閑話11. 運動会(26)後夜祭②
イヅナがよく 『女の子らしい』 って言うけど、こうして列の後ろから改めて眺めると、サクラの肩は、細くてほんと、それらしいな…… これに両手でつかまるなんて、しても大丈夫なんだよね!?
めちゃくちゃ緊張するぅ……!
「し、失礼します……」
「どうぞ。しっかりつかまったほうが、いいですよ」
俺がサクラの両肩に手をかけるのと大体同じタイミングで、俺の肩にも温かくて柔らかい手の感触。エリザだな…… ううう、こっちはこっちで、ドキドキするっ……!
『チャッ、チャッ、チャッチャチャチャー♪』
俺たちは前の人の真似をして、タイミングを合わせてステップを踏み、ジャンプした。
最初は難しかったけど、慣れると楽しいな。
『タッタッタッタッタッタッタ、タララッタタララタッタッタ♪』
曲が変わった。
次は、男女ペアでパートナーをチェンジしながら踊る曲らしい。
俺の最初のパートナーは、ミシェル。
「わーい! お姉ちゃぁん! 抱っこぉ!」
「よしよし、いいぞ」
いきなり甘えてくるのが、めちゃくちゃ可愛い……!
俺はミシェルを抱っこして、音楽に合わせて適当に高い高いしたりくるくる回ったりしてあげた。
ダンスにはならないけど、運動会での真剣な競技のあとの楽しみだから、これくらいいいよね!
「やだよぉ。ずっとお姉ちゃんがいい……」
ミシェルに半ベソかかれながら、サクラとパートナーチェンジした次は、エルリックだ。
「私がリードするから、君は音楽に乗ればそれで大丈夫だよ…… そう、上手だ」
さすが王子。
俺がフォークダンス全然知らないのに、めちゃくちゃ優しい……! これは女の子なら惚れるよね……! 俺もちょっとキュンキュンしてるかも……!
その次のイヅナは、俺の足を2回も踏んだ。
「イヅナ、そんなにサクラが気になるのか……」
「うわっ、バレてたか…… ごめんごめん」
「いや、わかる」
二人三脚でも改めて思ったけど、サクラ、エルリック王子と一緒だと、ものすごい強烈なヒロインオーラを発揮するんだよなぁ……。
たぶん本人にその気はないんだろうが…… これも、ゲームの仕様なのかな。
「自信を持て、イヅナ! サクラの真のパートナーは、あんたしかいない!」
「おう……っと、とっとっと!」
また、足を踏まれた。
「本当にごめん! わざとじゃないんだ!」
「いいって、いいって! それより頑張れよ!」
ここで、パートナーチェンジ。
イヅナはサクラと手を取り合って、照れくさそうに、かつ、めちゃくちゃ嬉しそうに挨拶した。
和むなぁ……
「あと0.5ミリで足を踏まれるところでしたが」
「おっと、ごめん!」
「…… いいですよ。あなたがウッカリなのは、いつものことですからね」
最後は、ジョナスだ。
俺の手を指 3本だけでそっとつまんで、イヤミを吐き散らしている。
「えーっ、さっき密着した仲なのに、今さら指 3本?」
「……っ ……それと、これとは、全く別です」
「そっかなぁ?」
「これだから、誰にでも懐く平民女は……!」
「いまそれ関係ないと思うけど?」
つないだジョナスの指先が、熱かった。
何をそんなに怒っているのか…… ま、ジョナスだしな!
フォークダンスはそれから 3曲も続き、最後は、やっぱり聞いたことがある曲でみんなで輪になってしめたのだった。
「チャッチャーチャッチャー、チャチャチャチャチャチャン♪ チャッチャチャチャー、チャチャチャチャチャチャン♪ チャッチャーチャララーチャッチャーチャララー……」
「ええい、おだまり! 何度、同じ曲を鼻歌する気よ?」
「だって、頭の中回ってるんだもん、最後の曲!」
フォークダンスのあとは、もはや恒例、ビュッフェパーティーだ。
フランクフルト、オニギリ、サンドウィッチ、ハンバーガーといった恒例のメニューも、もちろんドッサリ揃っているが、今回の目玉はどうやら、豊潤なソースと青ノリの香り漂う一角であるらしい。
すなわち。
焼きそばとタコ焼きとイカ焼きと豚玉焼き。それに 『キャベツ巻き』 とかいう、千切りキャベツを薄い小麦の皮で包んでソースをかけた謎料理。
「どれも、めちゃくちゃ美味いぃぃっ!」
もう叫んじゃうしかないよね! ダシの効いた甘辛ソース、最高!
男の子たちも、最高の笑顔だ。(ジョナス除く)
「美味しいよね、お姉ちゃん!」
「たまには、こういうのもイイなぁ!」
「本当に。美味しいよね」
「ふふふふ……、そうだろう、そうだろう」
エリザに怒られながらも鼻歌うたって根気よく並び、全員分をゲットした甲斐があったぜ!
