15-11. 黄色の街で遊ぼう(1)
ミシェルとアリヤ船長の助力のおかげ、それにサクラの腕も上がってたんだろう。
転移魔法は、文句なく成功。
俺たちは、バスが停まっていた最初の広場に、ふわりと着地した。
「楽しかったなぁ、白の街」
「本当に。みなさん、ありがとうございます」
「べ、別にサクラのためってわけじゃないでしょ!」
「というか、サクラが行きたがってたのをイヅナが覚えてたんだから…… ふたりのおかげ? ありがとな、ふたりとも!」
「そうね、あたくしも、また来てあげてもいい、くらいには思ったわよ?」
「そんな…… ありがとうございます、エリザさん」
「だから……!」
もう少し続きそうなツンデレお礼合戦は、さておいといて。
白の街とも、これでお別れ。
これから、バスで黄の街に向かう。
夕方にはつくはずだけど、しおりによれば ――――
「移動が3時間もあるから、その間プレイヤーは仮ログアウト、だったな」
仮ログアウトに必要なのは、トイレかベッド…… と、いうわけで。
はーい、と手を挙げて聞いてみる。
「どこかでトイレ休憩とらせてください、先生!」
「甘いですね」
「『白の街』 も 『黄色の街』 も主要都市の高速道路網からは外れているからね。いったん街を出てしまえば、次の街までトイレはないよ」
ジョナスとアリヤ船長が、口々に答えてくれた。
―――― この修学旅行、引率の先生とかいないな、って思ってたんだけど……
なるほど、この2人なら、確かに頼りになるな。
だが、問題は。
トイレがない、ってことだ。
「くっ…… どうやって仮ログアウトを……」
「をんっ♪」
【座席の下に携帯用おまるがあるので、それにまたがってww】
「えっ?」
「それはちょっと……」
「本当ならクレームものよ!?」
俺たちが軽く悲鳴を上げたところで、チロルは満足そうに俺の膝を肉球でペチペチした。
【というのは冗談ですww 天井の空調ボタンの横に、仮ログアウトボタンがあるので、それを押してくださいww】
「まぎらわしいわね! もう!」
エリザがプンスカしながら真っ先にボタンを押し、崩れるように居眠りを始めた ―― 本体はもう、仮ログアウト済みってことだ。
俺とサクラも、簡単に挨拶する。
「次に会うのは、『黄色の街』 に着いた時ですね」
「楽しみだなー!」
「じゃ、3時間後に」
「はい。また後で!」
「じゃあ、おやすみ、ヴェリノ」
「お姉ちゃん、またね!」
みんなに手を振って、俺たちは、仮ログアウトボタンを押した。
※※※※
リアルの家では、ちょうどオヤツの時間。
祖母がお昼に用意しててくれた 『ナレー (なんちゃってカレー)』 と、オヤツのアイスがあったけど……
「さすがにオヤツは、もういいや!」
ってことで、ナレーだけ食べながら、祖母と妹に 『青の街』 と 『白の街』 の話をした。
妹は、俺の話がわかりにくい、とオヤツを食べたらすぐに少女漫画を読みに行ってしまったが、祖母はニコニコ笑って聞いてくれる。
「イスラム文化圏でお泊まりなんて、いいねえ…… ベリーダンスとか、見るのかね?」
「ベリーダンス?」
―――― なんだ、それは?
※※※※
そして再び、ゲームの世界 ――――
「破廉恥ですね」
「をんっ♪」
『黄色の街』 に着いたとたんに、俺の提案をばっさり一刀両断するのは、ジョナス。
ふさふさのしっぽを振ってフォローするのは、チロルだ。
【ベリーダンス自体は 『大人のお姉さん向け』 ではありませんが、このゲーム内で見物できるのはラウンジやナイトクラブといった夜の店になりますのでww】
「これ…… ばあちゃんからの承諾書っ……!」
俺は、承諾書 ―― ばあちゃんがネット経由で運営に申し込んでくれて、ログインすると俺のカバンに入ってた ―― を、チロルに差し出した。
フンフン……
チロル、承諾書をくんかくんかとかなり念入りに嗅いでいて、なんだか緊張するんだが……
「をんっ♪」
どうやら、審査OKってところだな。
良かった!
―――― 祖母は子どもの頃、少女漫画を読んでベリーダンスに憧れたことがあるそうで、
「せっかく本物を観れるなら、観ちゃいなさい」
と、勧めてくれたのだ。
ちなみにラウンジ・ナイトクラブなどの夜の店そのものは 『大人のお姉さん向け』 な課金対象ではないが、未成年が入るには、保護者の付き添いか承諾が必要である。
「なら、あたくしもパパに承諾いただいてくるわ!」
「私も、両親に聞いてみます」
エリザとサクラはあわてて再度、仮ログアウトしていき、数十分後に、それぞれが 『夜の店OK』 をもぎとって帰ってきたので。
今夜 『黄の街』 では、単に泊まるだけではなく、俺たちにしては初ともいえる大人っぽい夜遊びが急遽、追加されたのだった。
ジョナスは
「最近の大人たちはどうなってるんだか」
とか、ブツブツ言ってたが……
「えーっ、せっかくだから、みんなで行こうよ! ジョナスも行こうよ! ねえねえねえねえ!」
しつこくせがむと、しぶしぶOKしてくれた。
よし、みんなで見るぞ!
ベリーダンス!
「その前に、まずは予定どおり明るいうちに、ホテルにチェックインしておこう」
引率のアリヤ先生、じゃなくて、アリヤ船長の案内で、黄色がかったベージュの壁がかわいい街並みを、ホテルまでゆっくり歩く。
住宅街なのかな。
あたりはしん、として、道の脇には、ヤシの仲間? ―― 背の高い街路樹が、きれいに植わっている。
物がぎっしり並んで、道がやたらと狭くて、日除けのテント屋根がカラフルで人の声と猫の鳴き声が飛び交ってた 『白の街』 のマーケットと比べると、別世界みたいだ。
―――― やがて、アリヤ船長は一軒の四角い大きな建物の前で、足を止めた。
「ここだよ」
「お知り合いのお屋敷?」
エリザが不思議そうなのも、わかる。
たしかに建物は大きいけど、俺たちがイメージするホテルとは、ちょっと違うんだよなぁ……。