閑話10. ふたりきり?のデート②~ミシェル(3)~
「ダメェェェェッ!」
「いたいっ! カホール、なにするんだよ、もうっ!」
「ズッルゥゥゥゥイ ズッルゥゥゥゥイ ズッルゥゥゥゥイ……!」
俺がペロッとしそうになっていたミシェルの頭を思いっきり蹴りとばして、喚きながらパタパタ飛び回るのは、青い手乗り竜だ。
「こら、カホール。蹴るのはやりすぎ!」
「そうだよ! 悔しかったら人間になってみな」
「ミシェルも刺激するな。ほら、拭いてやるから」
クリームのついたほっぺを指でキュッと擦ってやった。うーん、ぷにぷにだ。
「もうっ、わかってないぃぃ!」
ぷんぷんするミシェル…… そんなにペロッとされたかったのか。
「けどな、ペロッとしたとしても、最終的には拭き取ったんじゃないかと思うぞ?」
「そんなもったいないこと、するわけないよっ。洗わずに置いとくんだからね!」
「それはさすがに、汚いと思う……」
するとミシェルは、大きな緑の目をきょろん、とさせた。
「ボクら汚れないよ?」
まぁ、ゲームキャラだからな。
【それはそうとwwww】
チロルが 「をんっ♪」 と吠えながら、俺の足に肉球パンチを繰り出した。
【カホールも、人間に変身できるかもしれませんよww】
「ええ? カホールが、人間に?」
【時間限定ですがww 人間にでもww ほかの動物にでもww】
チロルが俺の服の裾をくわえてクイクイッと引っ張る先には……
『変身の館』 なるアトラクションがあった。
※※※※
そこは、落ち着いた雰囲気の古城。
飾り文字で 『変身の館』 と書かれた看板が掛かった入り口をくぐると……
「本当に、ここに入るの?」
一転して、キラキラ感溢れるファンシーな雰囲気に変わったのに、どん引くエリザ。
「仕方ありません。護衛ですから」
真面目にうなずく、ジョナス。
「変身したらコソコソ隠れなくても、堂々と後つけられますよね? それに、面白そうです」
サクラが興味津々に、アトラクションの説明を読み上げた。
「当館は、変身写真館です。男性なら女性に、女性なら男性に、ご本人のテイストを残しつつの変身を楽しんでいただけます。他の動物への変身も可能。
魔法ボックスの中で、お好きな変身と写真撮影をお楽しみください。
終わった後は、変身が自然に解けるまで約2時間、そのままお楽しみいただけます」
「あら、ちょうど良いじゃない? 確かにあたくしたちが男の子になれば、この状況では便利よね」
「私が…… 女性に……」
「犬でも良くってよ?」
「あ、それ。王子がいたら、すごく喜ばれそうですね」
「とりあえず、鉢合わせる前に入っちゃいましょ」
変身用の 『魔法ボックス』 なる部屋は、入り口から向かって中央と両端の計3部屋。扉で中は見えないが、中央がちょうど 『使用中』になっているから、ヴェリノたちはそこにいるのだろう。
空いている部屋の扉をエリザがばん、と開けると…… そこは一面、鏡で囲まれた豪華な部屋だった。
※※※※
アトラクションの説明によると、この部屋一面の鏡は、『白雪姫の魔女の鏡』 の改良モデルだそうだ。
『ご希望を承りました』
喋るだけでなく、魔法で変身させてくれる。ものすごい進化だな!
「感覚的には、キャラエディットの特別バージョンみたいだな」
俺は腕組みして、鏡に映った俺の姿を確認した。
女の子の顔にもすっかり慣れたけど…… ボーイッシュ美少女から少年に変身した俺、なかなかイケてる!
『いかがですか?』
「せっかくだから、もうちょっと大人にして!」
どこからか響く声に答えると、鏡の表面がぷるぷると波立ち、やがて、25…… くらいか? かなりオッサンになった俺が出てきた。
スタイルも変わって、タイトスカートの軍服 (ミシェルのリクエスト) から、細身のジーンズに襟元の開いたベージュのシャツになっている。
「どう? シブい?」
「お姉ちゃん、カッコいい!」
「カッコイイ! カッコイイ!」
「ありがとう! でもさ…… 男に必要不可欠なアレがある感じがしないんだけど?」
【あくまで女の子向けなのでww どうしても欲しければ、大人のお姉さん向けオプションを購入してくださいww ただし、大人になってからwwww】
「そういうことか……」
【はいww】
まぁ、これで満足しておこう。
外見だけでも男の子になれたんだからな!
「ついでだから、もうちょっと年齢、上げてみて…… あれ? アリヤ船長ほどカッコ良くならないな」
【wwww】
「じゃ、さっきのでいいや!」
俺はとりあえず、25歳くらいのソコソコなオッサン姿で落ち着いた。
…… ふっ。大人の魅力、少しは出てるかな?
さて、次に変身するのは、ミシェルだ。
きっと、すごい美少女になってくれるんだろうなぁ!