15-3. デザートと修学旅行(3)
修学旅行。
リアルでは行ったことがないが、アニメの中では時々、見掛けるイベントだ。
【男女、部屋は別々ですが、お互いの部屋に凸して健全な交流を図ることは、無課金の範囲内ですww】
と、チロルも解説してくれるし ――――
「じゃあもう、決定だな!」
「…… 修学旅行とお菓子作りレクチャーが、どう関わると?」
「そんなことなら……」
エルリック王子が、相変わらずの爽やかなスマイルのままで、サラリと言った。
「学園に私たちがちょっというだけで、なんとかなるんじゃないかな?」
「わぁおう! さすが王子! よろしく頼みます!」
「ああ、任せて」
おおう、ゲームの世界でも (だからこそ?) 権力はものを言うんだなぁ!
その日はそれでお開きになった。
そして、数日後 ――――
「修学旅行が決まったよ」
企画会議室で、エルリックが告げた。
「ぃやったぁぁぁ! さすがは王子!」
「をんをんっ♪」 「くぅーん……」 「きゃんきゃんきゃんっ!」 「ヤッターーー!」
「そっかぁぁあ! おまえらも嬉しいか!」
まさかここにきて、修学旅行なるものに行けるなんて! 女の子になって良かったなぁ!
だがしかし。
もふもふなガイド犬たち+青い手乗り竜とはしゃぎまくって、サクラとエリザとNPCから温く見守られていた俺は、次のジョナスの説明に、きょとん、とすることになる。
「アリヤ船長を講師に招いて、4泊5日のデザート研修です」
「へ? それなら、合宿でいいんじゃ?」
てっきり、修学旅行とハロウィーンのお菓子作りは別物だと思ってたんだけど……
「行き先は…… 「おっと、これはオレが言うぞ、ジョナス」
イヅナが急に、淡々としたジョナスの説明を遮って、前に出た。
その視線は、情熱的なまでにサクラに向けられている。
「行き先は、 『輝きの砂漠』 だ!」
「砂漠に…… 行けるんですか?」
「そう。サクラ、行きたがってたろ?」
「はい……」
おおお…… サクラの目が、ウルウルしてる!
サクラよ…… そんなに行きたかったのか、砂漠!
イヅナの優しいドヤ顔も、いいなぁ……
さすがは俺の、推しカプ!
「けど、どうして砂漠なのかしら? …… まさか」
少し首をかしげた後、扇で口元を隠しつつ、エリザが眉をひそめた。
「……まさか、『デザート繋がり』 とか、言わないでしょうね?」
「をんっ♪」
【ハロウィーンパーティーで作るのは 『dessert』ww
旅行の行き先は 『desert』ww
『砂漠に砂糖を足せば甘いもの』 と覚えましょうwwww】
あーなるほど、エリザ。
そんな寒いギャグ思い付いちゃったら、そりゃ口元隠したくもなるよね!
と、思ってたら。
ミシェルが 「よくわかりましたね、エリザさんっ」 と言いだし、イヅナがますますドヤ顔を強化し、エルリック王子がキラキラエフェクトをまき散らして、ジョナスがコホン、と咳払いした。
「…… その辺には、各方面の意向が働いておりますため、私のほうからはノーコメントとさせていただきます」
ホワイトボードが、ジョナスの神経質な文字で書かれた日程で埋まっていく。
<9月 7日~ 9月30日 修学旅行のしおり 作成
(10月 4日(日) 運動会)
10月 9日(金) 夜7時 出発(旅客機) 機中泊
10月10日(土) 朝7時 朝食・移動 『青の街』 『白の街』 『黄色の街』 観光 /ホテル泊
10月11日(日) 『輝きの砂漠』 移動・観光 /キャンプ泊
10月12日(月) 夜7時 帰路(旅客機 機中泊)
10月13日(火) 朝7時 寮到着>
おおう、こうやって予定を見るだけでも楽しそう!
(けど 『運動会』 ってなんだったっけな? 聞いたことはあるような……)
「そんなわけで、まずは、しおり作りから始めようか」
「ならば…… 図書館ね!」
「あったのか、図書館……!」
図書館、というのもまた、リアルでは旧時代の幻みたいなものだ。
国営の電子図書館がネット上にはあったりして、そこの壁紙には本が並んでいたりするから、なんとなくイメージはあるけど……
実際に俺たちが 『読書』 っていうと、タブレットやパソコンになるんだよな。妹が読んでる少女漫画だって、それだ。
なので。
図書館 ―― 学校の隣の煉瓦造りの建物 ―― は、俺たちにとって結構なミラクルワールドだった。
「うぉぉぉぉ…… これが、紙とか布とかでできた本……!」
「本のニオイも、しますね」
「くしゅんっ」
小さなくしゃみは、エリザだ。
しめっぽいような甘いような、不思議なニオイ、鼻がむずむずしちゃうのも、わからないことはない。
【昔の人は、本に使われているインクのにおいをかぐと○○○もよおしてくるとか、眠くなるとか、色々言っていたそうですよww つまりはリラックス効果ですねww】
「ふーん…… ま、落ち着く……気もするなぁ……?」
と、珍しがってばかりもいられない。
ともかくも、調べものしなきゃな!
修学旅行のしおり。
大まかな日程はもう決まっているので、俺たちがするのは 『輝きの砂漠』 や周辺の街なんかの情報収集だ。
そういえば昔、RPGの情報収集でもウンザリするほど、あちこちの本をクリックさせられたことがあったっけ…… あの本には、『右から3番目、下から2番目』 とかしか書かれていなかったけど……
「ヴェリノさん、今それ読みふけってると、何も調べられませんよ?」
「はっ、そうだった……!」
―――― 1つの情報から別の情報が気になって、気づいたら全然別のこと調べてる、なんてことは、ネットでもある。
だが、本っていうのは、それとは違う感じでトラップだな!
これじゃない、と思っても、面白そうならついズルズルと読んでしまうというか。
ちなみに俺が読んじゃってたのは、砂漠が舞台の戦争ものだった。
いや、平和が一番なんだけどね!?
これはこれで、めちゃカッコいいいいぃぃぃ!
「いいね! 砂漠!」
「でしょう?」
サクラがクスクスと笑った。
「よし、張り切って調べるぞ!」
目指すは楽しい砂漠の旅 ――――!
あれ。そういえば、お菓子作りは?