15-5. 王子のジャンボジェット(2)
畳敷きの和風寝室に入ったとたんに、俺たちはお揃いの浴衣姿になった。
白地に、初代ガイド犬ちちふさくんと花を組み合わせた紋様が、紺で描かれていて、細い帯はNPCが濃い緑色。女の子は、深紅だ。
「わーい! お姉ちゃんとお揃い!」
「あなただけでなく、全員がお揃いですよ、ミシェル」
はしゃぐミシェルに、すかさずジョナスがツッコミを入れたが……
「ジョナスぅ! 似合ってなくてステキだなぁ!」
と、ついつい言っちゃうくらいには、可愛らしいちちふさくん柄とジョナスの不機嫌顔は似合ってなかった。
―――― そこがまた、ジョナスっぽい、っていうかね!
対照的なのが、俺たち女の子のチームになぜかひとりだけいるNPC、アリヤ船長…… イメージ的には、ちちふさくん柄の浴衣は似合いそうにないのに。
「あっさり着こなしちゃってますね!?」
「それは昔、アメリカ先住民のウォーボンネットをかぶった時にも言われたよ」
「似合うかもしれませんね、それ。ね、エリザさん?」
「ふ…… ふんっ……! あたくし、知りませんけど、船長服より似合うってことは、ないでしょうよっ……!」
ぷいっとそっぽを向く、エリザ …… あーこれは、つまり。
みとれてたな。
「ハヤク マクラナゲ、シヨー!」
「をんをんをんっ♪」
「くぅーん……」
「きゃんきゃんきゃんっ!」
カホールともふもふなガイド犬たちはすでに、張り切って枕にとりついている。
「そうだね。じゃ、早速はじめようか」
エルリック王子がキリリと指令を出した。
「―――― 先生が来ないうちに、やってしまおうではないか!」
「「「「おーーーーっ!!!!」」」」
片膝をついたイヅナから、早速、高速回転の枕が放たれる。
「まだまだ」
余裕で受け止めるのは、もちろんアリヤ船長 ―― 俺たちの中では断然、体格がいいので、前面に出て防御役になってもらっている。
(このゲームでの枕投げのルールは、枕に当たったり、受け止めきれずに落としたりすれば、後方の布団で寝たフリ、なのだ。
最終的に、最後まで残ったほうのチームが勝ちとなる。)
そのまま船長は、両手に1つずつ持った枕を、イヅナとジョナスに向かって投げ返す。
「無礼講ということでよろしいか」
「…… その割には、本気ではありませんよね?」
ジョナスからの鋭いツッコミとともに飛んできた枕は、どうやったのか、アリヤ船長の前で曲がって、俺のほうに飛んできた。
「まってました!」
曲がったぶん、勢いが落ちた枕を受け止めるのなんて、めちゃくちゃ簡単だ!
「みよ、俺の必殺! フライング・ワイバァァァンっ!!」
「バカですね……!」
「はいっ!」 「すみませんっ!」
よく見たら、エリザもサクラも、ジョナスに向かって枕を投げてる…… やっぱり、投げやすい相手っているんだなぁ。
全ての枕を難なくかわすように見えたジョナスだが……
「ふっ、まさかの連続攻撃を受けてみよ……!」
なにしろ、枕は人数分あるのだ。
1発目はフェイク、本番はこっちだぜ!
「危ない!」
俺がジョナスに放った本気の枕を、エルリック王子がすかさずガード。
(サクラが 「尊いです」 と呟いた。)
そのまま、投げ返してくるかと思いきや。
「失礼するよ、船長」
―――― こっちのチームへの狙いは、アリヤ船長に集中してるんだよなぁ……。
「おっと」
さすがの船長も、枕4つを同時には、受け難かったらしい。
1つを取り落とし、あえなく 『後方で寝たフリ』 に。
「エリザ! ちゃんと、投げてくれ!」
そして、エリザが、その寝たフリ顔に気を取られてチラチラ見てばかりかものだから、実質、戦闘不能状態に近く ――――
俺は、タイムを取ることにしたのだった。
「先生が、来たぞぉぉぉっ!」
―――― みんな、バタバタと寝たフリをはじめた。
部屋の間のふすまをしめて女の子 (とアリヤ船長) だけになると、布団の上で作戦会議だ ――――
「ジョナス以外も狙わなきゃ、勝てないわよね?」
「けど、エルリックやミシェルは狙いにくい、っていうか……」
いかにもな王子様や、美少女顔の幼児に枕をぶつけるのは、ちょっとためらってしまうんだよな。
「それに、向こうが明らかにぶつけてきてないのに、こっちがするのもフェアじゃない気が」
「その点、ジョナスさんは皆に投げるので、狙いやすいんですよね」
「―――― 最終的に、全部の枕が、ヴェリノくんのほうに曲がっているようだが、ね」
アリヤ船長が思い出し笑いしているとおり、なぜかジョナスの枕は、誰に投げていても着地点が俺である。
どうなってるんだか。
―――― こんな感じで、しばらく作戦を話し合ったあと。
「先生が、行ったよ!」
エルリックの掛け声で再び、戦闘開始 ―― の前に、俺たちは。
くじ引きでチームをわけなおすことになった。
おれは、ミシェル・ジョナス・イヅナと同チーム。
サクラとエリザは、エルリック・アリヤ船長と同チームだ。
「えっ…… これってもし、NPCとお布団の中で遭遇・接近しちゃったら?」
「をんっ♪」
チロルによれば。
【枕投げは 『NPCとの同室お泊まり』 ではなく 『修学旅行のイベント』 なので、競技中の 『寝たフリ』 でオプション料金が発生することは、ございませんww
ただし、お布団の中での過度に接触すると、その限りではありませんので、御注意くださいww】
と、いうことらしい。
「ま、それなら大丈夫かな!」
「えっ、じゃあお姉ちゃん、お布団の中でギュウしてくれないの……?」
「ミシェル…… お布団の外で、好きなだけギュウしてやるから。な?」
「うん! お姉ちゃん、だいすき!」
―――― さて、そんなわけで、第2戦、スタートだ。
「先生が来ないうちに、やってしまおうではないか――――!」
エルリック王子の掛け声を合図に、俺たちは再び、猛烈に枕を投げはじめた。