「ああもう、ヴェリノもミシェルも、口の周りも服もソースだらけですよ。これだから、マナーのなっていない平民と幼児は」
ブツブツと文句を言いながら、俺とミシェルの口の周りや服を拭いてくれるのは、ジョナス。
けど実はふたりだけじゃなく、イヅナの口にもエルリックの口にもソースはついている。
そして、ジョナス自身の酷薄そうな薄い唇の端にも、ぽつっと……
「あっ、ジョナスもついてる! はい!」
指でとってあげたら、なぜかしばらく、固まられてしまった。
それからハッと気づいたように、怒られた。
「こら! ゆゆゆ指は、なななめません!」
珍しく、噛んでるけど…… 俺、なんかしたっけ? (ソースがついた指をなめちゃうのは、普通だと思う!)
「本当に、美味しいです。みなさん、ソースで幸せそう」
サクラも、スチルカメラ片手に、心の底から満足そうな笑顔を見せてくれたから、ま、いいよね!
みんなであれこれと食べながらおしゃべりしていると 『ご歓談中失礼します』 と、アナウンスが流れた。
見れば、ステージの上からエルミアさんが手を振っている。そばには当然、ハロルド。
『ただいまより、運動会実行委員会によります、 "みんなのスター☆勝手に表彰" 式を行います。呼ばれた選手、チームはステージに上がってください』
どうやら運動会でも、学園祭でいろんな表彰やってた (そこでエリザが婚約破棄を宣言されたのも、今となってはいい思い出だ) のと同じみたいなことするようだな。
【ヴェリノは、今度はなんの賞でしょうねww】
「いや、毎回賞もらえるわけないじゃん!」
【wwwwww】
チロルが肉球で俺の脚をぺしぺししている間にも、実行委員が次々と、賞と選手の名前を呼んでいく。
『リレー最速選手賞…… イヅナ!』
おおっ、イヅナが来た!
確かに速かったもんなぁ、イヅナ。判定負けはしたけど。
『口が小さくて可愛かったで賞…… 』
エリザが呼ばれた。俺たちは拍手したけど、エリザは扇で顔を隠して 「いらないわ」 とうめいた。
結局、女の子は何らかの名目で半分以上の子が名前を呼ばれるようになっているらしかった。恥ずかしいのも多いので、辞退者続出という異例の表彰だが……
実行委員さん、ご苦労さん……!
サクラは、イヅナとのやりとりが委員のハートをとらえたらしい。 『ラブな流れで賞』 をもらって、やっぱり顔をほんのり赤くして辞退していた。
そして、俺は……
『応援が丁寧で賞! …… ヴェリノ・ブラック!』
うぉぉぉう。この賞は……!
「ジョナスがイチイチ舌打ちしてくれたおかげだな! ありがとう!」
今回は俺は特に活躍してないし、もらえるとしても騎馬戦のときので 『ずるいで賞』 とかかと思っていたから……
「めちゃくちゃ嬉しい!」
思わずジョナスの両手をとってブンブン振り回したが、ジョナスは無反応だった。
「あっ、ごめん!」
慌てて手を離す。
「ごめん、俺と手をつなぐの、イヤだったよな。つい、嬉しくて……」
「…… 別に。イヤなのではありませんが」
「ほんとに!? やったぁぁぁ!」
もう1回、ジョナスの手をとって万歳する。賞よりも、嫌がられてなかったのが嬉しいかも!
「場所をわきまえなさい、これだから……」
ジョナスは舌打ちしながら文句言ってきたけど…… 知らないもんね!
―――― こうして、俺たちの運動会は大成功に終わったのだった。
ちなみに俺の賞品は玉入れのタマだったが、エルリック王子に懐いてしまったので、そのままプレゼントしてあげた。
これにて閑話・運動会編終わりです!
長々とお付き合いくださってありがとうございます。
ネタ…… げふんげふん、競技のリクエストくださった皆様に感謝です。
実は作者は大の運動オンチで、運動会にはトラウマありまくりだったんですが…… リクエスト色々いただいたおかげで、最後まで楽しく書けました! トラウマ払拭! ありがとうございます!
さて。次回は、期末考査とかクリスマスとか、になる予定です。なので、できればクリスマスまでに始めたかったのですが…… 間に合いそうにないのでごめんなさい!
(クリスマスネタをお正月あたりにやるのって半端なく季節ハズレ感があってすみませんが)
1月半ばまでにはできれば再開したいと思ってます。
宜しくお願いしますm(_ _)m
ではー!
コのつくやつやインフルエンザなどにお気をつけて、良い年末年始をお迎えくださいますよう!
感想、ブクマ、応援★めちゃくちゃ感謝です!
今年もどうもありがとうございました!
⇒ 2022/01/15 追記。
いつもすみません! 年明けからの急な寒さで、頭と手がうまく作動しておりません!
ボチボチ書きためておりますので、今しばらくお待ちいただければ有難いです。
1月末週には再開できるよう頑張ります。
その折にいただいてるお年賀FAも公開いたしますので、お楽しみにー!
寒さに負けず、お風邪にお気をつけてくださいね!