13-19. リゾートへ行こう(19)~作戦会議~
表面は白くてサラサラのビーチの砂は、ちょっと掘るとすぐに海水がにじんできて、湿り気のある温かな寝床ができる。
上から掛けてもらう砂もじんわり温かくて、海で冷えた身体にはすごく気持ち良い。
時々目を開けると見えるのは、ぼんやりと白みがかったキレイな青空と遠くの入道雲、それにムッツリしたジョナスの顔だ。
「おおう、せっかくだから、もっとおっぱい盛ってみて……」
「………………」
「ジョナス…… せっかくボケてるんだから 『バカかお前は』 的なツッコミくらい入れてくれると嬉しいんだけど……」
「………………」
「おーい、ジョナスぅぅ…………?」
「………………」
王子の説得 (というか、ほぼ命令だった) に応じて出てきてくれたのはいいんだけど、明らかに楽しく無さそうで、ずっと一言も喋ってくれないんだよな、ジョナスのやつ。
「わかった! ボク盛ってあげるね、お姉ちゃん!」
「カホール モ……!」
「どんだけ爆発させる気だ、お前ら……!」
ミシェルとカホールが俺の胸を盛り上げるのに、イヅナが吹き出した。
エルリック王子は、そんな俺たちを爽やかに見守ってる…… たぶん、胸とかそういう発言はしないんだな、王子だから。
「あら、あたくしの倍はいったわね」
「ジャ エリザサマ モ モット……!」
「ちょっと! そういう意味じゃ、なくってよ!?」
「いいじゃんー! アタシ、巨乳好きーーー! 後で揉ましてねっ、リザたんっ」
「じゃあ、わたしも」
「なななななによっ、ふたりして!」
「……………………」
エルミアさんだけじゃなく、珍しくサクラまでが悪ノリして盛り上がってる中、ジョナスだけが、ひたすら暗い。
それも、いつもの 『氷の魔王』 というのとも違って 『氷漬けにされてどんより』 みたいな印象だ。
ついでに、俺がジョナスの方を見ると、必ず目を逸らされるというオマケ付き。
その度にチロルは黙って草生やしまくるし、サクラもエリザも、仕方ないと思ってるのか平気そうだし……
エルミアさんに至っては 「もうー! ジョナたま尊すぎーーー! あ、ハロルドもイイけどね!」 なんて、明らかに楽しんでるんだけど。
俺には、ちょっとキツい!
―――― ここで 『保留にしといて』 とか言ったら、『ふざけるな』 と怒られそうだしな。正直、もう、お手上げ状態だ。
なにか、良い案無いかなぁっ!?
★☆★☆★
「① 直接聞いた上で、『悩むな! 気楽にいこうぜ!』 と力強く励ます。
② 問題には敢えて触れず、『答えが出るまで、しばらく保留にしとくのも…… 有りだと思うぞ?』 とすっごい優しく諭す。
③ 百年の恋も冷める技、連続披露
どれがイイと思う?」
「 バ カ ね 」
「ジョナスさんの性格だと、①と②は効き目があるとは思えませんし…… ③はありかもしれませんけど、個人的には、逆ハーレムが崩れたら悲しいです」
「うーん…… だよなぁ…… 」
結局、海水浴の間には良いアイデアは浮かばず、俺たちはコテージの広い畳の部屋で布団を敷きながら話し合っていた。
(この布団から、仮ログアウトできるのだ。)
ジョナスは考え深く、常に冷静沈着…… 逆に言えば、説得するのが難しい。
①にしても②にしても、論理の穴をこれでもかというほど突かれ暴かれ、ポイして踏みにじられそうな気がする。
「やっぱり、③じゃないか?」
「…… 逆ハーレム、やめる気?」
「いや、そういう、つもりじゃ……」
エリザのガッカリを隠そうとしてより上からになってる視線、チクチク突き刺さってくるなぁ…… 主に、心に。
一方でサクラの方は、まだまだ落ち着いてるようだ。
「こんな子をどうして好きになったんだ自分、って、ますます落ち込みませんかね、ジョナスさん」
「それは、ありそうだな!」
ああ、もう。あれこれ考えてると、俺まで落ち込みそうになるぞ。
「でも、ジョナスは今、言わばキャパオーバーな事態でグルグル悩んでる…… つまり、加熱中みたいなものだからさ。いったん、クールダウンするのもありじゃないかな?」
「ヴェリノさんがこれから何を言い出すか、予想がつくだけに怖いです」
もう予想してくれるとは、さすがサクラだ。
丁寧に前フリしといて良かった。
よし。
俺は意を決して、布団を敷く手を止め、息を吸い込んだ。
「③で行こう!」
「あなた、気は確かかしら!?」
「いやいや、よく考えてみなよ、エリザ。ジョナスの好意値は、この4ヵ月で4000も上がったんだぞ。
つまり、今いったん0に戻ったとしても、12月までには再び4000に上げることが可能……!」
「もう恋なんてしない、状態になっちゃったら、どうするんですか?」
うむむむ、そうきたか、サクラ。
サクラは、できるだけリスクを減らしつつ着実に希望のエンディングを掴みたい方なんだよな。
だから、その心配はめちゃくちゃ分かる。
だが、しかし。
「俺は、ジョナスが俺たちと楽しくバカンス過ごせる方が大事だと思う! ……もちろん、その後は、好意値回復がんばるから。な、頼む!」
エリザとサクラに、手を合わせて拝んでみせると、ふたりはしばらく顔を見合わせて、それから口々に、こう言ったのだった。
「ふんっ! あたくしたちが無理に逆ハーレム勧めてるとでも言いたいのかしら!?」
「それはもう、わたしたちが無理強いするわけには、いきませんから…… 」
「もうっ、勝手にしてちょうだい!」
「ですね」
サクラもエリザも…… なんだかんだ言っても親切なんだよな。
「ありがとう、エリザ! ありがとう、サクラ!」
よし、頑張ってバカ連発するぞ!
3/30誤字訂正しました!
報告下さった方、どうもありがとうございます!