閑話11. 運動会(5)赤白対抗リレー④
「エルミアさんさん、こんなところに居たんだね。さあ、僕たちのチームに戻ろう」
「あー、ハロルドー!」
エリザが2位の子ともつれるように駆け込んできて、エルリックにバトンパスしたタイミングで、ハロルドがエルミアさんを迎えにきた。
銀髪に薄い青紫色の瞳の優しそうな諸悪の根源、隠れヤンデレ彼氏だ。
「こけちゃうなんて…… ケガはどう? あとでいっぱい ……てあげるね」
「やーん、ハロルドったら、優しいー!」
エルミアさんにボソボソ何を言ったとしても、今後は俺は、ヤツの言うことは絶対に気にしない。だって、ハロルドの発言のせいでこけちゃったんだもんな!
気にしないったら気にしない。
『おしなめ』 ってつまり、 『お仕置き+ナメナメ』 だろうか…… だなんて考えちゃわずに、エルリックをちゃんと応援するのだ。
「エルリック、頑張れ…… ってくださいませーー!」
ジョナスがジロッとにらんでくるから、応援しにくいよ、もう!
「エルリック! 走れ…… ってくださいませーー!」
あー、ややこしい!
もう、名前だけでいいや!
「エルリック! エルリック! エルリック! エルリック!」
なんでまだ、にらんできてるのかなぁ、ジョナスったら!? しかも俺がそっちに顔を向けると、ふいっとそらしちゃうし…… ま、いっか!
今の2位チームとの差は、トラック 1/5 周分くらい。エリザとはほぼ同着だったんだけど、バトンパスのときにまた、少しだけ遅れちゃったのだ。
エルリックはつかず離れず、2位についていっている。4位の子とは、もう半周以上離れているから…… 良いペースといえば、そうなのかな。
ちなみに1位チームは、あと少しでアンカーにバトンが渡りそう…… なので俺たちのチームは、現実的な線で、2位いけばいいところだろう。
エルリックがどこかで2位を抜かせば、アンカーのイヅナは確実にそれをキープしてくれるはずだ。
もしエルリックが無理でも、スポーツマンタイプのイヅナなら、2位を抜かしてくれるかもしれないし…… と。
「おお! きたーーー!」
ラスト 2/5 周くらいのところで、エルリックが急に速くなった。さすが王子というべきか、スピードアップしても走る姿に余裕と気品が感じられる…… のだが。
「えええ!? 実はえげつないほど速くない?」
疲れの見えてきた2位の子を、ほんの2、3秒程度でラクラクと抜き去ってしまうにあたっては。
「むしろイヤミ…… なんてことは、ありません! すごい! エルリック超カッコいい!」
またジョナスににらまれて、慌ててほめなおしたのに、なぜか、またしても舌打ちされてしまった。小さいけど、確かに聞こえた。
今日のジョナスは、なんかよくわからないな?
エルリックはそのまま、2位の子を大きく引き離して、ゴールで待っていたイヅナにバトンを渡した。
このまま、イヅナが後ろの子に抜かされないでいてくれれば……
「…… って、イヅナ、めちゃくちゃ速い!」
さっき見たキレイな走りの子が普通のジェット機だとすれば、イヅナは明らかに超音速戦闘機……!
速すぎて残像しか見えない感じなんだが、忍者かな!? (そういえば名前もそれっぽい)
「イヅナー! すごいぞー! 速い速い!」
「イヅナさん、すごいです!」
サクラの声援で、さらにスピードアップしたように見える。
「ふっ…… ま、認めてあげないこともないわ……! 速すぎる、とね!」
エリザ…… それは、手放しでほめていると考えていいのか?
イヅナはなんと、めちゃくちゃ引き離されていたはずの1位の子に、すでに迫っている……!
対戦相手も気づいたらしく、必死でスピードを上げているようだが…… 俺たちにとっては運よくも、相手は女の子ではなく男の子だ。
遠慮はいらない。
「イヅナ! 頑張れー! 抜かせー!」
「イヅナぁぁっ! 抜かさないと、チューしちゃうからねっ!」
「ミシェル、それはやめておいたほうがいいのでは……」
戻ってきたエルリック王子が、ミシェルの応援に思いっきり引いていたが、本人はけろりとしている。
「大丈夫だよ、イヅナだからね!」
「勝っても負けても美味しくなっちゃいました……」
サクラがスチルカメラを握りしめ、エリザが叫ぶ。
「イヅナ! 1位ならサクラとのデートを許可してあげるわ!」
「…… え?」
「 い い わ よ ね ?」
「…… はい」
おーい、エリザ。それはパワハラ……
と、言いかけた俺だが。
ふと見れば、なんと。
サクラの顔がほんのり赤い……!?
珍しいものを見てしまった……! サクラ、ひょっとしてもしかしてひょっとするのか……? (祝)
だがしかし。
今は、イヅナの応援だ!
「イヅナ! イヅナ! イヅナ! イヅナ!」
ジョナスが、またしても横目でにらんできてる。なんでかなぁ…… ま、ジョナスだからね!
イヅナは、疲れを見せることなく1位の子に追い付き……
ふたり、ほぼ同時に、ゴールテープを切った。
「これは…… 勝ったか!?」
「見た目は、イヅナが速かったように見えたのだけど、ね?」
「だよなー、エルリック! 俺もそう思う!」
俺とエルリック王子がガッチリと握手を交わしたとき、アナウンスが流れた。
『只今から、判定に入ります。今しばらく、お待ちください……』
さて。1位はどっちだろうか……