13-24. リゾートへ行こう(24)~お昼ごはん~
「スイカ爆弾…… 大当たりはヴェリノさんでしたね。おめでとうございます」
ニコニコして手を叩いたのは、サクラだ。
どうやら、サプライズで用意したスイカのうち1つを爆発するものにしていたらしいのだが……
普段と全く変わりない様子でそんなものを仕掛けるなんて、恐ろしい子っ!
もっとも俺だけじゃなくて、派手に爆発したスイカの汁はサクラ含め全員にかかっているし、チロルによると 【スイカ爆弾はスイカ割りゲームで人気のアイテムですww】 だそうで、サクラに悪気はないのだが。
【ちなみに、大人のお姉さん向け有料オプションだと、お気に入りのNPCとお肌についたスイカを丁寧にな、いえ、ホニャララしあう追加イベントつきwwww】
「そのイベントの価値はよく分からないなぁ…… 正直、気持ち悪いぞ」
【wwww 大人になったら是非、お試しくださいww】
チロルが営業を掛けてる間に、俺たちが選んでるのは、キモノ…… みたいな衣装。
イヅナの家が経営する高級ホテルでレンタルサービスしてる 『琉装』 なるもので、スイカで汚れた服の着替えにイヅナが勧めてくれたのだ。
イヅナが連絡したら、15分経たないうちにコテージまで出張してきてくれたのだ。今更だけど、金持ちすごい。
そして今は、女の子だけで一室に集まり、アレコレと手にとって見ているところ、というわけだ。
ちなみにNPCたちも別室で着替え中。ジョナスは 「私は普通のスーツでけっこうです」 と言っていたが、エルリック王子に 「私と同じ服装は嫌なのかな」 とか言われて簡単に降参した…… きっと、ふたり、お揃いだな!
『琉装』 はオキナワの伝統衣装だそうで、キモノを少しゆったりさせたみたいな形をしている。帯は細いものを、前でリボン結びにしてて、かわいい感じだ。
エルミアさんは白地に細かい模様が気に入ったらしい。さっきからそういったものばかり、手にとっている。
「へー。模様がハッキリしてるねー! 独特ー!」
「これは紅型ですね。オキナワ伝統の染め物で、染料でなく顔料で染めるんです。色鮮やかで退色しにくいはずですよ」
「詳しいな。さすが、サクラ!」
「この染め物は浴衣にもなってるので…… 街で見た時に、変わってるな、と思って、勉強したんです」
「さすが、サクラ!」
感心しすぎて、もう一度言っちゃうぞ。基本サクラは、真面目な勉強家なんだよな。
自分の衣装を選ぶのは後回しで、気になるらしい柄のスチルを撮ったり、レンタルサービスのNPCさんに何か質問したりして、忙しそうだ。
「あたくしは、これにするわ!」
「うんっ、それ似合ってるぞ、エリザ! お目が高い、ってやつだな、きっと」
「おーっほっほっほ! そうでしょうとも」
エリザが選んだのは、紺地に一面、いろんな草花と蝶が描かれたものだ。地は紺だけど、模様が極彩色というのか、とにかくいろんな色合いだから、華やかな感じがする。
「エリザが紺なら、俺は…… うーん…… どれがいいと思う?」
「そーだなー、ヴぇっちはー、前、浴衣着てた時にも思ったけど、大きめの柄似合うよねー これとかどうー?」
「おおっ、カッコいいな!」
驚異の記憶力を見せながら、エルミアさんが指さしたのは、黄色の地に5枚の花びらが重なるように咲いた花と、大きな鳥の模様が描かれた上着だった。
「これ、鳳凰だよね!? 『ポケット妖怪』 の!」
虹色の、風に流れるような長い尾羽。バサッと広げられた両翼はグラデーションがキレイで、今にも飛んで出てきそうだ。
【ポケット妖怪の、かは分かりませんがww】
チロルがしっぽを、ふぁさふぁさ揺すりながら解説してくれた。
【ちなみに花は 『ゆうな』 ww 花言葉は 『楽しい思い出』 ですww】
「うぉぉぉ! 俺のためにある衣装だな!」
その後サクラが、淡い水色の地に海の生き物…… 珊瑚やウミガメやヒトデなんかが描かれた衣装を選んで、俺たちの着替えが完了したところで。
お昼ごはんになった。
せっせと食事の準備をしてくれてるNPCたちも、琉装になっている。
帯を前で結ぶのは俺たちと同じ。女の子みたいな上着はなくて、代わりに帯と同じ布で作った平たい帽子を被っているな。
キモノの部分の布は、女の子の紅型みたいな華やかさはないが、細かく模様が織り込まれて、これはこれで高級そうだ。
「はいっ、お姉ちゃん!」
ミシェルがちょこちょこと、俺の前にお盆を持ってきてくれた。
「今日のメニューは 『タコライス・温玉のせ』 ですよっ」
「おおお! なんか美味そう!」
ホカホカのご飯に、ぱりっとしたレタスや芸術的に細い千切りキャベツ、ほろほろの肉そぼろが盛られて、その上にチーズとトロトロの温玉が乗っかっている。サイドに添えられた真っ赤なミニトマトも、食欲をそそるなぁ……
「ジョナスが作ったの?」
「そうだよ」
実は前もってオキナワのご当地メニューを調べててね……、とエルリック王子がリークするのを、ジョナスが 「王子に滅多なものをお出しするわけにはいきませんので」 と、ピシャリと遮った。
朝と比べたら、かなりギクシャクしなくなった感じがする。お馴染みのやりとりって、和むなぁ……。
「じゃ、食べよっ、お姉ちゃん」
「カホール モ……!」
ミシェルが俺の膝によじ登り、カホールが肩にちょこんと乗ってきて、俺たちはみんなで 「いただきます」 をしたのだった。
うーーん、普通に平和で、すっごい幸せ!
※4/5誤字訂正しました。報告くださった方、どうもありがとうございます!