閑話10. ふたりきり?のデート①~エルリック王子(4)~
中盤からヴェリノ視点です。
「スイゴウチク ヘ イッタヨ、フタリ」
「で、そこから先は?」
「………… キエチャッタ」
「この…… いえ結構です」
青い手乗り竜に、はぁぁぁ、と嫌みたらしいタメイキをついてみせる、ジョナス。
近場の駐車場に車を停め、戻ってきてみれば、ヴェリノたちの行方を追っていたはずのカホールが、若干しょんぼりと待っていた。
つまりは、途中で見失ったのである。
「どこまで追えましたか?」
「グニャグニャ マガッテ チイサナ トンネル マデ」
「あまり参考にならないわね? 労力の割に成果が出ず、お疲れ様だこと」
水郷地区は、慣れていても迷うほど水路が複雑に入り組んでいる上、陸路の方はしばしば行き止まりになっている。小さなトンネルなど無数にあるのだ。
それが分かっているため、エリザのウエメセ発言もいつもに比べるとキレがなかった。
「こんなこと言いたくないけど、引き返すしか、ないんじゃないかしら。実際に危ないことが起こるわけじゃないんでしょ?」
「王子だけなら大丈夫ですが、ヴェリノが一緒だとわかりませんよ」
「ま、言えてるわね」
「それに、予測はつけられます」
ジョナスは内ポケットから 『水郷地区・お店マップ』 と書かれた小さな冊子を取り出し、ペンで次々と印をつけていった。
「最近の王子との会話から推測できる店のうち、トンネル…… すなわち水路から出入りできる店は、ここ、ここ、ここの3ヶ所にまで絞れますので。順に探せばすぐでしょう」
「この店……」
3つの店に共通する特徴。それは、一目で明らかだった。
そうです、と重々しくうなずく、ジョナス。
「王子は、魔法グッズ専門店へ向かった可能性が高いのです」
※※※※
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。少し、見せてもらうよ」
「どうも、お邪魔します」
「をんをんをんっ♪」
狭い階段を上ると、そこは、ちょっとゴチャっとした感じの店内だった。
レジに立っているエルフタイプの女の子 (たぶんプレイヤー) に頭を下げ、俺はキョロキョロと辺りを見まわした。
天井からはドライフラワーがぶら下がっていて、壁際の棚には本や水晶球、ロウソクなんかが置かれている。別の棚には、いろんな色の三角帽子、レーンには魔法使いの着るローブみたいなのがいくつも下がっている。
レジ前のショーケースには宝石を使った飾りっぽいもの。
そして、レジの後ろの壁には……
「おおお! 魔法の杖! こんなにたくさん!」
「ヴェリノにプレゼントしようと思ってね。欲しがってただろう?」
「エルリック……! まじに良いヤツだなぁ……! ありがとう、ありがとう!」
魔法の杖は、欲しいけど必需品じゃないから…… ずっと我慢してたんだよな。
ちゃんと覚えててくれた、っていうことが、何より嬉しい!
「けど、どうしてここ? 『リーナのよろず屋』 にも魔法の杖あるよね? この店の場所だと、ジョナスたちとはぐれちゃわないかな?」
「ここは雑貨店じゃなくて専門店だから、より良い杖を置いているんだよ。雑貨店のはMPアップだけだが、ここの杖なら、その他何らかの付与効果がつくはずだ」
「へえ…… すごいな!」
「ついでに、ジョナスならどんな手を使っても私たちを見つけてくれるだろうし」
「そっか。そうだよな!」
「それに……」
エルリック王子の手が俺の肩をぐっと引き寄せた。
「少しの間だけでも、ヴェリノと、ふたりきりになってみたかったんだ……」
「そ、そうか…… そりゃどうも……」
いや、ちょっと待て。
なんで、ドキドキして顔が熱くなったりしてるんだ、俺!?
これはもしや、妹の少女漫画でいえばアレ的なシーン…… の、はずがない!
絶対に気のせいだ。
雰囲気に流されてる、だけなんだっ……!
「それで? 何が欲しいの?」
ちょっとだけイライラしてるらしい、エルフ店員さんの声に、ハッとした。
ふぅ…… なんか、呪縛が解けた感!
エルフ店員さん、グッジョブ!
「あの、杖を見せてほしいんだけど」
「あ、そう。当店の杖は、お客様に選んでいただけませんけど、それでいいですか?」
「どういうこと?」
「当店は魔法の専門店。お客様が杖を選ぶのではなく、杖が、自身に相応しい持ち主を選ぶのです。
杖に選ばれたら、気にくわなくてもそれを購入していただくことになっております。でないと、杖マインドが傷ついて、売り物にならなくなってしまうので」
「うぉぉぉぉ……! それ、めちゃくちゃ、カッコいいぃぃぃぃぃ!!!」
【中2心がそそられますねwwww】
「おう、ホントそれ! じゃあ、よろしくお願いしますっ!」
「………… では、二階のフィッティングルームへどうぞ」
俺たちは店員さんの後について、ランプの灯りがゆらゆらしてる階段を上っていった。