16-2. 自分磨きと紅葉狩り(2)
「をんをんをんっ♪」
「きゃんきゃんきゃんっ」
「くぅーん……」
「ミンナ、マッテー!」
張り切るガイド犬たちと青い手乗り竜を追いかけて、ぜーはーしながらゆるやかに続く坂道をずっと登っていくと、急に景色が開けた。湖だ。
周りの木はどれもナチュラルな赤や黄色に色づいていて、それが鏡のような水面にも映っている。
上も、下も紅葉…… キャンプファイヤーの火を思い出すけど、それよりももっと、強くて明るい色合いだ。
サクラの提案した、御褒美のピクニック。それは……
『紅葉見物 & 焼き肉パーティー on 初めてのマジカルーン山』 だったのである ――――!
「一面の紅葉って、想像以上に圧巻! きれいだなぁ!」
「ほんとだね、お姉ちゃんっ!」
「ま、悪くはないわね!」
ミシェルもエリザも満足そうだし、サクラは早速、スチルを撮りまくってくれてるし…… みんなで遊ぶって、ほんといいよね!
「来てよかったですね」
「そうだな、サクラ。前のデートの時には、まだ緑だったからな!」
「そうでしたね、イヅナさん」
サクラとイヅナはどうやら、運動会後のデート、ここに来ていたようだ。けっこうロマンチックじゃん!
そんでもってアウトドアだし、イヅナの好みピッタリって感じだ。良かったなあ、イヅナ……
「おかげでヴェリノさんでもギリギリ登れそう、ってわかったんですよね。それに、行くなら11月末頃まで待ったほうが良さそう、っていうことも…… イヅナさんのおかげですね。本当に、ありがとうございます」
「いやぁ、サクラのためだから」
イヅナ、幸せそうだなぁ…… 和むなぁ……
それに、俺のために紅葉見物の下見を兼ねてくれてたとか……
「せっかくのデートにふたりして、俺のことを考えてくれてたのかぁ……! もうなんか、めちゃくちゃありがとう!!」
「いえ、いいんですよ、ヴェリノさん」
「そうだぞ、ヴェリノ! 友だちなんだからな!」
「俺、俺……! 大きくなったら、イヅナとサクラのカップル銅像建てるよ……!」
「えっ…… それはいいです」
サクラがあっさりと俺の抱負を断ったところで、エルリック王子が立ち止まり、俺たちを見回した。
「では、ここでお昼にしようか」
「すでにご用意しております」
キラキラエフェクトつきの笑顔を振りまくエルリック王子の後ろでは、ジョナスがバーベキューコンロの上に野菜と肉をせっせと並べている。
「今回は、トーホクブランド牛スペシャルです。センダイ牛、アオモリ・クライシ牛、イワテ・ミナミ……」
内ポケットから次々と出されるお肉たち…… きれいな赤身に、細かく入ったサシが芸術的だなぁ!
じゅっ、と油が落ちる音がして炭がぱあっと赤く燃え上がり、肉の焼ける香ばしい匂いがあたりに漂う…… おおおお、お腹が空くぅ!
「はい、ヴェリノ。取り皿だよ」
「お姉ちゃんっ、タレあげるねっ!」
「ありがとう!」
エルリックが配ってくれたお皿に、ミシェルがタレを入れてくれたら…… 宴の始まりじゃあああっ!
まずは乾杯。音頭をとってくれるのは、エルリック王子だ。
「ヴェリノのレベルアップと、サクラのデザイン入賞を祝して……」
そうなんだよね!
ミシェルの領地の制服デザイン、サクラ、ロープウェイ係員部門で入賞したんだよ!
―― これからは、ミシェルの領地に行けば、サクラのデザインを着た係員が見られる、ってわけ。
サクラはあくまでクールに 「牧場のほうはダメでしたから」 って言ってたから、これまでお祝いする雰囲気じゃなかったんだけど……。
やっぱり、すごいことだと思う!
