14-2. イヅナの家へ行こう(2)
「え…… 家? じゃなかったの?」
イヅナの家は島がまるまる要塞になってる、って聞いてたから、建物が海から突き出てる感じをイメージしてたんだけど…… 実際には。
コンクリートとアスファルトで固められた、だだっ広い地面が広がっているだけだった。
頭のすぐ上では、小型飛行機が旋回しながら 『WELCOME』 と、空に七色の雲で描いてくれているから、たぶんここには間違いないんだろうけど……
「家は? どこ?」
「何も見えませんね……」
「あの灯台が家なんじゃなくて?」
俺とサクラとエリザがキョロキョロ見回しても、建物らしきものといえば、島の端っこにぽちっと見えている、灯台だけだ。
「家は地下になってて、隠してある転移陣で入るんだ。後で案内するぞ」
イヅナの説明によると、地上は飛行場と演習場になっているらしい。ここからは見えないが、外海側には大砲も4基、配置されているんだとか。
「ま、超大型の空母、大砲付きと思ってくれればいいかな」
「大砲! 大砲さわりたい!」
「をんっ♪」
チロルが、しっぽで俺の脚をふぁさふぁさ叩きながら 【大砲はミニゲームになってますよww 簡単操作ですww】 と教えてくれた。楽しそうだな。
「だが、先に灯台に行くか。眺めがいいぞ!」
そんな流れで、戦闘機とヘリコプターが並んだ飛行場の横を、いかにもミリタリーな感じの自動車 (『ジープ』 というらしい) で数分走って、島の端っこに到着。
「近くで見ると大きいだろう?」
「うん…… 意外と」
エルリック王子が言うとおり、桟橋からは小さく見えた灯台は、見上げると首が痛くなるくらい、高かった。
【高さ106m、地上時代に世界一の高さを誇った灯台と同じですww 形は全然違いますがww】
「へぇー」
「昔ながらの灯台と同じで、夜になると点灯して、航行する船の目印になるんだ」
「ふぅん……」
そういえば、リゾートへ行ったときにも豪華客船から灯りが見えていたな。あれがこれだったのか。
入り口の前で、イヅナがなにやらブツブツと解除ワードらしきものを唱えると、カチャリと音がして小さな扉が開いた。人ひとり、通れるくらい。
奥には階段が続いている。
「じゃ、登るか!」
「ちょっとお待ち、イヅナ。まさか、歩いて登るんじゃないでしょうね?」
さすがのエリザも、地上106mには引いているようだ。
サクラが、腕に抱っこしたトイプードルの頭を撫でながら、首をかしげた。
「上までの転移陣やエレベーターなど、あるのではないでしょうか?」
「 な い !」
「………… わかったわ」
イヅナにキッパリ言い切られて、しばし固まったあと、エリザは足元のパピヨン犬を拾い上げて宣言した。
「やってあげようじゃないの…… このあたくしに喧嘩を吹っ掛けたこと、せいぜい後悔するといいわ!」
「ひぇぇぇぇぇ……」
いや普通に無理だと思うぞ!
少なくとも、学園の階段でぜーはー言っちゃう俺には……
「どうぞ」
ジョナスがなぜか、俺に背中を向けて若干、腰を落とした。
「…… え?」
「さっさと乗りなさい。それとも何ですか、自分で歩くつもりですか?」
「ジョナス…… 親切ぅ……!」
なんか優しくて、感動しちゃう!
「何か勘違いしておられるようですが、ヴェリノ。あなたが歩いて登ればどうせ、途中で疲れたもうダメと騒ぐでしょうから。周囲に迷惑を掛けないために……」
「じゃ、サクラはオレが!」
「わ、わたしは自分で頑張ってみます!」
「いーから、いーから」
ひょい、とイヅナにお姫様抱っこされて、ジタバタと暴れるサクラ…… うーん、ヒロインみ!
「ボクも! 頑張る!」
「おおっと、ミシェル……!」
ミシェル、俺より小さいのに俺をお姫様抱っことか…… 断ったらプライドが傷つくんだろうか?
一瞬悩んだけど、危機感はすぐに現実のものになった。
「あっ…… とっとっとっととと……」
「危な」
どさっ。
言い終わる前に、よろけて俺の下敷きになっちゃったぞ。
「…………っ! いたいよぉ……」
「すまん、すぐ、どくから!」
慌てて立ち上がると、ミシェルの大きな緑の瞳に、みるみるうちに涙がたまっていった。
「ふぇぇぇん…… ボクも、頑張りたかったのにぃぃぃ!」
「おお、よしよしよし。ミシェルの気持ちはしっかり分かったから……! 俺には、気持ちだけでじゅうぶんだぜ……!」
ああもう。この、小動物め……!
むしろ俺がお姫様抱っこして思いっきりぐりぐりしたい。
「で、乗らないのですか?」
ジョナスが苛立った声を上げた。
「だったら最後まで自分の足で登るんでしょうね?」
「では、ヴェリノは私が」
ふわっと足元をすくわれた…… いきなり、エルリック王子の顔が近い。ドキドキ…… いや、しちゃったけど、これは誰でもするって!
別に俺がエルリック王子にどうとか、そういうことじゃ、ないんだって!
顔をしかめる、ジョナス。
「王子…… そのような 「君は、エリザを頼むよ、ジョナス」
「…… かしこまりました」
「あっ、あっ、あたくしは、自分で……!」
抱きあげようと接近してきたジョナスから、素早く身をかわしたエリザ。杖を取り出し、超絶早口で呪文を唱えると……
「じゃあね、お先に!」
大型化した杖に乗って、塔の中に飛び込んでいってしまった。
どうやら、飛んで階段登る、ってことらしいんだけど。
「…… どうせ飛ぶなら、外から上に行けば早かったですのに…… 」
サクラの言うとおりだが、思い切り慌てていたから、気づかなかったんだろうな。
「をんっ♪」
【では、灯台イベント 『ドキドキ♡ 彼に抱かれて12分』 をお楽しみくださいww】
チロルがしっぽを振りながら、率先して階段を走りはじめ、戦意を燃やしたらしいカホールとほかのガイド犬たちが、すぐ後に続いた。