15-12. 黄色の街で遊ぼう(2)
ベリーダンスは、次話終盤から始まります。
お待ち下さってる方、すみません!
いましばしお待ちくださいませ m(_ _)m
重い金属の扉をアリヤ先生 ―― じゃなくて船長 ―― がぎぎぃっ、と開けると、そこは、明るい光が差す緑の木々の庭だった。
真ん中には青々と涼しげなプールがどーんと鎮座しており、その端っこのほうでは、噴水がさぁぁぁっとプールに波紋を作っている。
「ワーイ!」
カホールが早速飛んでいって水と戯れだし、チロルたちモフモフガイド犬も後に続いた。楽しそうだな。
多少離れて、ゆったりと配置された、座るとダメ人間にされそうなソファ。
低いテーブルの上には、新鮮な果物が盛られた脚付きの大皿がスタンバイ……
「お邪魔しました」
思わず回れ右して外に出ようとした俺の手に、ミシェルがガシッとぶらさがった。
「お姉ちゃん、ここ、間違ったんじゃないよ!? ね、アリヤ船長?」
「そのとおり。ここはリヤドといって、旧世代のモロッコで提供されていた、富裕層の邸宅を改装した宿泊施設だよ。
もともとの意味は 『木の植わった庭』 『中庭のある家』 といったところだ」
「大きさ的にはボクのタウンハウス程度だから、お姉ちゃんが勘違いするのもわかるけどね♪」
「ミシェルのタウンハウス、でかいんだな!」
「へ? そんなことないよ! 普通だよ」
でた。金持ちのスタンダードは、ちょっと頭おかしい件。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
オーナーらしき人は、プレイヤーらしい大人のお姉さんだった。
長袖のゆったりしたワンピースに、きれいなストールで頭を覆っている。
いつもチロルがさりげなく宣伝してくるオプションの追加購入なんて、絶対にしてなさそうな清楚系美人さんだ。
「1階は奥にダイニングと図書室、レクリエーションルームがございます。プールは冷泉になっておりまして、効能は疲労回復と美肌。お好きな時にお入りくださいね。
お泊まりのお部屋は2階です」
チェックインをアリヤ船長が済ませると、お姉さん自らが先に立って案内してくれた。
なんか本当に、友達の家に招いてもらったみたいな感じだなぁ……
2階の部屋は、いつもどおり、女の子3人が同室だ。
「うわぁ! かわいいな!」
思わず叫んじゃうくらい、カラフルで独特なかわいらしさのある部屋だった。
青いタイルの壁に、深い赤が基調のカーペット。
光沢のある水色のクロスがかかった低いテーブルと、水色のソファ。肘掛け部分がピンクだ。
そして、色とりどりのビーズや刺繍の入ったクッションがあちこちに置かれている。
「異国情緒あふれてるわね」
「これだけ反対色をバンバン使いながら、破綻していないって…… 不思議ですね。やや渋めな色合いにしているからでしょうか」
荷物を置いてサクラがスチルをひとしきり撮ったところで、今度はNPCの部屋に遊びに行く。
こっちは一転、落ち着いてナチュラルなイメージだ。
ツヤツヤして微妙な濃淡のあるベージュの土壁に、細かい幾何学模様の織り込まれた茶色のラグ。
素材感あふれる、どっしりした木製の家具に、くすんだ色の木綿のクッション。
よく見たら、クッションやソファには同系色の糸で刺繍がされてるのがまた、オシャレな感じだ。
「これは、フレンチスタイルとの融合とでも、いうべきでしょうか…… 面白いですよね」
「良かったなぁ、サクラ」
「イヅナも、良かったなぁ!」
「オレはいつも常に良いけどな!」
またしてもスチルを撮りまくるサクラをデレデレと眺めるイヅナを、みんなで温かく眺めて癒されたところで。
「日も暮れてきたし…… そろそろ、出掛けようか」
ってことになった。
いよいよ夕食、そして……
初・ちょっと大人のお姉さんチックな夜遊びだ!
「すごい…… 昼とは、全然感じが違う!」
夕闇に包まれた通り。
家々の前に置かれたり吊るされたりしたランプが、色とりどりのぼんやりした明かりを投げ掛けている。
昼間の明るい黄色の街とはまた違った、幻想的な雰囲気だ。
「きれいだなー」
「こら、そっちではなくてこっちです。ぼやっとしてると迷子になりますよ」
ジョナスに手を引っ張られて、ウッカリしてたことに気づいた。
夕食は確か、大通りのレストランで、このランプの道 (住宅街) をずっと行っても着かないのだ。
「王子も、ミシェルも。なに黙ってついて行こうとしておられるんですか」
「いや…… それもいいかな、なんてね」
「そうそうっ。だって、ずっとお姉ちゃんとふたりきりになってないんだもん、ボク」
「私もだよ」
「…… 修学旅行ですから。集団行動を乱してはいけません」
最近のジョナス、少し我慢強くなった気がするな…… いや、王子がいるからか。
俺とミシェルだけだったら、きっと、もっと乱暴に強制連行されてるんだろうな?
―――― ともかくも、エルリック王子がいるおかげで、ここではジョナスから手をぐいぐい引っ張られるだけで済んだ俺たちは、近代的なイメージの小さなビルが並ぶ大通りの一角にたどり着いた。
「夕食は、タジン ―― 旧世代でいう、モロッコやチュニジア辺りの蒸し料理です」
「モロッコ多いな!」
「をんっ♪」
【イスラム文化圏の開発担当者が、ドハマりしたせいですねww】
「まー、わからないことはないけど」
レストランに一歩入ると、美味しそうな肉と野菜、それにスパイスの匂いが鼻をついた。
奥のほうの席に、みんないるな。
サクラとイヅナがこっちに気づいて、手を振ってくれる。
「こっちですよ、ヴェリノさん」
「遅いわよ! 迷子にでもなっていたのかしら?」
「ジョナスのおかげでギリセーフだった! エリザは? アリヤ船長と何か話した?」
「……っ! ただの世間話よっ」
…… なにか話したんだな。良かったな、エリザ (棒読み)
「鶏肉と羊肉があるから、とりあえず両方、頼んでおいたよ。あとは、スパニッシュオムレツ」
「それもタジン?」
「そう。フライパンでも作れるが、タジンでも作れる」
アリヤ船長によると、タジンというのはもともと、陶製の蒸し料理用の鍋のことらしい。
【野菜と肉に含まれる水分を利用して作るので、水をあまり使わずに済むのが特徴ですww 雨の少ない地域ならではの発明ですねww】
チロルの補足説明を聞いているうちに、頭にピッタリした白い帽子を着けた、かなりイケメンなNPCの店員さんが、かわいいタマネギ型の鍋と、冷たいミントティーを運んできてくれた。
「「「「「かんぱーーーい!!!!」」」」」
みんなで乾杯したら、いよいよ夕ごはんだ ――――




