
首にぎゅうっと抱きついてくれるの、かわいいなぁ……
「ヴェリノ! コッチ! ミシェル、ズッルゥゥイ! オリテヨネ!」
カホールがパタパタ周りを飛びながら抗議しても、ミシェルは俺にしがみついたままだった。
「ほい、ついたぞ。おりて」
「やだ! お姉ちゃんがいい!」
結局、ミシェルを抱っこしたままみんなと乾杯することになった。
みんなでグラスをかかげ (俺はグラスを2つ持ったミシェルをよいしょっと持ち上げ) て、声を揃える。
「「「「「メリークリスマス!!!!」」」」」
何百年も前の人たちが祝ってたのと同じ掛け声……
リアルではやらないだけに、なんか感動するなぁ!
ホールのあちこちで、同じ掛け声が次々に上がっているのも、賑やかで楽しくて嬉しい。
だが ――――
このとき、 『メリークリスマス』 の声のほかに、あちこちで起こっている掛け声 (?) がもうひとつ、あった。