13-18. リゾートへ行こう(18)~リゾートのビーチ~
お昼はジョナスが 『ソーキそば』 なるものを作ってくれた。
トロトロの豚軟骨、コクのあるスープ、太めの歯ごたえある麺。
サイドメニュー的に出された、海ぶどう丼のプチプチ食感と交互に食べるのが、また何とも言えず……
「うん、めちゃくちゃ美味い!」
「をんをんっ♪」
「ジョナスさん、女子力高いですよね」
「きゃんっ♪」
「ふっ…… ま、認めてあげないこともなくってよ!?」
「くぅーん……」
「ジョナたま最高ーーー! あ、もちろんハロルドの方が好きだけどー!」
「…………」
俺たちは口々に誉めながら、ガイド犬たちと一緒に甘辛い豚軟骨煮を頬張り麺をすすり、丼を頬張った。…… が。
その間、ジョナスは全く姿を現さなかった。
「よっぽど忙しいんだな、ジョナスのヤツ……」
「いや、ヴェリノが避けられてるんだろ」
「もー、ジョナたまったら、可愛すぎーー! あ、もちろんハロルドの方が可愛いけどー!」
「避けられてるだなんて…… たとえ本当でも、そんなこと言ってあげたら、可哀想だよ?」
くぅぅっ…… イヅナとエルミアさんに、ハロルドまでもが 『避けられてる』 派か……。
―――― 落ち込むな、俺。
きっと、何か理由がある筈なんだ……!
―――― そういえば、買い物帰りにサクラがなぜかお祝い言ってくれてたな。
「どうしてか、ですか?」
レインボーカラーのビーチボールをパステルカラーの水着の胸に抱えて、サクラが首をわずかにかしげた。
―――― 昼食後、俺たち (ジョナス除く) は、皆でビーチに出ていた。
コテージの縁側からすぐがビーチだから、もう感覚的には 『この海、俺の庭』 って言いたくなる。オヤツや飲み物を縁側に置いておけば、好きな時に簡単に休憩に戻れるのも、便利だなぁ!
そんな感じで皆でワイワイ遊んでて、なかなか聞けなかった 「おめでとうございます」 の理由…… 風で遠くに飛んでいったビーチボールをサクラと拾いにいったタイミングで、やっと聞けた、っていうわけだ。
「そんなの…… 最初にエリザさんも言ってたじゃないですか」
「え? なんだったっけ?」
「だから、ジョナスさんが、ついに自覚したからに、決まってると思うんですど」
「じじじ、自覚ぅ……!? 確かにエリザ、言ってたな。何のことか、よく分からなかったんだけど……」
「恋心ですよ」
「えええええええっ!?」
ナニ当たり前のこと聞いてるんですかー、みたいなノリで、ごく普通に 『恋心』 とかいう言葉が出てくる衝撃! …… なにげに、ダメージでかいぞ。
「きっと今、ジョナスさんは 『どんな顔してヴェリノさんに会えばいいか分からない』 とか 『王子に申し訳なくて顔向けできない』 とか 『今後どうしよう。死んでお詫びを……』 とか、そういうノリなんですよ」
「いや、死んじゃダメじゃん!」
「大丈夫です。教会に大金積めば、蘇生させてくれるはずですから」
【ちなみにその教会は、『現存するどの宗教にも該当しない、ゲーム状一般的な組織であるため文化の一種と見なし』 リアルの布教・宗教的集会禁止令の対象外となっておりますwwww】
チロルが波と戯れながら教えてくれた…… というか、このゲームにもあったんだな、RPGで定番の 『教会』 が。
…… いや、そういう問題じゃなくて。
「けど、死んじゃうなら、その前に止めなきゃ!」
「あくまで可能性、ですよ。攻略掲示板にはそこまでの情報が無かったですし」
「ええええ…… ジョナスぅぅぅ…… どうしよう……」
まさか俺のせいでジョナスがそこまで思いつめてるとは…… なんとかしたいところだが、方法が全く分からないぞ!
「ヴェリノさん、そんなに心配しないでください」
うろたえる俺に対し、サクラはあくまで冷静だ。
「ゲーム的に考えて、きっと何とかなるはずですから。だから皆 『放っといた方がいい』 って言ってるんですよ」
「うーん、そうかもしれないけど、さぁ……」
俺は、せっかく皆でバカンスに来てるんだったら、ジョナスにも楽しんでほしい。
皆が楽しく過ごしてるのに、誰かが死にそうなほど悩んでるとしたら、それって全然楽しくないよね!?
「とりあえず、ジョナスに保留してもらうのはどうかな?」
―――― 客船で、俺がちょっとモヤモヤしてた時に、エリザが 「保留でいいじゃない」 って言ってくれたんだよな。
いい加減に聞こえるかもしれないけど、俺はそれでホッとした…… すぐに結論を出す必要ない、待ってててもらえるんだ、って思ったんだ。
「俺、ジョナスに話してくる! 皆にヨロシク言っといて」
「ちょっと待ってください」
早速、コテージの方に駆け出そうとした俺のスク水の裾を、サクラが掴んだ。
「今ヴェリノさんが行っても、ジョナスさんのことですから、ますます意固地になるのは目に見えてます。
きっと 『何でもありません。忙しいだけですからサッサと出ていきなさい』 とか顔も見ずに言われて、氷の魔王オーラに気圧されたヴェリノさんが、何も言えずにスゴスゴと引き下がる流れ……」
「………… 言えてるな」
頭の中では、何言われても押し切ろうとシミュレーションしてみてるんだが。ジョナスの氷の魔王オーラ、半端ないからなぁ……。
「けど、何もしないままじゃ……」
「ここは、適任者に任せましょう」
サクラが言った時、向こうから、アリヤ船長セレクト・金茶のワンショルダー (と呼ぶらしい) 水着姿のエリザが走ってきた。
「ちょっと、遅いわよ!」
「ああごめん、すぐ行く」
「何をコソコソとやってたのかしら!?」
「いや、ジョナスがだな……」
サクラとのやり取りを簡単に説明すると、エリザはあっさりと断言した。
「適任者といえば、王子ね」