13-31. リゾートへ行こう(31)~BBQパーティー~
「…… えー、船旅も間もなく終わり、明朝にはセイント・ブリリアント港に帰港いたします。皆様とはそこでお別れ、となるわけですが…… わたくしども一同、またのお帰りを心よりお待ちしております。
それでは、残り少ない船旅を目一杯お楽しみください! …… 乾杯!」
甲板を彩る幻想的なイルミネーションの下、ビールジョッキを高々と掲げる船長。
「「「「かんぱーい!」」」」
俺たちも、肉の焼けるいい匂いが漂う中、グラスを合わせた。
―――― 夕方、7時。
太陽がすっかり海に沈んで、星が空にまたたき始める頃、BBQパーティーは始まった。
プールサイドにずらっと並ぶBBQ用のコンロの上では、肉や野菜、ウィンナーがジュージュー音を立てて煙を上げている。
「はい、チロルにアルフレッドに、りゅうのすけ。それからこれ、ナスカくんの!」
「をんをんをんをんをんっ♡」 「くぅーん……♡」 「きゃんきゃんきゃんきゃん♡」 「…………♪」
さすが豪華客船の肉。ガイド犬たちも、めちゃくちゃ食いついてるな。
俺も、いい感じにやけたのを口に放り込んだ。
「………… うまい!」
めちゃくちゃ柔らかい!
そして、甘みさえ感じるようなしっかりした肉の味……!
「すごく美味しいです。野菜も、新鮮で味が濃くて……」
「んんんんー最高ー! いくらでも食べられるー!」
サクラもエルミアさんも、満足そうだな。
「あれ? エリザも食べなよ?」
どうも、エリザの皿からは肉が減ってない気がする。
「ほらほら、ウィンナーもうまいぞ! パリパリでジューシー!」
「わかってるわよ……!」
あれ。なんかやっぱり、様子がおかしいな?
「気にしてるんですね」
ズバリと斬り込むのは、サクラだ。
「船長が来ないから」
「そそそそそんなことっ!」
おお、図星だったのか。
「船長は、仕事なんだから仕方ないでしょうっ!?」
「いやーわかるよー、リザたーん」
肉を呑み込んで、しみじみと過去を振り返るのは、エルミアさんだ。
「アタシもー、好意値500に到達した時には、いつ言いにきてくれるかなーって、超超、ソワソワしてたー……」
「べべべ別にっ、あたくしはそんなっ!」
「何も恥ずかしがることないよー、リザたん」
そうですよ、とサクラもうなずいた。
「いつになるか分かりませんが、その時が来たら、エリザさんらしくビシッと決めてください」
―――― そう。仮ログアウト前に見た時、アリヤ船長の好意値は、なんと510。
下船までに届けばいいね、なんて言ってたラインを、BBQパーティーの前にあっさりと超えてしまったのである。
餌付けと密着の効果ですね、と、サクラは冷静に分析していたが…… それはともかく。
告白ラインを超えてしまった以上、エリザが 『いつくる!?』 とドキマギするのは、当然、といえた。
(ここにきてモヤモヤするんじゃない、俺!)
そして、ついに。
「お嬢さま方、足りない物はございませんでしょうか」
渋い美声とともに、イケオジ船長が、現れた。
「ありませーん!」 「美味しくいただいてます」
口々に答えるエルミアさんとサクラ。
肝心の、エリザはといえば……
「………… 別に?」
顔をぷいっとそむけたり、してるんですけど……!?
「さようでございますか。
それでは、またご用件がありましたら、いつでもお言いつけくださいませ」
船長は爽やかに微笑み、流れるようなお辞儀を披露して、忙しそうに去っていった。
「……………… 仕事中、だものね」
いやエリザ、後ろ姿に向かってそんなこと言うなら、その前にもっと違う反応しなよ! …… とは、つっこめないな。
だって、この 「フンッ」 て感じの顔、絶対に 『ガッカリ』 の裏返しだと思うから……!
「そうそう、仕事中だしな!」
「ですよ。むしろ仕事中に告白する時点でイケオジ失格と、私は思います」
「そうよね。公私のけじめはきちんとつけてこそ、立派な大人よね!?」
サクラ…… 良いこと言ってくれて、ありがとう! エリザもたぶん、それで納得するだろう。
「わかるー!」
深くうなずくのは、エルミアさんだ。
「まー、アタシはケジメとかより……
『オマエのことが頭から離れなくて、仕事にならないんだ! 責任とって、くれるよな?』 的なのが嬉しいけどー」
「…… ああ。ハロルドさんが大人になったら、言いそうですね」
「でしょでしょー? 可愛いよねー♡」
「………… さあ……?」
船長はそれから2回ほど俺たちに声を掛けてはくれたものの、結局、エリザに個人的に話があるようなことは何もなく……
俺たちはエリザを 「仕事とプライベートをきっちり分けるってカッコいいな! それでこそ船長!」 と、慰めまくったのだった。
そして、それは、俺たちが船を下りるまで、続いた。
―――― どうする気だ、船長!?