13-21. リゾートへ行こう(21)~手持ち花火大会~
「ヴェリノ…… こっちを見たまえ」
「なに?」
深刻なエルリック王子の声に、俺が振り向いた途端。
王子の手が、ジョナスの顔を両側から、むにっと掴んだ。
いつもは鋭い印象の目尻が、ガクッと引き下がり、薄い形の良い唇がグニッと歪んで、ツンっとした鼻先は右手の中指でブーっと押し上げられて……
「ぶふっ……! ぶふふふふふっ! げほっ……! …… いたっ!」
ついに、出た。
鼻からポーション (グァバジュース味) ……!!!
「いて…… ふひゃひゃひゃひゃ……」
痛いけど、笑いが止まらないっ……!
俺だけじゃない。
イヅナもミシェルもエルミアさんも、ジョナスの強制変顔にウケまくってるし、サクラは必死で笑いをこらえ、エリザは扇の陰で肩を震わせている。
そしてチロルは盛大に草を生やし、カホールは空中でパタパタともがき、ハロルドさえも、口元がいつもよりにんまりとなっていて…… つまりは、大成功だな!
「ぶはっ、ひゃはははは…… 鼻いてー……」
エルリック王子が手を離した後もまだ、鼻を押さえて笑う俺に、白いハンカチが、すっと差し出された。
「お? ありがとう、ジョナス!」
「…… 全く。何してるのか。情けない……」
不機嫌そのものの声も、久しぶりで何か懐かしい。
「ああー良かった! やっと喋ってくれたぁぁっ!」
「………………っ!」
俺がうっかり、バンザイなんてしたせいだろうか。
ジョナスは、はっとしたような顔をして、立ち上がると…… ずんずんと奥の部屋に引き返して……
ぴしゃっ。
フスマを閉めて、しまった。
「おおおーい、ジョナスぅぅ?」
「ジョナス、出てきたまえ」
俺とエルリック王子が呼び掛けても、返事すら、ない。
「ジョナたま、乙女みたーい! かわいいー!」
「重症ですね」
エルミアさんがきゃー、と喜び、サクラは気の毒そうな顔をした。
「いや、でも! 喋ってくれたし、一歩前進、と思っとこう!」
まだまだ、作戦はあるのだ。
「ひゃぁっほぉぉぉぅっ! こうすれば、打ち上げ花火みたいだろぉぉぉっ!?」
「 バ カ ね 」
「エリザも一緒にどうだ?」
「アタシ、やるーーー!」
「さすがエルミアさんっ!」
「俺も! 俺も!」 「ボクももちろんします!」
「イヅナにミシェル……! サンキュー!」
皆、こんなにジョナスのことを心配してくれてるなんて、感動だな。
「では、ご一緒にぃぃぃっ!」
「「「「 ひゃっはーーーーーっ!!! 」」」」
夕食の後は待ちに待った、 『手持ち花火大会』 …… そして、 『百年の恋も冷める』 作戦その2、 『手持ち花火でバカみたいに騒ぐ残念女子』 決行だ。
奇声を上げながら火のついた手持ち花火を振り回し、庭中を駆け回るのである!
「をんをんをんっ♪」 「きゃんきゃんきゃんっ」 「くぅーん、くぅんっ」 「………………」
チロルたちガイド犬までが、参加して走ってくれている。
皆ではしゃぎまくるのも、パチパチシューシューいう花火の音もテンション上がるし、いろんな色に変わる光の渦や飛び散る火花はめちゃくちゃきれいだし、サクラはスチルを撮りまくってくれてるし、で。
作戦、というよりは、実は本当に楽しくなっちゃってる。けど……
ジョナスはバカが嫌いだからな。
これで、好意値はかなり減退したに違いない!
「おおいっ! ジョナス! ジョナスも一緒に、やろうぜ! ほれほれー!」
ジョナスは、王子に無理やり外に連れ出され、勝手に戻らないように片手をがっちりホールドされているものの、石像みたいに固まっていた。
その空いてる方の手に花火を無理やり握らせて、俺の手を添えたまま、ブンブン振り回す!
「ひゃっはーーーっ! ヴぇっちに手を握られてこんなバカなことをさせられてるなんてー、即座に振りほどきたいのに、なぜか振りほどけないー! 参ったぜー、ひゃっはーーー!」
タイミングよく、アテレコを入れてくれるのは、やっぱりエルミアさんだ。
内容はアレだが、バカっぽさが強調される点では非常にグッジョブ!
「あーー! 今すぐー、ヴぇっちを抱きしめたくてー、ドキドキしてるぜーー、ひゃっはーーーっ!」
「いや、それはないだろ!」
なにしろ、今は好意値が激減してるはず!
そうして、ちょっとクールダウンすれば、きっと俺との間柄なんて悩むほどのことじゃない、って気づけるはず……!
ドキドキされちゃ、困るのだ!
「どうかな、ジョナス? そろそろ、なにかツッコミ入れたくなってきてない?」
「…………………… なにか、とは」
よかった、ジョナスが喋った!
バンザイしたいのを必死にガマンして、なるべく通常モードを心がける、俺。さっきと同じ失敗は、繰り返さないのだ!
「それはほら、振り回してる手を逆にねじって掴まえて、身動きできないよう固めた上で背中に花火をくくりつけて、 『ゴミはこの地上に必要ありません。大気圏外で楽しんでらっしゃい』 って容赦なく火をつける、みたいな」
そう、ジョナスといえば、普段はこんな感じだよな。
「えええーーー! 僕ってそんなイメージなのーーー!? いやもちろん自覚はあるけどーーー! 改めて言われるとショックーーーー!」
よくわかるね、とエルリック王子に誉められて、エルミアさんのアテレコはますます、白熱した。
「もーーー、愛する人に絶対にそんなことしないーーー! となると、いきなり態度変わりすぎて恥ずかしーからここは冷静にーーー!? いや、でもーーーー!」
「……………………」
「ほらほら、ジョナス。何か言わないと、言いたい放題されてるぞ?」
「って言われてもーーー! だって本当のことだからーーーー!」
ジョナスの目がすっと細まった。ついに、イライラが閾値を越えたってところかな?
こうなれば、あとひといきだ。
※4/2誤字訂正しました。報告下さった方、ありがとうございます!