閑話11. 運動会(24)閉会式
「をんをんをんっをんっ♪」
「きゃんきゃんきゃんっ」
「くぅーん……」
「ヴェリノ! エルリック! パパ! ミンナ、カッコヨカッタヨ……!」
閉会式の前に、ペット席へチロルたちを迎えに行く…… と、もふもふなガイド犬たちと、きらめく青い鱗と涙がとてもキレイな手乗り竜は、すごいスピードで寄ってきてくれた。待ちきれなかったのかな…… って、かわいすぎるよもう!
しっぽがふぁさふぁさと振られているのも、カホールの翼がパタパタ動いてるのも…… 癒されるなぁ。
【お疲れ様でしたww】
「チロル! 応援と、あとイロイロ教えてくれてありがとう! それから、タマのプレゼント抽選とかない?」
【いえいえ、どういたしましてww タマは買うしかありませんよww 運動会直後は記念セールで5,000マルが半額2,500マルになりますしww】
「おおっ、それなら俺でも買えちゃう!」
【wwwwwwww】
全員が揃って座ったところで、閉会式が始まった。
『まずは、成績発表と表彰です…… 赤、白、それぞれの代表者、前に出てください』
「はーいー!」 「はい!」
赤組の代表者はエルミアさんで、白組の代表者は名前を知らない女の子だ。
今日、何回か見かけたから、おそらく運動会実行委員のメンバーなんだろう。
『成績発表……』
さて、どんな結果がくるのか…… 引き分けが多かったけど、負けてはいないと思う…… でも、赤もけっこう強かったし…… ドキドキするぅ!
『赤2勝、白3勝、3引き分けで……』
お、白のほうが勝ちが多いよね!? ということは…… 間違いなく……
『準優勝、赤組!』
赤組がわーっと盛り上がった。
俺たちも拍手を送る。赤組、ほんと強いライバルだったからな……!
「赤組のみんな、よく頑張ったのじゃ! 良いチームワークに、熱いバトル。おかげで、とっても楽しい運動会になったのじゃ……!」
「はいー! ありがとーござーますー!」
ちゃーちゃーらちゃーちゃー、という表彰式の定番曲に合わせて、抱きついて頬ずりしたくなようなしっぽを揺らしながら、たぬき型獣人 (見た目年齢 5歳) のショータロー先生がエルミアさんに表彰状を手渡した。
俺たちはもう一度、拍手する。
―― 強敵よ、キミのことは忘れない……!
とか、そんな心情だ。
そして、次は、いよいよ……
『優勝…… 白組!』
成績を聞いたときから、もうわかってた。
それでも、心臓が底のほうからフワフワ持ち上げられてる感じがした。
すごい、嬉しい! 俺たちすごい!
「「「「「やったーーーーー!!!!!」」」」」
俺たちはみんな、ぴょんぴょん跳びはねながらハイタッチを繰り返した。
こんなときでもジョナスだけは、『それほど喜ぶことですか』 みたいな呆れ顔をキープして舌打ち連発して眼鏡をクイクイしていたけど……
実は嬉しいんだろうと、俺は思う!
白組代表の女の子が表彰状を受け取ると、アナウンスが流れた。
『学園長挨拶です』
ショータロー先生がマイクの前に立ち、一礼する。
丸いもふもふした耳がぴょこん、と下がり、代わりに丸っこいしっぽがぴょこっと上がるのが…… ほっこりするなぁ……!
「運動会、お疲れ様だったのじゃ。実行委員の皆さんは、よく頑張ってくれました。おかげで、このような素晴らしい運動会になったのじゃ。実行委員の皆さんに、拍手なのじゃ」
ショータロー先生がパチパチと小さい手を打ち合わせるのに、俺たちも合わせて手を叩く。
実行委員のみんなが色々準備してくれたからこそ、運動会できたんだもんなぁ…… 感謝が伝わるように、いっぱい手を叩こう。
「それから、皆さんも、どの競技も真剣に精一杯頑張って、とても偉かったのじゃ。入学してきた頃には、こんなに小さかったのに……」
ショータロー先生、感慨深げに 『こんなに小さい』 ジェスチャーしてるけど…… そんな身長のときから入学してた覚えは、もちろん無い。
ま、いいけどね!
「よく、成長してくれたのじゃ! 先生は、とっても感激したのじゃ!
これからも、この学園で、毎日、一生懸命に楽しく過ごしてほしいのじゃ…… 以上!」
俺たちの頭上を何かの影が横切った…… と思ったら、ペガサスが飛んできたところだった。
目の前で羽をたたんだペガサスの背に、ショータロー先生がくるりと1回転宙返りをしておさまる。
「皆のもの、これにてさらばじゃ……!」
ショータロー先生を乗せたペガサスは、どこへともなく飛んでいった。
「あれ…… カッコいいって思ってほしかったのかなぁ……」
「あれは可愛いしかないよねっ、お姉ちゃん!」
ミシェル、お前もな。
『以上をもちまして、閉会式を終わります。
後夜祭は、午後6時半からのスタートです。いましばらく、お待ちください……』
アナウンスが終わると、みんな、ぞろぞろと動き始めた。
必死でトイレを目指す女の子、多数…… っていうか、俺も……!
楽しすぎて、リアルに戻るの忘れてたから ――!
トイレに向かって猛ダッシュする俺の背中に、エリザの声がかかった。
「1時間後、 『マジカル温泉』 で集合!」
マジカル温泉。
この街で唯一の 『スーパー銭湯』 なるものである。
沸き立つ泡、ビリビリくる電流に、どどど、と流れ落ちる滝に、ウォータースライダー。それから、いろいろな種類の1人用ツボ風呂。
まさに、お湯のテーマパークだ!
リアルでは考えられないくらい贅沢だけど…… 牛乳やワインや緑茶のお風呂は、かなりビックリだぞ。
「こんなのに入るの!?」
「牛乳風呂は美肌やリラックス、ワインは保温、緑茶は体臭予防やニキビケア効果が期待できますよ」
牛乳風呂の中からサクラが解説してくれた。ワイン風呂ではエリザが気持ちよさそうに目を閉じている…… 運動会、頑張ったもんな、エリザ…… よしよし、お疲れ様。
「つまり、入るだけでステータスupにつながりますから……」
「入ります!」
勇気を出して、緑茶風呂にどぼんしてみる。
意外と…… 気持ちいいぞ!? 香りもいいし、お湯がやわらかくて疲れが取れる気がする……!
「ヴェリノ、交代しましょ」
「OK!」
エリザがワイン風呂から出てきた (当然、胸もお尻もモヤモヤした湯気で隠れているぞ!)。
ワイン風呂は、すごくホカホカして、身体の芯まであったまる…… ついでに、ふわぁん、と眠たくなるなぁ……。
「いいなぁ! 変わり風呂!」
「おーい、ヴェリノ! ウォータースライダーで遊ぼうぜ!」
イヅナの声でそっちを見ると、男の子たちはみんな、ウォータースライダーと滝のある巨大風呂のほうにいた。
「エリザとサクラは?」
「わたしたちも、後で行きます」
どうやら女の子ふたりは、遊ぶよりもゆっくりお風呂に入りたいみたいだ。
「じゃ、後でな!」
それから俺たちは、ウォータースライダーに何回も乗ったり、滝に打たれたり、潜水競争 (イヅナが圧勝) をしたりして遊び、お風呂上がりにアイスクリームを食べた。控え目に言って、最高。
―― さて、そろそろ夕方。
運動会も、本当に本当の最後…… 後夜祭の、時間だ。