15-20. ハロウィンパーティー (1)
修学旅行から帰ってきた俺たちを待っていたのは、嬉しい知らせだった。
なんとなんと!
サクラデザインの制服 (ミシェルの領地で使うやつだ) が、コンぺの最終選考に残ったらしい。
しかも、提出していた2点 ―― 牧場スタッフ用と、ロープウェイ係員用 ―― が両方とも、だ。
「すごいぞ! 良かったなぁ、サクラ!」
「ま、あれだけ頑張って残ってなかったら、運営に文句つけるところよね!?」
「エリザもそう思うか!? 俺も!」
口々にほめたたえる、俺とエリザだったが、サクラはあくまでクールだった。
「まだ決定ではありませんから。1点くらいは引っ掛かるといいんですけど」
「大丈夫、大丈夫! サクラのデザイン、カッコ良くてかわいいし!」
「まさかないとは思いますけど…… 運営に選考についての大量リクエストとか、しないでくださいね」
「ぎくり」
実は、ちょっとしようかなー、なんて思ってた。
毎日じゃないぞ! 3日に1度くらいだ!
「バカじゃないの!?」
エリザが腰に手をあてて、胸をばいーんと張った。
「そんなことするより、一般投票をおさえましょう! 買収 「も、お気持ちでじゅうぶんですから」
「おーっほっほっほっほ! うぬぼれないでくださる、サクラさん!」
おおお…… エリザが、久々の悪役令嬢モードだ。
「どうして、このあたくしが貧乏くさい庶民ヒロインのために、そんなことしなくてはならないのよっ!?」
「あ、ならいいです」
相変わらずキレのあるシャウトだったが、サクラにあっさり、いなされてしまった。
―――― と、まあ、そんなわけで、本番も近くなった、ある日。
俺たちはNPCと相談して急遽、ハロウィーンパーティーの仮装を、サクラがデザインした制服に決めたのだった。
「せっかくの仮装なのに……」
と、サクラは遠慮していたが、俺たちにとっては、サクラを応援するほうがだいじだ。
(仮装なんて、けっこうしょっちゅうしてるしな!)
「よし、これで一般投票かっさらうぞ!」
「当然よ!」
「ヴェリノさん、エリザさん…… ありがとうございます。本当に」
サクラは恐縮しちゃってるみたいだし、一般に期待される仮装とも違うかもしれないけど、これも悪くはない。
チームのうち、女の子の制服は、白のキュロット姿。
男の子たちの制服は、黒のスーツ姿。袖口の飾りラインがカッコいい。
ちなみに、白は牧場スタッフ用のデザイン、黒はロープウェイ係員用だ。
チャームポイントは、 『ポニーに乗ったちちふさくん』 『テントから顔出すちちふさくん』 が交互に配置された柄のネクタイ。色が選べる仕様だ。
かわいいというより、オシャレな感じだなー!
「うん、俺はこれ気に入ってる! 絶対にミシェルの領地のスタッフに着せよう!」
「サクラは、ハロウィーンの仮装っぽくないのが気になるんだろ? なら、これはどうだ?」
イヅナが、俺の頭にぽこん、と何かを被せた。
「「…………っ!」」
サクラの緊張気味だった顔が目に見えてゆるみ、エリザはさっと取り出した扇の陰から、こっちをチラ見してプルプルしてる。
―――― どんな面白いものを、俺の頭に乗せてくれたんだろう?
「あー、あと、これも持ってみて」
渡されたのは、長さ50cm近くもありそうな注射器だった。脇に抱えたらちょうどだな!
「お注射しちゃうぞ♡」
なんっつって!
「うっわーかわいいぞ、ヴェリノ!」
「ほんとうだね、かわいいよ」
「お姉ちゃんがお注射してくれふなら、ボクがんばります!」
イヅナが大笑いし、エルリック王子もミシェルも誉めてくれた。
ジョナスだけは
「ふざけたことを……」
と、眼鏡のふちをいつもより強めにギュウッとやってたけど…… まぁ、いつものことだな!
ともかくも。
注射器ってことはたぶん、俺の頭の上に乗せられたのはナースキャップかぁ……
「うん、被り物で仮装、いいな! イヅナ、よく用意してたじゃん!」
「たまたま、コスプレ演劇班が置き忘れてたやつだ。だから元に戻しとかないと、後で取りに来るかもしれないから」
「オッケー!」
被せられたナースキャップを手にとって見ると、真ん中にデカデカと、矢が突き刺さった真っ赤な♡が描かれていた。なるほどな……
「じゃあ、今から、『リーナのよろず屋』 に被り物買いにいこう!」
―――― そんなわけで、久々にみんなで行った雑貨店では、ハロウィーングッズが1コーナーまるまるを占めていた。やっぱ、季節だな。
カボチャと、コウモリや猫…… オレンジと黒や紫、といったとりあわせが、いかにもでワクワクする。
「魔女の帽子もいいなー! いかにもそれっぽい!」
「白い制服に合わせるなら、やはりナースではなくて?」
「エリザもナースやりたかったのか……!」
「ばっ…… そんなんじゃ、ないわよ!」
「似合うと思いますよ、エリザさん」
「サクラも、めちゃくちゃハマりそうな予感!」
相談の末、女の子はお揃いで、ナースキャップをかぶることになった。
首には、聴診器。
「きかせて♡ あなたのハート♡」
みんな、ウケてくれた (ジョナス以外)。
ジョナスは
「正視に耐えませんね。みっともない」
と、目をそらし続けてたけど…… まぁ、いつものことだな!
さて。女の子のコスが決まったら、次は当然……
「次は、NPCの被り物だな! みんなにウケるの、選ぼう!」
ハロウィンコーナーにはお化けカボチャやゾンビ、ガイコツなんかの顔全体に被るマスクが並んでいる。
「ゾンビとかなら、お祭りの目的にはピッタリだよね」
「うーん。けど、制服をカッコよく見せる目的からは外れちゃうな……」
悩みながらウロウロしているうちに、俺たちは、ハロウィーンのコーナーから外れて、パーティーグッズのコーナーに入っていた。
―――― あれ。
むしろ、こっちの良くない!?