14-19. 撃墜の翼(2)
[準備が済んだら、タッチパネルのOKボタンを押してください。ゲームが開始されます……]
「よし、OK!」
「をんをんをんをんっ♪」
画面が滑走路に切り替わってテンポの良い音楽が少し小さくなり、ゲームの説明が始まった。
[このゲームは、友機と協力しながら、敵機を撃墜していきます。タッチパネル両脇の操縦桿で、画面に映る敵機に照準を合わせボタンを押すと、ミサイルが自動で発射されます……]
「あんまり難しくなさそうだな!」
アナウンスを聞く限りでは、昨日の狙撃ゲームよりもかなり簡単そうだ。
「をんをんをんっ♪」
俺の腹にくっついた、2.5次元チロルが尻尾をふぁさふぁさ振った。
【ゲームの目的の半分は、加速と飛行そのものを楽しむことですからねww】
「言われてみれば、今さらだけど俺、飛行機乗るの初めて!」
【wwww】
断然、楽しくなってきたぞ。
[敵機1機撃墜ごとに10ポイント、友機を狙う敵機を撃墜した場合はさらに5ポイント加算、逆に、友機を間違って撃ってしまった場合は-30ポイントです。]
おっと、これは少し難しいな。
みんな違う戦闘機に乗ってるから、種類が多すぎて、わけわからなくなりそうな予感がする。
[友機はタッチパネル右下の人型マークをタッチすると表示できます]
言われたとおりにボタンを押すと、みんなの顔とそれぞれが乗ってる機体が、画面の両端にずらりと並んだ。『』 内が機種名で、() の中が機の特徴のようだ。
まずは左側、NPCメンバーの機体。
◆エルリック 『ラブファルコン』 (マルチな能力。攻守万能タイプ)
―――― 光沢のある、チャコールグレーの機体。小ぶりの三角の翼、小回りが効きそうだな。
◆ジョナス 『ミラクルスカイ』 (戦闘特化型。使い勝手は良いが、飛行機雲は出せない)
―――― きれいな青のグラデーションの機体。縦に長い三角の翼が、いかにも速く飛べそうだ。
◆ミシェル 『レッドファンタジー』 (速さは他の機種に劣るが、最強の大型レーザー砲内臓。敵機に狙われやすい)
―――― 白地に赤いラインの大型機。ほかの機には扱いやすい小型のレーザー砲が装備されているんだけど、ミシェルのは大型なのか…… そのために、速度を棄てたんだろうな。
…… と、すると。
俺の頭に、あるアイデアがひらめいた。
「チロル、この機ってみんなに通信できるの?」
【自分の画像右上の電話のマークをオンにすれば、無線が繋がりますよww】
「了解! ありがとう」
【いえいえww】
タッチパネルの右側はプレイヤーの画像と機体。エリザのカッコいい 『ミラクルキャット』 (長距離迎撃用ミサイル搭載。遠くの敵機多数を同時に無力化可能) 、イヅナとサクラの優美な 『マジカルブルー』 ( 航空ショー特化型。到達可能高度15,000m) と続いて、その下が俺の黒い機体だ。
「俺の、 『ラブファンタジー』 っていうより、 『地獄の使者』 って言ったほうが良くない?」
【wwww】
機体の右下にある電話のマークをオンにして、 「おおい」 と呼び掛けてみると、みんな、手を振ったり眼鏡を押し上げたりして応えてくれた。感度良好、かな。
「俺に案があるんだけど、ミシェルの機を中心に、みんなで周囲を旋回して護衛しながら敵機を撃墜しない? ラスボスみたいなのがきたら、ミシェルに任せることにして!」
「ヴェリノにしては、悪くないわね」
「ヴェリノ、スゴイ!」
「きゃんきゃんっ!」
エリザが腕組みをしてるその下のお腹部分では、やはり2.5次元化したカホールとトイプードルが元気よく動いていた。
「OK」
エルリック、親指を立てて爽やかなお返事だ。本物のパイロットみたいだな!
一方で、ジョナスは不愉快そうに形の良い眉をはねあげた。
「…… ヴェリノは先陣でしょう。ぶっちぎりの機動力を誇る機をとっておきながら、何を間抜けたことをほざいているんですか」
「えええ…… だってそんなの、寂しいじゃん。みんなと一緒がいい!」
「…… 今、撃って差し上げましょうか?」
「………… しぶしぶ了解」
ジョナスが子どもの頃にこれ得意だった…… っていう王子の情報、なんとなく納得だな。
戦闘機に乗ると性格変わる…… というか、負けず嫌いで勝つためには手段を問わない本来の性格が剥き出しになってるんだろう。
(ちなみに今は、色々あってそれがねじれていると見た)
ジョナスがさらに、指示を出した。
「 『マジカルブルー』 は、高度を上げて、全体の指揮をお願いします。無線は常にオンしておいてください」
「了解!」
イヅナが親指を立てて、ニカッと笑い、サクラが後部座席でコクコクとうなずいた。
[出撃しても良くなったら、出撃ボタンを押してください]
俺が先陣だから、いちばん最初に飛び立たなきゃな……
よし!
「ではみんな、健闘を祈る!」
某司令っぽい感じに挨拶して、いさぎよく出撃ボタンを押すと ――――
機体は、ゆっくりと動き始めた。