15-8. 白の街を歩こう(1)
空港から、砂漠の隣の 『黄色の街』 まではバスで移動だ。
「途中で 『青の街』 と 『白の街』 を通ります。まずは 『青の街』 ですが、ここはしおりに書いたように、通りすぎるだけですね」
ジョナスの説明どおり、空港から続いていた海沿いの道が、ゆるやかな登り坂になったころ、手前に目もさめるような、鮮やかな青い屋根の家がたくさん建った丘が見えてきた。
「わー! カホールと同じ色だ!」
「カホール、 『アオ』 ッテ、イミダカラ ネ!」
エルリック王子の頭の上に乗っていたカホールが、サファイアの涙粒をザラザラこぼしながら、飛び上がった。嬉しいみたいだな。
青い屋根の下の壁は、やや薄めの空色で塗られていて、道や階段なんかもほんのりブルー……
「グラデーションがきれいですね」
「そうだな。暑い日差しも涼しく感じられる、っていうか」
サクラとイヅナが話し合っているとおり、実は、バスに降り注ぐ日光は相当、ギラギラしている。
「をんっ♪」
【10月のこの辺りの気温は、まだ日中30度を超える日が多いのですよww 逆に、明け方頃は10度前後ですけどww】
「聞いてないわよ!?」
【ま、気温なんか知らなくてもサポートばっちりですからww その服では体感温度が常に25度前後ww 周辺の気温に合わせて、わずかに上下するよう設定されていますww】
チロルの言う通り、俺たちの服装は、空港からバスに乗ったとたん、制服から先っぽのとんがったフード付きの、幅の広い長袖ワンピースに変わっていた。
俺は青で、サクラが黄緑、エリザは赤。胸元にお揃いで、レースみたいな刺繍がほどこされている。
NPCも同じ型のワンピースだが、こっちには刺繍はない。
「これは 『ジェラバ』 …… 確か、旧世代のアフリカあたりの民族衣装ですよね?」
「をんをんっ♪」 「きゃんっ!」 「くぅーん……」
サクラがファッションに強いところを見せると、ガイド犬たちがいっせいにしっぽをふぁさふぁさと振った。
【大正解ですww】
【モロッコの民族衣裳でしゅよ!】
【日差しからも寒さからも身を守る、便利でオシャレでカッコいい服です♡】
うーん…… カッコいいかな?
どっちかといえば、かわいいと思うんだけど。おとぎばなしの魔法使いっぽくて。
『青の街』 を出て、いかにも遺跡っぽい、日干し煉瓦で作られた要塞や、背の高いヤシの木が脇に並んだ道をバスで通りすぎる。
ちょっとリゾートを思い出す…… バスの、ガタガタと適度な揺れも気持ちいいな。
―――― なんか、眠くなってきたぞ……
「ヴェリノ、 『白の街』 だよ」
「お姉ちゃん、起きて!」
「俺、まだねむいよ……」
「コラ オキロ!」
「いたっ…… カホール! もう! いたい! でも、ありがとな!」
「ワカレバ ヨロシイ」
エルリック王子とミシェルに前後からゆすられ、最後にカホールに飛び蹴りをかまされてやっと目がさめると、バスの周りにはすっごくキレイな街があった。
「うわー! 白い! きれい!」
バスが停まってる広場の周りの四角い建物も、その奥に続いてる狭い路地に並んだ背の低い家も、遠くに見える何かの塔も、みんな、青空をバックにしてるとその白さが、より引き立ってる感じがする。
【この白い壁は石灰岩ですww 1500年ほど前からずっと続いていたアフリカの街がモデルですよww】
「それ、しおり作りで調べた!
あ、あの白っていうか灰色っぽくなってて、ちょっと壁がボロッとしてるのとかが、昔の建物っていうこと?」
【wwwwww】
この街で3時間の休憩をとる。
目的は、ランチと街の散策だ。
みんなで作った修学旅行のしおり片手に、迷路みたいな街を探検しながらの食べ歩き。
「パンはこっちだな!」
この街では、職種ごとに住んでる地区が別れてて、街全体が大きなデパートみたいになってる。
目的はパンや菓子の店が並ぶ食べ物地区だけど、道々、珍しいものがぎっしり飾られたお店がたくさんあって、俺たちの足はつい止まりがちだ。
「この刺繍、細かくて豪華ですね。アラビア模様っていうんでしょうか」
「これはちょっと、あたくしにはできない技と認めてあげてもいいわ!」
「あ、エリザさん、これ似合いそうです。色合いが鮮やか!
ヴェリノさんも、こっち来て見てください!」
サクラとエリザ、織物・刺繍・染色の手芸職人地区だけで、3時間丸々過ごせそうだな……
と、ここで、動いたのがNPCだ。
「良かったら、プレゼントしようか、ヴェリノ?」
「ずっるぅぅぅい! お姉ちゃんには、ボクがプレゼントするぅ!」
と、エルリックとミシェルが言い出し、
「…… ガサツな庶民には、この程度でじゅうぶんでしょう」
と、ジョナスが、俺が 「星空みたいだなー」 と眺めていた刺繍の入ったストールを、学生カバンに突っ込んできた。
(いつの間に買ったんだろう)
サクラもイヅナから、植物模様の刺繍が入ったストールを買ってもらって、嬉しそうだな。
「をんっ♪」
【ストールは、モスクを見学するなら、あったほうがいいですからねww 女性は肌の露出を避け、髪を隠すのがドレスコードですww】
「あー! そこまでは調べてなかった!」
【実はこの辺は、宗教と文化や生活習慣が密接に結びついていて、分離が難しいエリアなんですよねww
宗教上の理由、というとリアルの布教禁止令がうるさいので、このゲームではあくまで 『文化の再現・保存』 ってことで押し通してますがww】
【だからチロルは喋りしゅぎでしゅ!】
俺とガイド犬たちがのんびり話している横では、アリヤ船長がエリザに何事かを囁いて、エリザが耳を赤くしながらそっぽを向いていた。
「ふっ……ふんっ……! そそそ、そこまでおっしゃるなら、ぷぷぷぷ、プレゼントなんて、つ、ツマラナイものでも、うう、受け取って差し上げないことはな、くってよ!」
―――― うーん。こっちも順調、みたいだな……




