13-15. リゾートへ行こう(15)~海辺のコテージ~
「この看板の 『幻の道』 ってのは?」
「干潮時にだけ、海の中に現れる道があるんだ。たどると、そこの一番手前の夫婦岩まで足を濡らさずに行けるぞ」
「をんっ♪」
【いわゆる 『トンボロ現象』 ですねww】
コテージは、港から海沿いに、ヤシの並木を10分ほどドライブしたところにあった。
三方が石垣に囲まれた、赤い瓦屋根の大きな家だ。木造で、中はオール畳敷きだという。くつろげそうな予感!
ぐるりと巡らされた縁側のどこからでも入れるのが、珍しいな。
「なに、この家? 石垣がなければ外から中が丸見えじゃないの!? 信じられないわね」
「まぁまぁ、エリザ。涼しそうだしいいじゃん!」
「涼しそうじゃなければ、ホテルに行くわよっ。古くさい雰囲気にあふれてる家だなんて」
意訳すると、涼しくて懐かしい感じがして気に入った、ってとこかな?
「をんっ♪」
チロルが、庭に置いてある凄い顔の犬っぽい石像に駆け寄ってフンフン匂いを嗅ぎながら 【オキナワの伝統民家ですww ちなみにこれはシーサーですよww】 と教えてくれた。
「あんたらが 『日本の夏』 したいって言ってたから、日本っぽいのに当たるようにしといたんだ」
「おおっ、さすがイヅナ!」
「ありがとうございます」
サクラにお礼を言われて、イヅナの顔が緩んだ…… やっぱりこのカップルって、癒されるなぁ……。
石垣は家の三方を囲んでおり、囲まれていない方からは白い砂浜が見える。
「あー!ここから直接、海に行けそー!」
「おっ、本当だな! 行ってみるかー!」
エルミアさんと回ってみると、思った通りだ。
こっち側はすぐ下が砂浜になっていて、縁側から直接、海の方に行ける仕様。これはすごいぞ。
「海まで自分ちの庭みたいだなぁ!」
「よかったね、ヴェリノ」
エルリック王子が近づいてきて、さりげなく俺の肩に手を置いた。ついでに、顔も近い。
―――― あれ?
いつもなら、王子を止めてくれるはずの人がいないぞ……?
「ジョナスは?」
「彼ならもう、家に入ってるよ」
「…… ジョナス、一体どうしたんだ?」
「難しい年頃なんだよ、ジョナスも。気にしないでくれたまえ。
そうそう。彼からプレゼントを預かってるよ」
「おう、サンキュー…… って、スク水!? ……で、なに? カード?」
広げてみるとそれは、ヘソまでしっかり隠れる短パンのセパレートだった。色気のカケラもないな。
そして、そこからハラリと落ちた紙は、ショップのプレゼントカード。
拾ってみると、神経質そうなやや角ばった字で、こう書いてあった。
『エルリック王子の前ではこちらを着用のこと。猫耳と尾で王子を誘惑すべからず。破った場合は覚悟されたし』
―――― うん、プレゼントっていうか、業務連絡と脅しだな。
「やーーーん♡」
頬を両手で挟んでクネクネと身を動かすのは、後ろからのぞきこんでいたエルミアさんだ。
「ジョナたまったら♡ もーーー♡ かわいーんだからー♡」
「そんなに可愛いかな?」
穏やかな声で聞くのはエルミアさんのヤンデレ彼氏こと、ハロルド。口元には微笑み、目の奥に嫉妬の炎…… ちょっとこわい。
きっと 『僕よりも、とか、まさか言わねーよな、ぁあん?』 とでも思ってるんだろうな……。
「うんっ、かわいーよー♡ ハロルドには負けるけどー♡」
さすがエルミアさん、ナイスフォローだな。
おかげでヤンデレとツンツンの不毛な争いは、無事に回避できそうだ…… と、ここで。
そばの縁側の窓が、カラリと開いた。
「お姉ちゃん、早くー!」
入って入って、と家の中からミシェルが腕を引っ張ってくる。
「風鈴とか、飾っちゃいましょうよ」
「OK!」
いよいよ始まるんだなぁ、 『日本の夏、キ◯チョーの夏』 が!
―――― チリンチリンと繊細な音を立てるのは、ガラスの風鈴。
カランカランと澄んだ音は、金属製。
その下には、豚さんの形の陶器。鼻から、独特な香りの煙が細々と上がっている。
大きな屋根で作られた日陰の縁側は、風がさわさわ吹いて気持ちいい。
白い砂浜の向こうには、明るいエメラルドグリーンの海が広がっている。
「はぁぁ…… 和むなぁぁ…… 」
「ふんっ…… まぁ、悪くないと認めてあげるわ!」
「んー! ひえひえー! 冷たいーー!」
「こういうかき氷も、いいですね」
俺たちは荷解きを終えた後、縁側に並んでかき氷を食べていた。
店で売ってるのと違って、ジャリジャリの氷に色付きシロップを掛けただけのものなんだけど…… これがまた、雰囲気あって楽しい!
「ほい、ミシェルもあーん」
「美味しいね、お姉ちゃんっ」
「カホール モ ……!」
青い手のり竜が俺の目の前でパタパタしながら口を開け、エルリック王子が隣で同じく 「私も」 と口を開けた。
「はいはい、あーん。はい、王子もあーん」
「うん、美味しいね」
エルリック王子が目を細める横で、イヅナがサクラに 「俺も頼む!」 とねだっている。
「…… ところで、ジョナスは?」
「買い出しに出掛けたよ」
「それ、後で皆で行こうって話だったのにな」
「ひとりで大丈夫ですから先に海で遊んでいてください…… だそうだ」
「いやいやいや。いくらジョナスでも、9人分は大変だろ!」
俺は、慌てて立ち上がった。
「みんなで手伝いに行こう!」
―――― ところが。
皆、全然動こうとせず、のんびりとかき氷を食べ続けている。
こういう時に絶対、手伝ってくれそうなサクラでさえ 「やめた方がいいと思いますよ」 のひとことだ。
その通りだ、とうなずくのは、エルリック王子。
「ジョナスのことは、いいから放っておいてあげたまえ」
―――― ジョナスも、みんなも。いったい、どうした……!?