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5-1. 学園祭の準備(1)

「いいこと、狙うのは…… Bブロックよ! はずしたら、承知しなくてよ!」


 エリザの声援を背に、俺は、『ドキドキ☆屋台の場所くじ引き』 の箱に手をつっこんだ。

 ―― VRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 で5月6日に行われる学園祭。

 そこで俺たちは、ポーションと焼きそばの屋台をすることになった…… その出店の場所を決めているのが、いま、っていうわけ。

 俺とエリザとサクラと、NPC王子エルリック、ほかNPC男子3名。みんなでそろって、くじ引きで場所取りだ。

 

「どうか当たりますように当たりますように……!」


 Bブロックを引けるよう念じながら、俺は箱のなかを探る。

 手にあたる紙の感触。

 これじゃない…… いや、これも違う気が…… カサッ

 ……! なんか、これだ!


 直感が働いたくじを1枚拾い上げ、そっと開く…… 緊張するぅ!

 目をぎゅっと閉じていると 「あーら。あなたみたいな平民でも、やるときはやるのね?」 とエリザの悪役令嬢ふう誉め発言が聞こえてきた。

 ということは……!

 エルリック王子が俺の肩を優しくたたく。


「ヴェリノ、すごいね。Bブロックだよ」


「B-3ですよ、ヴェリノさん」


 サクラがやわらかい声で教えてくれる…… ほんとだ。


「やったね!」


 俺はバンザイした。飲食スペースがすぐ目の前の、良い位置だ。


「ヴェリノさん、すごいです!」 「やるじゃないか」 と、ほかのNPC男子も誉めてくれるし…… 嬉しいな。


【今ので 『幸運の使者見習い・初級』 の称号ゲットですよ!】


 チロルがもふもふのしっぽをフリフリして教えてくれた。


 さて。普通なら、くじ引きイベントはこれで終わってもいいだろう。

 だが、俺にはまだ、ミッションが残されている。

 『エルリック王子からの好意値をガン下げる』 という!

 ―― 俺はいま、エルリック王子に昼食をおごってもらいつつ、親しみを込めるフリをして王子をディスりまくり好意値をさげる (友情値は温存) という難易度の高いミッションを、自分に課しているところなのだ……!

 俺は親しげにエルリック王子の肩をバシッとはたいた (かなり痛いはず!)


「ほんっと、俺が運良くて、よかったよな! エルリック様ってば見た目はいいけど、ほんとのとこ、役立たずなんだもんな!」


「ああ…… すまない」


 俺がなにを言っても、エルリック王子の整った顔が歪むことはなく、穏やかにキラキラオーラが発される。さすがはトップNPC男子(攻略対象)といったところか……

 だが、きっと!

 その心中は、穏やかではないはずだ!

 つまり今日も、俺の 『好意値ガン下げミッション』 は成功ってわけだ!

 …… じつは最近、学園祭の準備が忙しく、時間ギリギリまで活動していることが多くて、ステータスの確認ができてないんだけど…… 

 確認するまでもなく、好意値ゼロ! うん、そうに違いない!


「エルリック様…… ヴェリノさんは、エルリック様に親しみを感じているだけですよ、きっと」 と、サクラがフォローしてくれる。

 サクラがこうしてフォローしてくれるおかげで、俺がいくらエルリック王子をディスっても、場の雰囲気が悪くならずに済んでるんだよな…… 本当に、ありがとう、サクラ。

 もちろん、サクラのほうも、こうすることでNPC男子(攻略対象)からの好意値ガン上げのはずだから…… Win-Winの関係ってことだね!


「ありがとう。サクラは優しいね」


「いえ、そんな……」


 ほら、サクラとエルリック王子、いい雰囲気!

