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15-7. 王子のジャンボジェット(4)

 お菓子作りは第2段階 ―― すなわち、クッキーを焼くのとマカロンの仕上げ、それに野菜の浅漬け作りだ ―― に入った。


「本番だと、さっきの枕投げの間にランチ食べに行く感じかな? それとも、ランチは持ち込みで食べながらほかのもの作る?」


「いえ……」


 サクラが、伸ばしたクッキー生地に星の型を押し当てながら首を傾げた。


「前日までに作れる物は、クッキー以外も、前もって作っておきませんか? 当日はフライドポテトくらいにして……」


「当日はなるべく予定を空けておいたほうが、色々と楽しめるものね!」


「ええ、そうなんです。パレードもステージも見ようと思ったら、当日にすることは少ないほうがいいんですよ。エリザさんがそこまで、パレードを楽しみにしていたのが意外ですけど」


「……っ! 別に、楽しみとかではなく! きっと気合い入れてるだろうから、仕方なく見て差し上げる、っていうかね!」


 ―――― エリザ、すっごく楽しみにしてるんだな、つまり。


 俺たちは、ハロウィーン用にどんな仮装をするかの相談なんかしながら、どんどんクッキー生地を抜いて、溶かしたバターを薄く塗った鉄板に並べていった。


 最後に余った生地は、手で好きな形にする。

 サクラは器用に花の形をつくり、エリザは四角い形にしてツマヨウジでポツポツ、複雑な模様を描いていた。凝り性だな。

 俺は、イヅナの家でみかけたロケット。三角と四角を組み合わせて…… と。

 難しいけど、楽しい!


「さあ、できたら、オーブンに入れて焼くよ。20分ほどだ」


 アリヤ船長の指示で、クッキーをオーブンにセットしたら、次は、マカロンの仕上げだ。


 イチゴジャムをマカロンの平らな部分に塗って、くっつけていく。


「おおっ、やっぱり、上が尖ってるとそれだけで、ちょっとスライムっぽい!」


「目をつけたら、もっとそれっぽくなるね、お姉ちゃん」


「そうだなー!」


「色もいろいろ、あるとよさそうね」


「なら、食紅が要りますね。ジャムも数種買い、色によって変えるのが良いでしょう」


「チョコペンはたくさん買っておいたほうが良さそうですよね。クッキーもありますから」


 ジョナスとサクラが、それぞれにメモしてくれる。


「それから、クッキーの型も買いませんか? そろそろ雑貨屋さんで、ハロウィーングッズを扱い出しますから」


「じゃ、オバケの形のさがすか!」


 うわぁ、ワクワクしてきたぞ!



 オーブンから、だんだんと甘いにおいが強くなってきた。


「おおお…… たまらん! 今からすでに美味そう!」


 オーブンを開けて中をのぞいてみたくてウズウズするのを抑えつつ、浅漬け作りだ。


 野菜を切って袋に調味料と一緒に放り込んでモミモミしていると……


 やがてオーブンから、チーン、ときれいな音がした。


 両手にモコモコのミトンをはめたアリヤ船長が、中の鉄板を取り出してくれる。


「お待たせ。完成だ」


「「「うわぁぁ!!!」」」


「きれいに焼けたね」


「ボクっ! お姉ちゃんが型抜きしたの! 予約です、予約!」


「クッキーなど、どれも同じでしょうが」


 わいわいやってる俺たちに、アリヤ船長が


「明日の朝食にするといい」 


 と、教えてくれた。


「その頃には、味が馴染んで…… おっとイヅナ、もう食べるのか?」


 船長の説明を無視して、ひょいっ、とクッキーをつまんだのは、イヅナだ。


「焼きたての美味(うま)さって、あるじゃん。なあ、兄ちゃん?」


「まあね」


「じゃあ俺も!」


 もう、ガマンできない!

 俺は手近なハート型のクッキーをつまんだ。焼きたてアツアツだぁ!


「ほら、ミシェル、あーん」


「わーい、ホッカホカぁ!」


「……うん! これはこれで美味いな、確かに」


「そうだろ!?」


「私ももらおう」


 エルリック王子が、天使の形、鐘の形、三日月の形…… とクッキーを次々につまんでいく。


「はい、サクラにエリザに、ジョナスも」


「ありがとうございます」


「あら、あたくし、欲しいなんて言ってなくてよ?」


「いくらエリザさまとて、不敬ですよ」


「ジョナス、いいから」


「ふんっ! 仕方ないから、もらってあげるわ…… あら。意外とこれはこれで、美味しくないこともないわね」


 うんうん。エリザも納得の美味しさだよな、わかる!

 なんというか、焼きたてのほかほかクッキーって当たり前だけど、自分で作らなきゃ食べられないわけで……


 それだけでも特別な贅沢感があるんだよね!


「では、残りは明日の朝でいいかな? その頃には味が落ち着いて、程よく甘くなっていると思うから」


 アリヤ船長の半分苦笑、半分嬉しそうな感じの声に、俺たちは口をモゴモゴさせながら、いっせいにうなずいたのだった。




 ―――― そして、翌朝7時。


 和風寝室の畳の上で目覚めた(ログインした)俺たちは、広々としたダイニングキッチンに入って、歓声をあげた。


「うっわぁ! すごい! ミニ・デザートビュッフェだぁ!」


【行き先が砂漠(デザート)だけにwwww】


「たしかにそうだけど、それでも寒いぞ、チロル」


「をんっ♪」


【ありがとうございますwwww】


 NPC(男の子たち)が用意しておいてくれたのは、昨日みんなで作ったデザートに、サンドウィッチとローストビーフにフライドポテトとコーンスープ。


 飲み物(ポーション)も、新鮮な牛乳、ヨーグルト、緑茶にコーヒーにミックスフルーツジュースにサイダーまで、色々な味が揃ってて、もうこれだけでちょっとしたパーティー状態だ。


「すっごいたくさん! 大変だったろ? ありがとな!」


「どういたしまして」


「うんうん、ボク頑張ったんだよ、お姉ちゃんっ!」


「用意されている物を並べるだけの何が大変なのか、理解に苦しみますね」


 エルリック王子もミシェルもジョナスも…… ほんっともう、今さらだけど、改めて良いヤツらだなぁ!



「ありがとうございます。すごいです、本当に」


「サクラのためなら、こんなのなんでもないぞ!」


 サクラとイヅナも、相変わらず和むし。



「ふんっ、なかなか気が利くじゃないの、アリヤ! …… まぁ、合格ね!」


「それは嬉しいね、お嬢様」


「エリザよ!」


「それは嬉しいね、エリザ」


「なななななに、呼び捨てなんかにしちゃってるのよ!?」


 エリザも早速、扇の陰で真っ赤になってるし (耳が出てるぞ) 。



 とりあえず、みんなで好きに浅漬け、ローストビーフ、フライドポテトに、デザート数々をとって、テーブルに集まる。


「では、修学旅行の成功を祈って…… 乾杯!」


「「「「かんぱーい!!!!」」」」




 ―――― 朝食のあとは、いよいよ、砂漠の街を観光だ……!


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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

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― 新着の感想 ―
[一言] >【行き先が砂漠(デザート)だけにwwww】 好きだねえ。チロル。
[一言] こんな青春を送りたいだけの人生だった( ˘ω˘ )
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