15-14. 黄色の街で遊ぼう(4)
ゆったりと大地の底から響くような歌声が、今度は風みたいな笛の音に変わった…… その、途端。
女の人が、脱いだ。
「わぉぉお!」
思わず、小さく叫んで、なにげに目をそらしちゃう俺。
サクラとエリザは、目を丸くして、舞台を眺めているな。
うんうん、恥ずかしくなるか、驚くかしか、ないよね!
だって、女の人 ―― 同席のお姉さんからの情報では、ダリアさん ―― は、さっきまでの悪い魔女のかっこうからは想像もつかないくらい。
ぼん、きゅっ、ぼん。
だったのだから。
―――― 白と金が基調の、ブラジャー型のトップス。胸の谷間…… というよりは、ご立派なお胸が半分以上お姿をあらわしておられます。
そしてお尻のあたりは、宝石がたくさんついてキラキラした幅広ベルトに覆われてて…… どうしても、目がいっちゃうんですけど!?
そんでもって、半分透けてる白い布の、ヒラヒラスカートが前と後ろに申し訳程度についているんだけど……
横ががら空きだから、おみ足は付け根からばっちり見えてる、っていうね!
「ジョナス、大丈夫か? 気絶寸前じゃない?」
「何をバカなことを」
うん、ごめん。
聞いた俺がバカでした。
―――― 衣裳は露出が多いんだけど、実は、期待してたほどには○○○っぽくはないんだよね。
じっと眺めるのはちょっと恥ずかしいから、微妙に目を反らしちゃうんだけど…… そんなのでも、柔らかそうなお肌の下には、筋肉の存在を感じる。
彫刻の女神像のボディーラインに、もうちょい甘みをプラス、といったところだろうか。
「うーん…… ばあちゃんがハマったのも、わかる気がするなぁ…… うん、ちょっと恥ずかしいけど!」
「芸術的…… ですよね」
笛の音に合わせて、白い長いヴェールが、ふわりふわりと舞う。
風の精みたいだ。
「きれい」
エリザがぽつりと、つぶやいた。
―――― やがて、笛の音がぱたりと止んだ。
そして、力強い手打ち太鼓 (みたいな打楽器) の音がダムダムと響き渡る……
「うぉぉぉぉお! すげえ!」
やっぱりついつい、小さく叫んじゃう俺。
なんとなんとなんと!
筋肉が、踊ってる!!
なんなんだ、これは!!!
舞台の上の女の人は、手足をほとんど動かしていない ―― だが。
腹の筋肉だけが、波のようにうねり、耳には聞こえないメロディーを表現しまくっているのだ……!
【ちなみに 『ベリーダンス』 は日本語に直すと 『腹踊り』 ですww】
いやいやいや、チロルよ。
『百年前の貴重映像』 シリーズでしか見られない宴会芸も、確かに貴重だけどさぁ!
アレと一緒にしちゃ、ダメでしょ!
―――― 大地を踏みしめるようだった太鼓の音は、いつの間にか、パカパカという、速くて軽快なリズムに変わっていた ―― すると。
「え? ちょっと待って!」
三度驚く、俺である。
なにアレなにアレなにアレ ――――!?
舞台の女の人は、太鼓をリードするかのごとく、超高速で腰を上下に動かしているんだが……
体幹が、全くブレないのだ!
これがどんなにすごいことか、わかるかいベイビイ!?
とか言う、変な人になっちゃいそうだよ、俺!
「すげー プロ、すげー……」
ひたすら、つぶやく俺の目の前で、さらに驚くべきことが、起こっていた。
―――― ご立派なお胸が、曲芸あそばしてる……!
高速で動く腰とは全く違うリズムで、上下にピクンピクンなさる、おっぱい様…… 生き物か? 生き物なのか!?
…… そうか、生きているんだな (感動)
魅惑の笑みを顔面に浮かべているダンサー ―― 彼女がその意思で、全ての筋肉を統制しているとは、到底、信じがたいのだ。
きっと彼女は、踊りたがる筋肉の集合体であるに違いない……
曲も終盤に差し掛かり、太鼓の音がふたたび緩やかになっていくと。
ダンサーの膝が、ゆっくりと床に降りていった。
ただ膝をつくだけなのに、 「この動きをみろ!」 って言ってるみたいだ。
そして、膝が床につくと今度は、背中があり得ない角度で後ろに反らされていく…… その間にも手が、しなやかに動き続けて、なんだか大きな鳥みたいだと思った。
―――― フィニッシュは、天井に向かって直立するおっぱい様が、見事に決めたのだった。
「うん、すごかった…… ばあちゃんありがとう、ジョナスありがとう、みんなありがとう……」
「ちょっと、もうそれ聞きあきたわよ!?」
「でも、すごかったですよね……」
「ま、まあねっ…… そそそそれは、認めてあげないこともないわ!?」
初めての、ちょっぴり大人のお姉さんな夜遊びのあと ――――
俺たちは、色とりどりのランプがぼんやり灯る帰り道を、同じような会話を繰り返しながら歩いた。
ベリーダンスのショー ―― トップとラストを踊ったダリアさんは当然、凄かったし、中盤、演劇風の踊りを披露した細マッチョなNPCダンサーたちも (最初はゲッ、と思ったけど) 見てたら、すごく面白かった。
しっかりとした身体能力に支えられた表現力、とでもいうのかな。
鍛えているからこそ、俺みたいな素人が見ても感動しちゃうようなダンスが、できるんだろうなぁ……
「よし、俺も細マッチョになろう! 頑張る!」
「やめときなさい」
「いやだ。俺も腹をウネウネしたり、腰をダダダダさせたり、おっぱいをピクンピクンしたりしてみたい」
そう。せっかく、ゲームしてるんだ。
だるだると日常生活を送るだけでなく、何か素晴らしい一芸を身につけることは、とても良いことじゃないだろうか。
―――― ところが。
「えーっ。ボクは、お姉ちゃんは今のまま、ボクといっぱい遊んでくれるお姉ちゃんがいい!」
と、ミシェルが俺の腕にぶらさがり。
「ソウダヨ! ソノトオリダカラ、シブシブ ミシェルニ サンセイ!」
と、カホールが、俺の頭に飛び乗り。
「まぁ、そうだなー。俺も、サクラの腹なら踊っててもなんでも受け容れられると思うんだが、ヴェリノにはやめといてほしいかな?」
と、イヅナがちょっと赤い顔し。
「そうだね。私も、今のままのヴェリノの曲芸しない胸を愛してるよ」
と、エルリック王子が爽やかに微笑み。
「王子。発言にはお気をつけください」
と、ジョナスが眼鏡をクイッと押し上げつつ釘を刺して、とどめにサクラが。
「最高の逆ハーレム…… 筋肉たちを暴走させていて、できると思いますか?」
と、こっそり耳打ちしてきて……。
「うん、無理かも!」
俺のインスタントな野望は、あっさりと潰えたのだった。
「…… なぁ、チロル。俺ってダメなヤツなのかな……?」
「をんっ♪」
【wwww ダメかどうかは、明日、砂漠に行ってから、決めたらいかがでしょう?ww】
「それもそうだな!」
リヤドにつくと俺たちは、中庭のプールでしばらく遊んでから、 「おやすみなさい」 を言い合って別れたのだった。
さて。
明日はいよいよ。
砂漠に行くぞ ――――!