14-3. 灯台にのぼろう
「うぇーん、疲れたよぉ……」
灯台のてっぺんまでは約12分。
大したことなさそうに見えて、やっぱり大したことある、というか…… 半分くらいで、ミシェルが座りこんでしまった。
イヅナはサクラ抱っこでもスイスイ先に進んでいるが、身体が小さいミシェルにはキツいみたいだ。
お姫様抱っこされてラクラク登ってる俺が申し訳ない……
いや、エルリック王子の顔が普段とは違った角度から見えてて、シトラスの香りの汗がツッと顎を流れ落ちたりしてたりして…… とっても緊張しちゃってるから、気分的にはあまりラクじゃないんだけどな!
こんなことなら、素直にジョナスにおんぶしてもらっとけば良かった。
「ジョナス、ミシェルを頼むよ」
「…… かしこまりました」
ジョナス、内心では 『疲れた? だったらそこに一生座ってなさい』 とでも思ってそうな表情だ。ミシェルが、ガチで怯えている。
「うぇーん! お姉ちゃんが、いいよぉ……!」
…… ワガママ言うな、このクソガキ。
ジョナスの呟き ―― なんか、普段に輪をかけて機嫌が悪いぞ。
「よし、ミシェル! お姉ちゃんがおぶってやるからな…… エルリック、おろして」
「…… 大丈夫かい?」
「うん、半分は運んでもらったし! 残りの半分くらいは頑張る!」
「わぁい! お姉ちゃん、大好き! ……でも、無理しないでね?」
「いいから、いいから! まっかせなさぁい!」
よっ、とミシェルをおんぶして階段を登る…… うーん、意外と重い。けど、意外と行ける。
うん、これならきっと、大丈夫だ……
5分後。
「スマン、ミシェル…… もう1歩も動けない…… 動きたくない…… あと、少しなのはわかってるんだけど……」
俺はぜーぜーはーはーしながら、座りこんでいた。汗がかなり出てる。
キツイよ、普通に。
ミシェルが俺の背から降りた。
「ありがとう、お姉ちゃん! ボクはもう大丈夫だから…… ワガママ言って、ごめんね」
「気にすんな…… 俺が、ミシェルを、おんぶしてやりたかっただけだから……」
「…… お姉ちゃん……!」
「だが、俺はもう、これ以上進めない…… いいから、先に行くんだ。俺の、屍を越えて……」
ガクッ……。
うん、決まった。
これで心置きなく、倒れられる…… 灯台の上からの景色が見られないのはちょっと残念だが、みんなが戻ってくるまで寝てよう……
もう…… 疲れすぎて目が開けらんない。
「まったく…… だから言ったでしょうが」
ちっ、と盛大な舌打ち…… これは、ジョナスだな。
どうやら、額の汗を拭ってくれてるみたいだ…… やっぱり、ジョナスだなぁ……
「少し休ませたら、連れていきますよ。王子とミシェルは、先に行っててください」
「をんをんをんっ♪」
あ、チロル、わざわざ戻ってきてくれたのか。
「…… じゃ、先に行こうか、ミシェル」
「ボク、お姉ちゃんと一緒にいる!」
…… 邪魔だクソガキ。
いかにもキレかけた感じのジョナスの呟きは、ミシェルの耳にも入ったらしい。
「うぇーん! ジョナスのバカぁ!」
泣きながら逃げていくミシェルの軽い足音と、それを追ってるらしいエルリック王子の足音が聞こえて……
そして、涼しいそよ風がどこかから吹いてきた。
―――― ジョナスが、『プチエアー』 を唱えてくれたんだ。
で、頭が持ち上げれて、硬い石の段の感触から、もうちょい柔らかくて適度な弾力のある、ぷりっとした感触に…… って。
俺、もしかして、膝枕でもされてるんでしょうか!?
チロルが、俺の手に鼻を押し付けてクンクンないた。
【正解ですww】
ええええ!?
じゃ、この、頭をヨシヨシされてるこの優しい感触は!?
【ジョナスですwwww】
―――― 今絶対、灯台の外は大雨だ (確信)
【あww 今、目を開けないでくださいねww 驚いたジョナスに放り出されて、階段を転げ落ちて死亡しますからww】
…… 攻略に関することは言わないんじゃ、なかったっけ?
【クレーム対策ですwwww】
なるほど…… 確かに、予告なく死亡しちゃったら、クレームつけたくなる人もいるかもしんないな。俺だって、いきなりみんなとお別れとか嫌だし……
と、ここで。
ジョナスの手が俺の頬を押さえて、額に何か柔らかいものが当たる感触がした。
「…… なにやってるんだか……」
低いひとりごとと、はぁぁぁ、というタメイキが聞こえる…… っていうか、息かかってるよ。ミントの香りのやつが。
…… っていうか。
俺、今、何されたの!?
【大丈夫、大丈夫ww オデコは全年齢対象ですww】
…… ジョナス ―――― !?