ここでそのネタ持ち出してくれるエルリック、超好き!
「乾杯!」
「「「「かんぱーーーい!!!!」」」」
ソーダ味のポーションを飲み干して、いっぱい 「おめでとう!」 を言ったら、サクラは照れてるような嬉しそうな顔になった。
(もしかして 『牧場のほうダメだったので』 は一種のツンデレだったのか!?)
さて、次はいよいよ……
トーホクブランド牛スペシャルだ!
「うまい! あまいっ! やわらい!」
「肉ばかりでなく野菜も食べなさい」
ジョナスが焼けたシイタケとキャベツを皿に入れてくれた。うーん。シイタケの香りとぷにぷにした食感、甘みがあってシャキシャキしたキャベツで肉が 3倍うまい!
「いい景色の中で食べる豪華肉、超サイコーーーー!!!」
「をんをんをんをんっ」
【あっ、それ私が育てていた肉……ww】
「あーごめん! 代わりにこれあげるね、チロル」
【ありがとうございますwwww ちなみに育ててた云々はジョークですよww 私からは網の上は見えませんのでww】
チロルだけじゃなく、サクラのトイプードルも、エリザのパピヨン犬もみんなこんな感じで、はしゃいでる。
11月の間はずっと、遠出はせずに学園と家だけで頑張ってたからね。気持ちはわかるよ……!
それもみんな、俺のためなんだもんなぁ……
「俺、みんなに何かお礼したい!」
とたんに、みんなが一瞬、静かになった。
「…… 感謝の湖ダイブでしたら、けっこうよ」
「エリザ…… なぜそれを」
「ふん。あなたがその場しのぎで考える感謝なんて、そんなものでしょ、ヴェリノ」
「…… ですがヴェリノの頭では、それが我々にとって迷惑だというところまで想像できなくても不思議ではありません、エリザさま」
「えーっ、ジョナスまで! 迷惑かなぁ……」
良い方法だと思ったんだけどな。
『みんな、ありがとう!』 って叫びながら湖に飛び込むの。
海と違って溺れるほどの深さはなさそうだし、もしかして溺れても、結局は 1回ログアウトするだけだし…… 問題なくない?
だけど、反対したのはジョナスとエリザだけじゃなかった。
「…… 気持ちだけでいいよ」
エルリック王子が肉を飲み込んで優しい笑顔を見せ、ミシェルまでが肉をモゴモゴしながらウンウンうなずいている。
「そんなにダメかなぁ……?」
「いや、ヴェリノ! あんたがやるなら、オレもやるぜ!」
「イヅナ……! やっぱり、持つべきものは友だなぁ!」
「ふたりで飛び込むんでしょうか? なら、ちょっと待ってくださいね」
焼き肉の皿を置き、スチルカメラを構えてニッコリするのは、サクラ。
「さぁ、いつでもどうぞ! 個人的には、ふたりの手首をヒモでつないでくださると、とっても萌えます」
「…… そこまでする必要は、ないでしょう」
ジョナスもごとり、と皿を置いた。
「もう結構です。バカはバカどうし、飛び込むならさっさとしてしまいなさい」
「それはどうかと 「おう、ありがと、ジョナス!」
エルリック王子をさえぎって、俺はイヅナとうなずきあった。
「感謝の湖ダイブ!」
「どっちが先に飛び込むか!?」
「いざ、勝負! いちについて……」
皿をチロルの背中に置いて、かまえる。
秒読みをしてくれるのは、サクラだ。
「3、2、1 …… スタート!」
「みんな、ありがとぉぉぉおおおお!!!」
「サクラ、大好きだぁぁあああああ!!!」
俺とイヅナは、叫びながら湖に向かってダッシュし……
ばっしゃぁぁん! …… ばっしゃぁぁん!
―― ほぼ同時に、って言いたいけどそう言うには明らかに俺のほうが遅れて、冷たい水の中に飛び込んだのだった。