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閑話~エリザとサクラ(3)~再会前~

 エリザには、『悪役令嬢(かませ犬)』 として王子(攻略対象)サクラ(ヒロイン)への好意値を上げる使命がある。


 ルームメイトのヴェリノの予想外の行動でイベントが狂ってしまった今、取るべき行動はただひとつ、であった。


 すなわち。

 まず、腰に手を当ててアゴをツン、と反らし、次に。

「ご、ご機嫌(うるわ)しゅう……」 と、おずおず礼をとってくるサクラ(ヒロイン)を上からしっかり見下ろす。


 そして、一気にまくし立てる。


「ただの気まぐれで、親切心なんて全く無いから誤解しないでいただきたいのだけれど、あたくしのランチに付き合わせてあげるわ? ありがたく、おこぼれを頂戴なさい!」


「え、そ、そんな……恐れ多いです……っ」


 ……つまりは、王子とヴェリノとのランチイベントに無理にでも割り込み、王子のサクラ(ヒロイン)に対する好意値をあげよう、という作戦である。


「このあたくしの申し出を断ることなど、許しませんわ!」


 閉じた扇で、ずずいっ、とサクラのアゴを持ち上げるエリザ。

 サクラが顔を赤くし、全身をぷるぷると震わせているのが、爆笑を抑えようとしているためだとは、気づいていないようだ。


「は、はい……お言葉に甘えて……」


「よろしい。いやしいメス犬は、おとなしくついてくるのがお似合いね! おほほほほほっ!」


 ……こうしてふたりは、ヴェリノと王子たちよりひと足早く、VIPルームに足を踏み入れたのだった。


※※※※※


「さぁ、サクラ! 貧乏人らしく、好きなモノを図々しく頼むといいわ!」


「あの、いえ……サンドウィッチがあるので……」


「まぁ! このあたくしの(ほどこ)しが受けられぬとでもおっしゃるの?」


 中央の噴水が細やかにマイナスイオンを発する、せせらぎも清々しい小川。

 VIPルームならではの癒しに満ちた雰囲気のなか、繰り出されるのは尽きぬ高飛車発言である。


「…………そ、そんなワケでは……っ!」


 顔を赤くして、うつむくサクラ。

 そのさまは、いかにも庇護欲をそそるヒロインである……

 が、しかし、その内心は。


(んんんん……っ! これは……っ! かわいすぎる……っ!)


 今や、悶え死に状態であった。


(ツンデレ感がたまらない……っ♡ あああ…… もっと上手につつきまくって、いろんな反応を引き出してみたいっ)


 サクラのなかで、エリザへの友情値はとどまるところを知らない…… 半分以上は単に面白がっているだけなのを 『友情』 といえれば、だが。


(まず手始めに、こんなのはどうかな?)


 サクラは、モジモジと上目遣いにエリザを見つめてみた。

 参考はリアルの弟妹たちが叱られたときの態度である。悪いことしてるのは弟妹たちのはずなのに、これをされるとなぜか罪悪感が刺激されるのだ……


「あ……じゃ、じゃあ……」

 

「な、なんですの……! その穴から目を出すジョーフィッシュみたいな態度……! 卑屈すぎて、イライラしますわっ」


 エリザは慌てたように扇で顔を隠した。


(動揺してる…… のに、まだ頑張って悪役令嬢してくれてる! やっぱりいい人ね、エリザさん……!)


 思わず上がってしまいそうになる口角を必死でさげる、サクラ。

 面白がっていると、知られてはいけない。知ったら、エリザみたいな真面目タイプはキレそうだ。


「あの、エリザさま…… サンドウィッチ、たくさんあるので…… 半分コ、してくれませんか……?」


「はっ、はぅ……っ! コホン。いえ、なんでもなくってよ!」


 すーはー、深呼吸するエリザ。


「このあたくしに 『半分コ』 ですって!?」


「ええ…… それから、エリザさまが頼まれたものも、半分コしていただければ、わたし、それで……じゅうぶん、です……」


「はっ、はっ…… 『半分コ』 ですって? ずずず、図々しくってよ! 『半分コ』 だなんて……!」


「え…… いけませんか? ごめんなさい……」


 うつむき、肩を震わせるサクラ。


(『半分コ』 の効果すごい! きっと一人っ子ね……)


 サクラは笑いを必死でこらえているだけだが、エリザからすると 『そんなにショックだった?』 と狼狽(うろた)える案件である。


「べっ別に! いけないだなんて、言っていなくてよ! ただ 『半分コ』 だなんて、そこまで! あたくしたち、仲が良いわけではっ……」


「ええ?」


 サクラは不思議そうに聞き返す。


「わたしたち、友だちじゃ、ないんですか……?」


「ぅいいいい何時(いつ)……っ! あたくしたちが、ととと友だちになったというの……っ! ずず()が、高くってよ……!」


(楽しい反応キタ……! もうやめられないかも、これ…… 王子たちより3倍は面白いー!)


 サクラの攻略対象が、王子から悪役令嬢(エリザ)に完全シフトした瞬間であった。

 AIたちからのチヤホヤより、生身の人間のツンデレである。


「じゃあ、あの……! 今から、なってもらえませんか……? 『友だち』 に……!」


「図々しくってよ! このあたくしがあなたと、とととと 『友だち』 なんて! 百万年早くってよ!」


「じゃあ 『友だち候補』 でお願いします!」


「!!!!!」


 ついに扇の陰に完全避難したエリザに、サクラは対王子用の 『はにかみつつも、とびきりの明るい』 笑顔を向けたのだった。



 ―― ヴェリノが 「ここの魚とってもいい!?」 などとすっとぼけたことを言いながら、王子とともにやってくる、ほんの少し前の、出来事である ――

昨日は……ストック書くのに夢中になって、up忘れておりました(爆)


感想、ブクマ、応援、誠にありがとうございます!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪役令嬢とヒロインのお約束を、それと気づかず破壊する主人公。予定調和はどうなるのかと読み進んでいくと・・・・・。 エリザとサクラの内面が明らかになって、 驚きと興味が膨れ上がってきました…
[一言] 真剣に真面目にロールプレイの役に徹しようとするも完全に人の良さが露呈する悪役令嬢、 おもちゃを見つけてしまいヒロインルートとかどうでもよくなっているヒロイン、 恋愛なしのはずが職務放棄のヒロ…
[一言] これで主要人物が出揃った形かな。 最初はボケとツッコミの二人で行くのかと思ってたら、もう一人増えたのが意外でした。 収拾付くのかな。これ(笑)。
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