13-8. リゾートへ行こう(8)~朝ごはん~
「えーと、割かし、そのまんまの意味で…… つまり、今はまだ良く分かってない感じ…… です。はい」
どこまでも続く広い夜空、ゆっくりと動く星の下。
俺はちょっと後悔しながら、ゴニョゴニョとエリザに説明していた。
――― 聞かれた時には、覚悟を決めてちゃんと答えようと思ったんだが…… 実際には、ちゃんと答えられるほど、俺の気持ちがはっきりしてなかったんだ。
「そんな感じなのに、どうして、そんなこと言うのよっ」
「いや、聞かれたから」
「そういう時は、誤魔化しなさい!」
「それ絶対、誤魔化してるのがバレて怒られるパターンじゃん!」
「…………。もうっ」
つーん、とそっぽを向くエリザの耳、たぶん赤くなってるんだろうな…… って、エリザのことは大体分かる気がするのに、自分のこととなると、なんでこんなによく分からないんだろうな!?
「とりあえず、なんか、ごめん……! いい加減なつもりじゃなかったんだけど」
「………………。ま、いいわ」
エリザが、パチン、と音を立てて扇を閉じた。
「そういうことなら、ひとまず保留ね!」
「へ? 保留?」
「あたくしだって、急に決めろって言われても困るもの。そもそも恋愛なんて、ゲーム以外ではしたことないし」
「あー、だよな! 俺も!」
めちゃくちゃホッとする、俺。
――― 実はゲームどころか、俺は妹の漫画でしか恋愛に触れたことはない。
それによると、どうやら、学校とかバイト先なんかで好きな子ができて、あーだこーだなるらしいが。
リアルな学校はリモート授業にリモート学級会、友達と遊ぶ時はネットゲーム通して、って環境だと……
まず、好きな子ができる、ってこと自体がない。そこからあーだこーだなんて、既に異次元だ。
「つまり、今のあたくしたちの手に余る案件よ、これは」
「らじゃっ! さすが、エリザ!」
俺はエリザの手をしっかりと握りしめた。
「そうと決まったら、まずはイケオジ船長だな。俺も応援する!」
「ばばばばばかねっ! あたくし、それほどには」
「船長見る度に、目からハートでてるぞ?」
「ううううう嘘おっしゃい!」
「大丈夫だ。女の子が恋して、恥ずかしがることはないっ!」
モヤモヤしないといえば、嘘になるけど…… だからって今、答えがハッキリしなさすぎる問題を持ち込んで、エリザを困らせるくらいなら、こっちの方がいいよな!
「頑張れ!」
俺は改めて、心の底からエリザを激励したのだった。
★♡★♡★
「エリザさん。今の船長の好意値は、いくらですか?」
「どうして、そんなことまで言わなきゃいけないのかしら、サクラ?」
「攻略のためです」
「……………… 180よ」
「ふむ。高めスタートですね。往路と復路、合わせても1週間無いのですから当然かもしれませんが」
翌朝、俺たちはラグジュアリーでスイートな船室で、朝ごはんを食べながら船長攻略の作戦を練っていた。
朝ごはんは、俺とエリザがお代わり自由のおひつごはんと味噌汁と鯛の塩焼きとだし巻き卵と神戸牛のしぐれ煮と青菜のお浸し。箸休めで 『いかなごのくぎ煮』 とかいう、茶色でベタつく甘辛い飴がコーティングされた小魚とナスの浅漬けと海苔の佃煮まである。
サクラとエルミアさんが、サンドウィッチとフライドポテトと神戸牛のローストと小さいオムレツだ。
食後には全員に、フルーツ盛り合わせとアイスクリーム、コーヒーか紅茶がつく。
これがタダなんて、船旅最高だな!
大きなガラス窓から見える夏の空は優しい水色、その下には朝日できらきら輝く水面がどこまでも広がっている…… が、それを見る余裕があるのは、俺とエルミアさんとガイド犬だけ。
エリザの紫色の瞳は柄にもなく、ウロウロとあらぬ方向を彷徨ってるし、サクラは手元のメモとニラメッコだ。
サクラが調べてくれたところによると、船長と会えるのは、このミラクル・リゾートの船でだけらしい。
「復路最終で好意値3000に持ち込めれば一番なんですけど…… それは、ヴェリノさんでもなければ無理ですから」
「ちょっと待て。俺だって無理だぞ」
「とりあえず、明日の朝、船を降りるまでに好意値500まで行っときましょうか」
「そそそんなの、ヴェリノじゃあるまいし!」
「ちょっと待て、エリザ。俺、一体何者?」
「そんなのー、天然女王に決まってるよー、ヴぇっち!」
「何を今さら」 「ですよね」
「をんっ♪」 「くぅーん……」 「きゃんきゃんっ」 「…………」
俺を除く全員が、エルミアさんに賛同した流れで。
俺はなぜか、エリザに 『NPC攻略のコツ』 を伝授することになってしまった…… って。
――― 俺が、何を知ってるっていうんだ!?