 …… と、ここで、エリザが 『悪役令嬢』 ならではのムーヴをかます。


「ふっ、優しいのはけっこうですけど…… すぎるのは玉にキズじゃなくて?」


 エリザ、扇で口元を隠しながら、暴露を開始。


「あたくし、この前見たのですけど…… サクラさん、夜中に殿方と出掛けられてましたわ。一体、何をされていたのかしら?」


「…………」


 サクラが、目を見開き、手で口元を覆う。

 その肩が細かく震えている…… 俺は最近わかってきたんだが、これって、爆笑してるんだよな、じつは…… (リアル女子の演技力がすごすぎる件)


 エリザの嫌みが続く。


「サクラさんは可愛いかたですものね。お付き合いされてる殿方の2人や3人や4人、いらっしゃっても当然……」


「やめたまえ、エリザ。君らしくもない」


「…………っ!」


 エルリック王子にたしなめられて唇をかみしめ、きゅっとサクラをにらむエリザ。

 『悪役令嬢』 今日も決まってますよ大将! お疲れ様です! 



 ―― そして、次の日。

 俺たちは、企画室に集まっていた。

 今回の議題は、ポーションの手配だ。ポーションっていうのは、このゲームでは普通に飲み物だと思ってもらったらいい。

 飲むとMPが大幅回復、HPもちょっと回復。

 ―― 最初はシャレオツな感じにミックスしたり果物を入れたりして、オリジナルを作ろうという案も出たんだが……


「人手! スペース! 利便性! あたくしたちは焼きそばも作るのよ? 焼きそばとポーション、両方買っていただくことを考えてごらんになって?」


 エリザ様の正論により、売るのに手間がかからず、スペースをとらず、持ち運びしやすいペットボトル(市販品)を扱うことになったのだった。

 ―― とすると、いくら仕入れるかが問題になる。

 NPC男子(攻略対象)はメシをおごったりプレゼントをくれることはあっても、お金は出してくれない。

 この学園祭の準備でいうと、最初から必要になると決まっている屋台や機材、ユニフォームの代金をNPC男子(攻略対象)たちが受け持ってくれている形なのだ。

 つまり、商品の仕入れ代は実質、プレイヤー ―― 俺とエリザとサクラの3人で負担…… 利益が出ても3人で山分けだから、むしろ、お得である。

 だが、俺には資金がない……! (そこが問題だ)


「えーと、仕入値は、ポーション10本で640マル。300本仕入れるから、全部で19,200マル、かあ……」


「3人で割ると6400マル…… 1週間のおこずかい、超えちゃいますね……」


 つい、どんよりとタメイキをつく俺とサクラ…… そんな俺たちを見下すのは、当然、エリザだ。


「おーほっほっほっほっ! あなたがた、貧乏人に払ってもらおうだなんて、思ってなくてよ?」


「エリザぁぁぁっ!」 「エリザさん……!」


 俺もサクラも、感動の眼差しをエリザに送る…… さすがは、悪役令嬢様だ!


「やっぱり、俺にはエリザしかいない! 一生ついていくぞ、大将!」


「エリザさん…… どうも、ありがとうございます……!」


「…………っ! ふんっ! くくくく、悔しかったら、しっ、しっかり、おおお、お稼ぎっ!」


「「はい!!」」


 ―― こうして、ポーションの元手はエリザが支払うことに決まったのだった。


 エリザは公爵令嬢だから、1週間の小遣いも俺たちより多いとはいえ…… 全部払ってくれるとなると、さすがに大変だろう。

 けどエリザは、そんなそぶりをまったく見せず、後日。


「ふっ…… ポーションの手配? そのようなもの、とっくの昔に済んでいてよ!」 と、言い切ったのだった。

 憧れるぅ!

 

 さて。

 ポーションの手配が済んだら次は、いよいよ ――

 看板とチラシ作りだな!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

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― 新着の感想 ―
[良い点] あああああ、こんな青春おくってみーたーいー
[良い点] 『幸運の使者見習い・初級』……。 見習いでさらに初級とか、ランクを細かく区切って、やりこませよう、あわよくば課金させよう、という運営の魂胆が透けるというか……。 世知辛いぜ……。
[一言]  文章中に2回出てくる「違いない」が、両方違うに違いないのですが、間違いないですよね?  主人公は、一体何処に向かっているのか……。これからも楽しみにしてますね!
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