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閑話11. 運動会(16)騎馬戦③

 ドンドンドンドンドンドンドン……


 太鼓の音に合わせて、土俵の中に2騎の騎馬が進み出て、相対(あいたい)する。

 2回戦は、土俵の中で1対1の勝ち抜きトーナメントだ。


 騎手の着ている赤と白の陣羽織、一騎打ちになるとまた、映えるなぁ……! 騎馬の子たちの素肌も (健全な意味で) 眩しく輝いている……!


 ―――― ピィィィッ!


 笛の音が鳴り、騎手が両手をあげて、組み合いを始める。

 お互いにハチマキを取ろうとする動きとガードする動きが合わさると、どうしても、ガッチリと取っ組みあいになるのだ。


 隙を見て、ハチマキをかっさらえたほうが勝利……


 ―――― ピッ!


 判定の旗が赤のほうに上がった。

 この運動会のルールでは、負けるか10人抜きするまでは同じ騎手が闘い続ける、勝ち抜き戦…… 白組は今なんと、9連続で敗退中である。


「あれ? なんか予定と違って、赤けっこう強い!?」


 俺の疑問に、サクラとジョナスが、同時にうなずいた。


「白組の戦略戦に耐えて、生き残った子たちですからね……」


「…… この程度、折り込み済みでしょう」


 既にわかっていた、という感じの口調のくせに、ジョナスは眼鏡の縁を、ぎゅうっとかなり強く押さえてる。縁、曲がったりしないのかな。


「赤組はおそらく、大将格の子を先に出して、白組を削る作戦ね」


「その程度のことは承知していますよ、エリザさま。白は撹乱役から先に出していますから……」


「これからよね」


「そのとおりです」


 目を合わせてうなずきあう、エリザとジョナス。

 ツンデレ同士、気が合うんだろうなぁ……。


 次に出てきたのは、ミシェル・イヅナ・エルリックの3人騎馬だ。


「ミシェル! 頑張れー!」


「無理でしょう。体格が違う…… のは、本人たちもわかっているようですが」


 小柄なミシェルに対して、赤組の騎手やってる女の子は、背丈もお胸も人一倍…… もしかしたら、エリザよりも大きいかもしんない。

 赤い陣羽織の隙間から、サラシに巻かれた立派な渓谷がチラ見えしている。

 ガッチリ組み合うと、ミシェルが圧倒的に不利だ。秒でやられる、たぶん。


 おそらく、白組の作戦としては、大将格の子に強い駒を全部潰されるよりは、一騎打ちではあまり期待できない撹乱役を先に倒させて、早々にお引き取り願おう、とそういうことだろう。


「ちょっと、モヤモヤするなぁ…… 負ける前提で出されるなんて……」


「あら、捨て駒だって立派な役目よ」


「それは言えてますよね」


 当然、みたいな顔をしてエリザとサクラがうなずく…… だよな。

 全体の作戦のために、命を張る…… これぞ(おとこ)、ってわけだ!


 それに、これまで秒でハチマキを取られていた白組の子たちと違って、ミシェルはまだまだ、粘っている。

 ―― モヤモヤするのは後回し。今は、応援するとこだよね!


「ミシェルー! 頑張れ! 逃げまくれ!」


「…… ちょっと顰蹙(ひんしゅく)買うかもしれませんね、ミシェルさん」


「ギャラリーがどう思おうが、関係ないわよ」


 サクラとエリザが気にしているのは、ミシェルたちのとっている戦法だ。

 土俵の端ギリギリを回って、なんとか赤の騎馬の背後をとろうとしている…… 機動性オンリーというミシェルたちの騎馬の特性を活かせば、そうならざるを得ないのだが、ギャラリーにとって面白い闘いではない。

 ひたすら逃げ回っているように、見えてしまうからだ。


 そのままなかなか、決まらない ――


 赤組の子たちとギャラリーの、不満げなザワザワが大きくなってきたとき。


 エリザの声が、雑音を縫って大きく響いた。


「ミシェル! イヅナ! エルリック……! なんでもいいから、勝ちなさい!」


「そうだ! ミシェル! とにかく、そいつを止めるんだ……!」


 俺も、叫ぶ。

 観てるだけの連中には、わからないことだってあるのだ。

 ズルさえしなければ、それでいいじゃないか。

 全力で勝ちに行って、何が悪い (とかいうと、悪の大幹部的ぃ!)


 赤の騎手の攻撃をかわしつつ、ミシェルたちはついに、彼らの後ろに回り込んだ。


「ミシェル! 何があっても、お姉ちゃんは味方だ!」


 ミシェルの小さな身体が、精一杯、立ち上がる。

 細い腕が、うんと伸びる。


「今だ! とれ!」


 いつも俺にぶらさがってくる手が、赤いハチマキを、下からすくいとる……


 ―――― ピッ!


 判定は、白。


「ぃやったぁぁああああ!」


「やりましたね!」


「やったわね」


「まぁ、まずまずの結果ですね」


 白組からは歓声があがる一方で、赤組からは大ブーイングだ。

 俺は、ひときわ大きな声で、ミシェルたちをほめたたえた。


「ミシェルぅぅ! よく頑張った! 偉いぞ! エルリックも、イヅナも、すごい!」


 ミシェルが振り向き、赤いハチマキを青い空に掲げて、笑った。



 そのあとの試合では、赤組が警戒したのだろう。 

 ミシェルたちはなかなか背後がとれず、前よりも退屈な闘いになってしまった。

 (勝てばいいとか散々言ったけど、こうなると、さすがにみんなにスマンかった感!)


 それでもかろうじて勝ち、ミシェル3戦目。


 ―― 赤組は、機動力がある駒を投入してきたようだ。


 騎手の女の子、先の大将格よりは小柄だけど、背も胸もそこそこあって…… つまりは、ミシェルより大きい。

 その上、足の速さは、同じ程度。


 これは、まずいな……


「あああああっ! 逃げろ! …… ああああ……」


 ミシェルたちは、距離をじゅうぶんに開けきれないまま、身を乗り出した赤組の騎手にハチマキを取られてしまった。


 ―――― ピッ!


 赤の勝ちだ。


 現在、残りの騎数は、白 14、赤 11。

 かなり差が縮まってしまった。

 油断は禁物だな。


「次は、白も大将格を出すでしょう。赤のアレは、早めに封じたほうがいいですからね」


 ジョナスの予想どおり、白からは、なんと、背の高い男の子(N P C)ばかりの4人騎馬……


 別に、反則ではない。

 ただ、どうしても女の子(プレイヤー)が楽しむことが優先されるというゲームの特性上、そういう騎馬は出現しにくいだけで。


「ランス! アレック! エドワード! リュカ! 頑張って!」


 どうやら、この特大 + とっても速そうな騎馬を作るために、このチームの女の子は応援役に回ったようだ。

 ある意味、(いさぎよ)いな。


 よーし! 俺も、いっぱい応援しよう!



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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム的にオトコのみの駒は面白くない ( ˘ω˘ ) ←ワガママ言ってみましたw
[一言] ミシェル頑張ったね。 サクラとエリザは漢?w
[一言] 勝てばよかろうなのだァァァァッ!!
感想一覧
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