閑話11.運動会(18)借り物競争①
ぱぁぁぁん、とピストルが鳴り、走者がいっせいにスタートした。
俺たちのチームの第1走者は、ミシェル。この借り物競争でも、ほかのリレーと同じく、ミシェル ⇒ 俺 ⇒ サクラ ⇒ ジョナス ⇒ エルリック ⇒ エリザ ⇒ イヅナ の走順だ。
走る順番は変えてもいいのだが、やっぱりイヅナがいちばん速いからアンカーにふさわしい。
それに、今回の競争では、またエルミアさんのチームと闘うことになっていて…… みんな、イヅナにリレーのリベンジをさせてあげたい、って気持ちがあるからな!
(ジョナスでさえも、エルリックに聞かれて 「イヅナで何か問題が?」 と言い放っていた。)
しかし…… 速さだけではなんともならないのが、借り物競争。
たたたっ、と15mほど走ったところから、本当の勝負が始まる……!
その勝負とは、すなわち、運。
借りてこなきゃいけないものの探しやすさが、大きく勝敗を左右するのだ。
指示が書かれた札をとると、その札の文字が全体に見えるよう、空中に表示されて、それを運動会実行委員が次々読み上げるのだが……
『いちばん優しくてカッコいい男の子…… がんばって探してください』
最初に札をとったエルミアさんが
「ああああー! いちばんダメな男の子ならすぐにわかるのにぃぃぃぃ!」
と、頭を抱えている。
どうやら、エルミアさんはゲームをハロルドとの付き合い中心で進めてるらしく…… 同チームのほかの男の子とは、さほど仲良くなっていないようだ。
なんと、たたたっ、と俺たちのレーンに来てしまった。
「エルリックさまー、おねがいー!」
「おお、確かにエルリックは、優しくてカッコいいな!」
「いや…… 一番ではないと思うよ、私は。運営男子のほうがよほど……」
「だいじょうびー! おねがい、おねがいー!」
「エルミアさんさん…… 君のチームにも王子はいるだろう?」
「えーだってー! うちのチームの子と一緒に遊ぶと、ハロルドがその子に軽く毒盛ったりとか、意地悪しちゃうからー! 愛されてるんだー、って嬉しーけど、かわいそーだから、ほとんど遊んでなくてー!」
ハロルド…… 正真正銘のクズ野郎だな……
「そうなんだね…… しかし、君のチームと私のチームは今、競争中なんだよ」
問題は、そこだよね!
…… そして、ちらっと見れば、ミシェルはもう 『羽のあるペット』 を連れ出すのに成功している。うちの場合、青い手乗り竜のカホールくんがいるから……
「ヴェリノガ ヨカッタヨ!」
「ボクだって、『お姉ちゃん』 が良かったよ!」
なんて言い争いはしていたものの、ほかよりは楽勝だったのだろう。
俺の走順は次だから、そろそろ準備しないとな……。
「エルリック、俺は、エルミアさんと一緒に行ってあげてもいいと思う! ごめんだけど、あとはみんなと相談して!」
「きゃー! ヴぇっちったら、神ー!」
エルミアさんの声を背中に、みんなから離れてスタートラインに並ぶ。ミシェルが連れてきたカホール、審査員の判定は当然、OKだ。
合格なら、スタンプを手に押してもらうんだな……。借り物競争って、実行委員さんがすごい頑張ってる感!
「お姉ちゃん、お待たせ!」
「全然! 早かったぞ、ミシェル!」
「『好きな人』 って出たら、絶対にボクにしてね!」
「OK、OK!」
俺は、みんなのこともミシェルのことも大好きだからな!
全然、問題ないよな!
『後夜祭でフォークダンスしたい人…… なお、連れてきた人とは、本当にダンスしてもらいます』
なんとぉぉぉっ!
フォークダンスといえば、あの、男の子と女の子がペアになって、手をつないでドキドキしたり、つないでもらえなくてしょっぱい思いをしたりするという……!
じゃ、連れていくのは約束どおりにミシェル……ん? まてよ?
…… フォークダンスってつまりは、男の子とは、わざわざ指名しなくても踊るんだよな?
ならば、もう相手は一択じゃない!?
俺は急いで、自チームのレーンに駆け戻った。
…… おっ、エルリックが抜けてる…… どうやら、エルミアさんが連れ出しに成功したみたいだな。ま、それはともかく。
「エリザ! サクラ! 一緒に来てくれ!」
「なんで、ふたりなのよ!?」
「ふたりと一緒に、踊りたいから!」
「バカね……!」
「いいじゃないですか、エリザさん」
なぜか機嫌が悪そうになったエリザを、なだめてくれるサクラ…… さすがヒロイン。
「それより、早く行かないと負けちゃいますよ」
「…… ふんっ! 仕方ないわね!」
「あざます、エリザさま!」
「そうと決まれば、さっさと行くわよ!」
「待ってください……!」 「俺も……!」
審査員席へさっと駆け出すエリザを、俺とサクラで追いかける。
審査員には、札を見せて内容を確認してもらうのだが……
「えっ、ふたり? しかも女の子?」
「だって、男の子とはどうせ、踊るだろ? フォークダンス。俺はできれば、みんなと踊りたいから!」
あっ、エルミアさんも呼べば良かった……。
審査員はちょっと複雑そうな顔で、 『合格』 スタンプを押してくれた。
「ラブリーな展開を期待してたのに、友情を押し売りされて残念、てところでしょうか」
サクラの解説に、なるほど、とは思うけど……
俺は、エリザともサクラともフォークダンスしたいもんね!
サクラは俺の次なので、一緒にスタートラインまで走って戻って、それからバトンを渡す。
次は、どんな札が当たるのかな……?
『明日、デートする人……! これは気になりますね。一体、誰になるんでしょう?』
おおお、チート並みに楽勝なテーマが続く……!
流れはこっちに来てるな!
「おおおオレ? オレだよな? オレでいいんだよな?」
「イヅナ以外に、誰がいるんだ……! 自信持て!」
イヅナ、わたわたしすぎだ…… ま、気持ちはわかるけどね!
サクラが、息を切らし気味に走ってきた。
「イヅナさん……! 来てください……!」
「おっ、オレでほんとにいいのか、サクラ!?」
「……? だって、勝ったらデートって約束したじゃないですか?」
サクラ……っ! なんてナチュラルに、イヅナにヤル気を注入するんだ……!
さすがヒロイン!
「勝ちますよよね、イヅナさん」
「はっ、はい! もちろんです!」
「きゃっ…… ちょっと、おろしてください!」
イヅナは直立して固まったあと、いきなりサクラをお姫様抱っこして審査員席に向かって猛ダッシュした…… あれ、反則にならないかな? サクラ走ってないけど。
…… どうやら、大丈夫だったみたいだ…… (ほっ)。
次は、ジョナスの番。
人の札が続いたから、そろそろ物かペットの札になるのかな ――――?