13-6. リゾートへ行こう(6)~船長の正体~
「へえー! サクラも上手いな!」
「適当に回ってるだけですから」
テンポ速めなワルツの曲に合わせて、俺たちは (たぶん) なかなかカッコ良くターンを決めていた。
難しい技はできないけど、人の流れと曲に乗ってなんとなく動いとけば、ダンスっぽくなるんだよな。
動きとしては家のゲームでする1人用のダンスよりずっと簡単だし、何より、2人でくっついて踊るっていうのが、ちょっとドキドキして楽しい…… 段々、モヤモヤも薄れてきた気がするぞ。
「ヴェリノさんも上手ですよ」
「そっかな?」
「はい。さすが天然逆ハーレム攻略者だけありますね」
「それ今、関係ある!?」
「人に合わせて気分良くさせるのが本能的に上手いっていう」
「ええええ? そっかな?」
「じゃなかったら、絶対に足踏んでますから」
なるほど、そんなものなんだな…… つまりやっぱり、俺には才能があるのかもしれないっ……!
1曲終わったところで、次はエルミアさんと交代だ。
おっ、この曲は聴いたことがある。
何だったかな? 明るくて軽くて、エルミアさんにピッタリだ…… と、思ってたら。
「あー、ごめん! ヴぇっちー!」
開始早々、足を踏まれた。
「大丈夫。そんなに痛くな 「あっ、ごめん、またー!」
「いや、平気!」
今度のは結構、痛かった。
けど、ちょっと考えたら分かったことがある。
「そっか。俺たち、初心者どうしだったな」
「だねー。もーやめる?」
「いや、それは、もったいない! せっかくだから踊るぞ」
もだもだと動きながら、考える。
――― サクラやダンス用NPCたちは、ちょっとした重心の掛け方とかで動きを伝えてくれてたから、動きやすかった。
けれども、俺とエルミアさんは2人とも 『相手に合わせよう』 と思っている。
つまり、お互いに 『リードしてもらえる』 つもりでいて、プランが全然ないから、動きがチグハグになって足を踏んじゃう…… 「いたたっ!」
「あーまた! ごめんー!」
「いや、うそうそ! そんなに痛くないから!」
エルミアさん、泣きそうになってるな……
せっかく、初めての船旅なんだから、こんなことじゃいけない。
よし、作戦をたてよう。
「こっからは、前にいる人の真似をする! 難しい時は普通のターン。それで、ぶつかりそうな時はもう歩いちゃおう!」
「了解ー?」
「エルミアさんが好きに動いて! 俺がついてくから!」
「えええー? そんなんでいいのー?」
「俺はそれで楽しいし、サクラの保証付きだから心配ない! さっきほめてもらったんだ」
「サクラっちに? じゃ、大丈夫だねー?」
「そういうこと。せっかくだから、楽しく踊ろうな!」
「うんっ!」
よしよし、エルミアさんが元気を取り戻したみたいだ…… 「おわっ!?」
「じゃ、いくよー!」 との掛け声で、ぐんっ、と引っ張られて、こけそうになる、俺。
エルミアさん、いきなり張り切りすぎ!
「あーごめん、速かったー?」
「いや、大丈夫だ! 前の人にぶつからないようにだけ 「らじゃーっ!」
エルミアさんは返事しながら、今度は勢い良くターンし出した。
「うぉぉぉぉー! 速い!」
「きゃーーー♡ 楽しいーーー♡」
「目が回るぅぅぅ!」
「頑張れー!」
「いや、ぶつかる……!」
「あーーー! ごめーん!」
俺たちが動きをセーブしようとした時にはもう、遅かった。
優雅に踊っていたカップルに、猛烈に突進してしまったのだ。
「あっ、こけるーーー!」
「おおおおっ!」
なんとか避けようとして、こけかけたエルミアさんと、それを助けようとして、より派手にこけそうになってしまった俺は……
「おっと」
床に着地する寸前で、ふたり同時に助け起こされていた。
片手でエルミアさん、もう片手で俺を支えるという、NPCならではの動きをした彼は……
「お怪我はありませんか。お嬢さま方」
渋い美声で、そう聞いてきたのだった。
★♡★♡★
「うん、エリザの気持ちが良くわかった。カッコいいな、船長!」
「あたくしは、べべべべ別にっ!」
「いやーあれはホレるねー守備範囲も超越しそー」
「うそっ、エルミアさんも!?」
「うんうん、彼がヤンデレだったら、確実にハロルド忘れちゃうと思うー!」
「ヤンデレは基本なんですね、エルミアさんにとって」
「もちろん! サクラっちはー?」
「わたしはヤンデレは大嫌いです」
「サクラっちらしいー!」
夜9時まで続いた歓迎パーティーがやっとお開きになった後。
俺たちは、豪華な客室でお茶飲みながらお喋りをしていた。
話題はついつい、アリヤ船長のことばかりになってしまってる。
サクラがレセプション前にもう一度仮ログアウトをして調べてくれたところによると…… この船長の好意値を上げておくと、悪役令嬢の断罪時の救済が可能になるんだそうだ。
―――― つまり船長は、処刑前に助けてくれるとか、断罪そのものに反対してくれるとか、そういう役目なんだな。
ちなみに、エリザのステータス画面にのみ表示されていた船長の正式名は、アリヤ・K・T・クルス。未婚、37歳…… なんと、イヅナの年若い叔父さんだった。ゲーム内の世間も、広いように見えて狭いな。
「あ、どうりで、同じ髪色! そして同じような爽やかオーラ!」
「アリヤさんは、ヤンデレではなさそうですね」
「うん、もーニオイからして違うからねー。ハロルドとか、絶対説教されそう! だから、あたしにはちょっとー。リザたん、頑張ってねー!」
「あああああたくしは、そんなっ!」
「いえ、頑張るべきでしょう」
断言するのは、サクラ。
「婚約破棄は異例にも学園祭で済ませていますけど、断罪が無くなるとは決まってないですし」
「あたくし正直、ヴェリノが逆ハーレム作り出してから、悪役令嬢どうでも良くなってきちゃったのよね」
「その辺は分かりますけど…… でも、断罪なんて末路は、できれば無い方がいいじゃないですか」
念のためですよ、と説明するサクラに押されて、ついにエリザは扇の陰からコクリとうなずいたのだった。