13-12. リゾートへ行こう(12)~ディナー前~
―――― ざざざぁぁっ…… ざざざぁっ……
耳に届くのは、穏やかな海の波とピアノの音を組み合わせた、リラックス&ムード音楽。
薄暗い室内には甘く爽やかな香りが満ち、天使が描かれた天井に揺れるのは、アロマキャンドルの炎。
「では、全体流して、次は上半身いきますね」
「はい…… おおおおお……」
柔らかな白い手が、俺のふくらはぎ、太もも、お尻の付け根を、力強く揉みしだき、撫であげていく。
「痛いですか?」
「いえ、気持ち良すぎて……」
「ありがとうございます。リラックスなさってくださいね」
クスッと、白いタイトな制服を着たお姉さんNPCが、笑った。
―――― 俺は今、おパンツとブラジャーのみという際どい姿で、清楚×ぱっつんなNPC嬢の前に横たわり、カラダを揉まれ、撫で回され、とってもイイ気持ちにさせられている。
「こんなの、初めてです……」
「恐れ入ります。じゃ、上半身いきますね」
お姉さんNPCが、俺のおパンツをぐっと半分ほど下ろした。イケない部分が、ギリギリ見えないラインだ。
アロマオイルを塗った温かな手のひらが、腰と脇腹をぎゅむぎゅむと丁寧に撫で上げる……!
「こうやって、心臓に血流を返すことによって、循環を上げて老廃物を出し、太りにくくさせるんですよ。ぜひ、リアルでもやってみてくださいね!」
「はぁ、い……っ」
あああああ! なんだかイケない気持ちになってしまうけど!
別に大人のお姉さん向けオプション、とかじゃないんだよな、これがっ。
「じゃ、次は、脇の下と首、胸回りのリンパ行きますねー」
「ああああ…… 気持ちいいです……」
「でしょう? リンパもキチンと流すと、むくみにくくなりますから、美容にもいいですよ。この部分も、リアルでもやっておいてほしいところですね」
喋りながらも、お姉さんの柔らかく温かな手が、俺の胸回りや首を、きゅうきゅうと攻めてくる。
…… 断じて、イケない意味じゃないぞ! ただのエステなんだから!
そう。今、俺たちはそれぞれ、イケオジ船長とのディナー前に 『エステでブラッシュアップ』 とやらを図っているところなのだ。
ちなみに、チロルによれば 【大人のお姉さん向けオプションだとイケメンNPCのエステティシャンも選べますよww】 ってことらしいんだが……
いや、俺は大人になっても、清楚系お姉さんエステティシャンでじゅうぶんです!
「はい、じゃあ、仕上げは背中行きますね。うつ伏せになってください」
「はい……」
「あー、結構、固くなってますね。背中はこう、グッと反らす運動を取り入れたり、腕を回したりして…… 血流を良くしてくださいね」
「…… はぁっ、いぃ……」
こうして、存分に撫で回され揉みしだかれて全身汗にまみれ、身も心もすっかり軽くなったところで。
俺たちは、エステサロン備え付けのジャグジー風呂で、のんびりとくつろいでいた。
エステの施術室は1人1部屋だが、お風呂はグループで入れるのだ。
「おおおー、エリザ、サクラ、エルミアさん! みんなキラキラエフェクト出てるな!」
「そう言うヴぇっちも、キラキラしてるよー!」
「エステ効果は、施術後6時間続きます。その間にデートをすれば、好意値の上昇が倍上げ……」
「まじか! すごいな、エステ!」
「をんっ♪」
チロルがお湯の中から頭を出して 【ちなみにこれ、街ですれば1回3万マルですからww】 と注釈をつけてくれた…… それが1回まで無料って、太っ腹だな、豪華客船!
「シャワー使って、頭も洗っておきましょうか。髪の毛がとってもキレイになるそうですよ」
「じゃあー、皆で洗いっこしようよー!」
「おっ、いいな! エステの続きみたいだし、エルミアさん、名案!」
「あたくしは結構よ」
「そういうなよ、エリザ。絶対にキレイにするから!」
…… とは、言ったものの。
このゲームのお風呂って、前とかお尻とかはモワモワの湯気で隠れるんだけど、背中はバッチリ、見れるし触れるんだよな……
それに気づいた時にはもう遅くて、エリザの濡れた金色の髪が、白くてスベスベな背中にかかっているのを、呆然と眺めるしかない、俺。
しまった。
こんなの、夢に見ちゃうよ!
「どうしたのよ? 早くしなさい!」
「あ、ああ、ごめんごめんごめん……」
俺はぎゅっと目を瞑ったままエリザの頭を洗った。そのせいで、3回くらい失敗して怒られたけど……
目を開けていたら、現実世界に置いてきた俺の息子が大変なことになっちゃうかもしれなかったから、仕方ないんだ……!
さて、そして。俺の頭はサクラが、サクラの頭はエルミアさんが、エルミアさんの頭はエリザがそれぞれ洗って、皆がさっぱりツヤツヤになったところで。
船内アナウンスが、午後6時を告げた。
―――― いよいよこれから、イケオジ船長・アリヤとのディナータイムだ。