15-22. ハロウィンパーティー (3)
『きゃぁぁぁぁぁぁあっ!』
運動場に、女の子の甲高い悲鳴が響き、それがすぐに、ダダダダダ、というドラムのリズムにとって代わる ―― パレード班の皆さん、初っ端っから気合い入ってるな!
リズムに乗って現れたのは、紫とピンクと黒のレースを重ねた、短いスカートのドレスの女の子たち。
背中に羽をつけて、短い杖を持っているところを見ると、妖精のイメージなんだろう。
キラキラエフェクトを振りまきながら、猛スピードで運動場中を回っている。
「NPCかな? すごい速いぞ!?」
「足元見て、お姉ちゃん。ローラースケートだよ」
「おお!? ほんとだ、靴にちっさいコロがついてる!」
ローラースケートといえば、昔、何かのアニメだかマンガだかで見たことあるような気もするけど……
リアルの地下お部屋生活では当然、絶滅しているアイテムだ。
「実際見ると、これでよく、立ってられますよね」
「ほんとそれな、サクラ」
「…… あれ、後で買うわよ」
エリザ、いかにも、好きそうだよな、ローラースケート!
―――― と。
ひょおおおおおお……
何やら不気味な風が吹いてきて、妖精たちの身体がふわりと持ち上がった。
空中高くで、彼女らの身体がきゅっとそり返ったと思ったら、くるくる回り出した ―― 3回転。
ふわっと地面に降り立つと、猛スピードで去っていく……
「なにあれ、すごすぎ」
「オープニングから魅せるよね」
「見事なバク転だったな!」
エルリック王子が俺の肩に、イヅナがサクラの肩に、それぞれ手を置いた。
「魔法で補助はしているでしょう。幻影魔法あたりでしょうかね」
「ジョナス…… 他人の努力を分析してやるなよ」
「飛び上がる前の身の動きからすれば、実際のところはせいぜい、空中1回転くらいですよ」
「それでもすごいじゃん!」
「…… 1回転くらいなら、できそうね。見てらっしゃい」
エリザの野望に、火がついた。
妖精たちが去っていった後は、速打ちドラムから一転、静かなオルゴール音楽に合わせて、オバケの群れが漂い出てきた。
白いシーツをかぶったみたいな定番のアレに、ゾンビやフランケンシュタインやなぜか蛇女 (仮装なのか素なのかは謎!) 、そしてやっぱり定番のカボチャのオバケ!
特にパフォーマンスするわけじゃないけど、スチルを撮りたい人のためにか、目の前まで寄ってきてくれるのが楽しい。
そして。
『TRICK or TREAT?』
いかにも脅かしてやるぞ、的な音声のアナウンスが流れる度に、手をこっちにズイズイと伸ばしてきて……
「………………」
「……? あ、これ、くれるの? サンキュー!」
「………………」
無言で、取っときたくなるくらいきれいなセロファンに包んだ、キャンデーやチョコレートを配ってくれるんだけど。
「それ、逆じゃなくて!? 施しを受けるのはアナタのほうでしょ!」
「エリザ、オバケたちが困ってるぞ」
「…… ふんっ! じゃあ貰ってあげるわよ! 仕方ないわね!」
正論言われるたびに、ちょっと戸惑うオバケたち、かわいいな!
―――― と、今度は。
ドンドンドンドン、という重ためな太鼓の音と、パッパパー、と派手なトランペットの合奏。
聞いたことある、マーチ曲だ!
オバケたちが、慌てふためいた感じで散り散りに逃げていく……
その後に、音楽を演奏しながら行進してきたのは、赤い上着に、白いズボン、黒い縦長の帽子を被った女の子たち。
『一糸乱れぬ、とはこのことか……!』 と感動しちゃうくらいの、揃った行進で、広がったり閉じたり入れ替わったりと、隊形を変えて見せてくれている。
「オモチャの兵隊、ですね。かわいいです」
「お、サクラ、こういうのも好きなの?」
「昔、 『百年前の貴重映像』 でバレエの舞台を見た時に、出てきてたんですよ」
「へえ……」
バレエかぁ…… 俺も 『百年前の貴重映像』 シリーズは見てるけど、アレは、衣裳が全体的にちょっと恥ずかしくて、最初だけでやめたんだよな。
だけど、砂漠で一皮むけた今の俺 (ベリーダンスをじっくり鑑賞済み) ならば、アレくらい大したことないかもしれない。
「うん、俺も今度見てみる!」
「お姉ちゃん、なら、ボクとデートしようっ」
ミシェルによると、このゲームには実は、バレエ団もあるそうだ。
―――― 公演日にデートで 『劇場鑑賞』 を選択すれば、バレエが見られる、ということなんだが。
動画なら、退屈だったら飛ばせるからそっちがいい…… とか、言いにくいんだよなぁ。
この子の期待にあふれる緑の目を見てると!
ジョナスが、眉の間にくっと縦ジワを寄せた。イラッとしてるのかな。
「ミシェル、そのような場合は、王子優先でしょう」
「いいよ、ジョナス。早く誘ったほうが当然、優先されるべきだ」
「しかし……」
「そういうわけで」
エルリック王子の公明正大で公平そのものの笑顔、相変わらず爽やかだなぁ……!
「また今度、みんなで行こうか」
「ずっるぅぅぅうううううい!」
ミシェルの叫びは、派手なマーチの音に消されていった。
その後も、カボチャ提灯やコウモリの羽なんかのついた羽つき帽子のサンバ隊 (Rギリギリの露出あざます!) や、イケメンヴァンパイアに青龍に朱雀姉さん…… と人気キャラてんこ盛りの 『ポケット妖怪』 チーム、東洋っぽい音楽と一緒に現れて何やらすごい技を披露してくれた曲芸チーム…… と、パレードが続き。
ラストはなんと、『運営・開発有志による割かし何でもアリなイケメンNPCチーム』 だった。
「はぁぁ!? なにそれ!?」
「あら、ヴェリノ知らなかったの?」
「毎年、好評なんですよ」
サクラとエリザは当然のように言うが……
俺には正直、サッパリわからん。