13-26. リゾートへ行こう(26)~ウミガメ~
大きな甲羅。ヒレみたいな手足に、何か考えてるみたいに見える、黒い瞳。
人間に慣れているのか、俺たちが近づいても逃げたりしないで、逆にゆっくりと泳いでくれてるみたいだ。
エルリック王子が 『これ、食べるかな?』 というように首を少しかしげつつ、ウミガメに向かって残ったおにぎりを投げた。
―――― 海の中ではもちろん、喋ると口の中に水が入っちゃうし聞こえにくいしで、俺たちは大体無言だ。
けど、お互いが考えてることは、ジェスチャーなんかで意外と分かる。
『ほら、ゴハンあるよっ』
ミシェルが水中をふよふよと漂うごはんを、ウミガメの方に寄せようとジタバタした。
それが分かったのか、すいーっと白いおにぎりの欠片を追いかけていく、ウミガメ。
すぐに追い付き、赤い口をあけて、パクっとごはんを食べた。
くぅぅぅぅっ……! かわいい!
もっと、エサをあげたい!
『これ、どうぞ』
サクラがゆっくりと俺に寄って、おにぎりを分けてくれた。
『ありがと、サクラ! はい、ミシェルに、エリザ』
『わーい、お姉ちゃん、ありがとっ』
『どうしても、っていうの? 仕方ないわね。もらってあげるわ!』
エルミアさんは…… と見ると、ハロルドが 『もうエサがないなんて、呆れたよ。計画性ゼロだね』 的な仕草をしながらも、おにぎりを渡してるところだった。
エルミアさんは 『はっち、優しいー!』 かな。水中でハロルドにハグしている。
こうして俺たちはウミガメに少しずつ、エサを投げてあげたのだが、あまり命中率は良くない。他の魚に先に食べられちゃうことも、あるんだよな。
あっ、そうだ。
もう少し潜って、ウミガメに直接手渡せば、いいんじゃないか?
名案だな!
俺はせーの、で頭を下に向け、大きく水をかいてみた。
目の端の方に一瞬、イズナが 『ちょい待て!』 と慌てた感じになってるのが見えて…… すぐに、大量の水が俺の口に流れ込んできた。
うう、これはまずい!
息ができない! …… そっか、シュノーケルって水の上の空気を吸ってるワケだから、当然、ってわけか…… しまったぁぁぁあ!
俺は何とか泳ごうと、手足をバタバタさせてみたけど、動けてるのか沈んでるかも良くわからないし、海の水はドンドン、口の中に入ってくるしで……
あれ。
みんな、どこだろう……?
…… なんか、久しぶりに溺れた感っ!
★☆★☆★
『ミラクル・マジカル・はじまるよっ!』
気を失ったら、強制ログアウト。再ログインは15分後になる。
ってわけで、15分の間にリアルでのトイレやおやつを済ませ、恥ずかしいログインワードを唱えてログインしてみると……
「本っ当に、よく溺れる子ね!」
「まーまー、リザたん。無事だったんだから良かったじゃないー!」
「ある意味ではヒロインに相応しい所業かと」
「…… って、ヒロインはサクラだろ」
冷静にコメントするサクラにツッコミ入れて目を開けると、みんなの顔がめちゃくちゃ近かった。
背中に当たるのは、サラサラした砂の感触…… どうやら俺、小島の砂浜に寝かされてるみたいだ。
「良かったぁぁぁ! お姉ちゃん、生きてたっ!」
「をんをんをんをんっ!」
「いやースマンスマン、シュノーケル中に潜る時は気を付けるよう言うの、忘れてた!」
「いや、イヅナ、俺の方こそ 「気を付けもせずに潜る人がいるとは、普通、考えませんからね」
俺を遮って、俺の言いたかったことを8割増くらいの冷たさで言ってくれたのは、ジョナスだ…… 本当に、いつも通りに復活してくれたんだなぁ、ジョナス……!
「ヴェリノのバカさ加減を考慮に入れていないのがいけなかった、といえばそうですが、そもそも…… 」
ぐっ、と眼鏡を中指で押し上げると、氷の魔王クオリティで言い放つ。
「バカなのが、いけないんです」
「ジョナス……! ありがとう、ありがとう!」
「…………っ! こら、離れなさい」
感動のあまり、起き上がって取り付く俺を、容赦なく引き剥がすジョナス。
うん、怖い怖いとずっと思ってきたが、ジョナスはやっぱり、こうじゃなくちゃな!
「こんなこと言ってるけど、必死でヴェリノを救助したのは、ジョナ 「間違いです」
エルリック王子の口をすかさず塞いでジョナスが言うには。
「ウミガメが背に乗せて運んでいたのを、たまたま見つけただけです……!」
「ええええ!? まじ!?」
本当なんですか、それはっ!?
俺、ウミガメの背中に乗ってたのーーー!?
「だったら、その時のスチルとか欲しい! 誰か、撮ってない?」
エルリック王子、イヅナ、ミシェル、ハロルドを順に見回してみるが、彼らは一様に 「さぁ?」 と首をかしげている。
「私たちは皆、別の場所を探していたからね」
「そうそう、手分けしてな!」
「お姉ちゃんだから、ボクが助けてあげて、人工呼吸とかしてあげたかったのになっ……」
「何しろ、僕たちが合図を受けた時には、既に処置済みだったからね」
どうやら、俺がウミガメの背に乗った証拠スチルは無さそうだ…… 残念。
「そうそう、こんなスチルなら、ありますよ…… あっ」
サクラが俺に差し出そうとしたスチルカメラを、ジョナスが横から高速で奪い取っていった。
そのまま高速でカメラをいじり、「失礼しました」 とサクラに返す、ジョナス。
「重大な個人情報が漏洩される恐れがありましたので、勝手に消去させていただきました。申し訳なくは、存じますが……」
えっ、NPCに個人情報だと!?
…… 悪いけど、あったのか、とか思ってしまうんだけど!?
エルリック王子が顔をしかめた。
「ジョナス。プレイヤーが撮ったスチルは…… 「いいんです」
サクラが、スチルカメラを胸に抱きしめて、ニッコリした。
「それも含めて、いろいろ、美味しかったですから!」
…… なら、いいかな…… ?