16-4. 期末考査と勉強会(1)
12月に入ると学園は、クリスマスっぽい飾り付けで、いっぱいになった。
柱の1つ1つに、赤いリボンのついた金のベルやリースが下げられ、あちこちにクリスマスツリーが立てられている。
どのツリーも、いろんな色のチカチカ光る星とリボンとオーナメント、それに雪でいろどられていて、見てるだけで楽しい。
リアルでは、クリスマスは 『ケーキとプレゼントの日』 としてだけ残っていて、お祝いも飾り付けもそんなに派手じゃないんだけど……
このゲームで採用されてる 『伝統的なクリスマスの飾りつけ』 は、賑やかできれいで暖かい感じがして、ほんっといいよね!
なんか、学園中に幸せがあふれてる……!
―――― だが。
ランチのために廊下を移動中の俺たちの関心は今のところ、クリスマスではなく。
「お姉ちゃん、今日はお弁当じゃないんでしょ?
ボク、ごちそうするねっ。クリスマスメニューが始まったけど、まだクリスマスには早いからまた今度で…… 旬の野菜たっぷりのフルコースとかどう?」
「うぉぉぉい、ミシェル…… まじ天使! 最近、財政がちょっとキツくてさ」
「え? 最近…… ですか?」
「ごめん、いつもだ、サクラ」
「ふっ…… いざというときには、あたくしが助けてあげても良くってよ? みじめたらしくお願いできるならね! おーっほほほほほ!」
「わぁお! エリザも天使! するするする、お願いでもなんでもしちゃうから、そのときにはよろしく!」
…… って感じで、今の関心事は80%がランチ。
そして、残りの20%が……
「ヴェリノ。期末考査、もうすぐだね」
「そうだなー、エルリック。…… もー早く、解放されたいな」
「でも首席確定だろ!? 頑張れよ」
「おう、イヅナ。すごい頑張ってるぞ!」
―― 12月半ばから始まる、期末考査、である。
リアルの学校と違い、参加しなくても別にかまわないテストに、なにが嬉しくてエントリーしちゃったのか…… というと、原因はただひとつ。
マジカルーン湖でウッカリ授かった、女神さまのチートアイテム。やたらとゴテゴテした 『叡知の首飾り』 のせいなのだ……!
身に付けるとテストでは必ず首席をとれるらしい。
が、何度もいうけど、ウッカリなのだ。
湖ダイブは俺の感謝をあらわすためで、テストのためじゃなかった。首席なにそれ、美味しいの?
―― ちなみに、そのせいでジョナスは 「最初からアイテムを狙って湖ダイブしたのかと思いましたが…… 私としたことが、ヴェリノを買い被ってしまうなど。…… 本当に、ありえませんでしたね」 と、なにかを超反省して、メンテナンスに行ってしまった。
そして 『叡知の首飾り』 は確かに、激レア・チートアイテムには違いないが…… 同時に、俺にとってはけっこうな 『呪い』 のアイテムであることも、やがて発覚したのだった。
『勉強』 のスキルレベルがすごく上がりますよ、とサクラに提案されて期末考査へのエントリーを決め、そいつを首にかけると……
そいつは、首から離れなくなったのだ。
以後、ゲームにログインしたとたんに、自動装着である (呪われたアイテムあるある) 。
「あーもー! たまには遊びた…… いたっ…… チクッとするなよ、エイちゃん! 本当に遊んだわけじゃないだろうが!」
かつ、そいつ (命名・エイちゃん) は、勉強をサボると静電気を発する。
おかげで俺は、このゲームでは一生買わないだろうと思ってた参考書や単語カードを買って (おかげで金欠!) 、廊下を歩いているときも英単語や歴史年表を覚えることになったのだった。
「すみません、そんなアイテムと知っていたら、期末考査へのエントリーを勧めなかったんですけど」
「いや、サクラ、大丈夫だ! 勉強するのはリアルの学校の期末テスト内容と一緒でいいから、すごく役に立ってる…… けど、なんでゲームの中でまで勉強」
「をんっ♪」
【ゲームにハマりすぎて、リアルでの勉強を怠るプレイヤーへの救済措置だったんですよ、エイちゃんはww 人気がなさすぎたので確変してレアチートアイテム扱いになり、それから1年経たないうちにほぼ、忘れ去られましたがww】
「人気がでないの超わかる! ……って、いたっ、エイちゃんゴメン! エイちゃんのおかげでリアルのテスト対策もばっちりだから、怒んないで!」
これは本当で、エイちゃんは俺が参考書を見てると、大切な部分でドクロを光らせて教えてくれるから、すごく勉強しやすいんだよね。
おかげで、リアルではもうテスト勉強はいらない。だけど、ゲームしてる間はほとんど勉強だから……
「おかげでリアルでは、動画見る時間と妹の少女漫画読む時間が増えたよ! エイちゃん、ありがとな!」
エイちゃんのドクロが、返事してるみたいにゆっくりと光ったり消えたりを繰り返した。
ミシェルが、俺の腕にぶらさがる。
「じゃあお姉ちゃん、今日の放課後は、ボクの家で勉強会しよっ」
「おおっ、ミシェル! さらに天使……!」
「勉強会なら、私も参加したいね」
「いくら王子でも、ダメですよっ。ボクはお姉ちゃんとふたりきりがいいんです!」
「そう、じゃあ仕方ないね…… そういえば話は違うけれど、クリスマスの晩餐会で使う大量の野菜とソーセージと生ハムとクリームの発注先を見直すべきか、料理長から相談されていたんだったっけ。もっと近場でないと、もし大雪になれば、調達できなくなる可能性があるから、と……」
「うっ…… ううっ……」
エルリック…… すっごい残念そうな顔だが、野菜と云々って、もしかしなくても、ミシェルの領地が普段は王家御用達だよな……
【ジョナスがいないから、ハメを外してるんですね、王子ww】
「うん、俺もそう思った」
チロルとコソコソ言い合ってると、ミシェルの手がふっと俺の腕から離れた。
両手を握りしめて、大きな緑の目に涙をいっぱいためてる幼児…… かわいそうだけど、かわいい!
「ずっるぅぅぅぅぅぅぅいぃぃぃぃぃぃい!!!」
ミシェルの絶叫が、クリスマス一色の廊下に響きわたり…… そして。
『放課後の勉強会 in ミシェルのタウン・ハウス』 は、ジョナスを除く全員参加、ってことに、なったのだった。




