13-5. リゾートへ行こう(5)~ダンスパーティー~
「1、2、3、1、2、3……」
ダンスホールに教官NPCの声が響く。
「女性の方はステップを全部覚えなくても、リードに合わせればなんとかなりますから! 膝を柔らかく使う、音楽を楽しむ。この2点を意識して、楽しく踊ってくださいね♪」
プールサイドでひとしきりお喋りした後、俺たちはダンスのレッスンを受けていた。
今夜の船長主催のウェルカムパーティーではダンスもするそうで、予め練習しておくことになったのだ。
学年末のダンスパーティーでも役立つので習っておいた方が良いですよ、とサクラが言ってくれても、正直、ダンスにはあまり興味持てなかった俺だが……
「なかなか上手ですね! 初めてですか? 才能あるかもしれませんよ?」
「おっ、そう? 実は結構、楽しい!」
相手役NPCのリードが上手で、細かく考えなくても、音楽と相手に合わせれば何となく踊れる感がある。
それに、慣れてくると、次にどういう動きをすればいいのかも分かるようになってきた。
エリザやサクラは、といえば、2周目のプレイだけあって、ダンスはもう経験済みだそうだ。
「あたくし、リードもしてみたかったのよね!」とエリザが言い出して、2人で踊ってる。
動きが軽やかで、華がある、っていうのかな?
とにかく…… イイ!!!
そして、俺と同じくダンス初心者のエルミアさんも、なかなか楽しそうだ。
「いやーん、こんなのハロルドが見ちゃったら、後でお仕置きされるー!」
「そこまで密着する必要はありませんよ」
「いいのいいのー! 次はターンでよろしくー。カメラマンさんの前に行ってね」
相手役NPCにピタッとくっつきながら、船専属のスチルカメラマンNPCをめちゃくちゃ気にしてる…… たぶん、たくさん撮ってもらったスチルを全部買い取って、ハロルドにヤキモチ焼かせる作戦なんだろうな。
「さて、では次は、1曲通してみましょう」
ホールに、聴いたことある気のするクラシックっぽい音楽が流れ出した。
【美しき青きドナウww シュトラウス作曲のワルツですww】
シャンデリアが天井からぶら下がって、周りに鏡が貼り巡らされた、キラキラしいパーティー会場の壁際。
チロルの解説に、俺は 「ふーん」 とうなずいた。
今、気になりすぎることがあって、曲を楽しむ気分じゃない。
「ふーん…… 俺、なんか…… 船酔いかも」
【wwww】
適当にとったオードブルを食べながら俺とチロルが見ているのは、ダンスしてるエリザ。
相手はサクラじゃなくて、アリヤ。例のイケオジ船員NPC…… もとい、この船の船長だ。
――― それが分かったのは、先程。この歓迎会の 『船長挨拶・乾杯』 の時だった。
「この度は、客船 『ブルー・アテナ』 にようこそ!」
シャンパングラス片手に現れたのが、制服姿のイケオジだった、というわけ。
その後に続いた立食パーティーの間中も、ダンスが始まってからも、エリザはずっと船長を気にしてて、何となく上の空だった。
「ダンスしてほしいんなら、頼んでみれば?」
「あああああたくしはっ、べべべべ別にっ!」
「じゃあ俺が頼んでやるよ! おーい、船長!」
「いかがされました?」
割かしすぐに来てくれた船長に、エリザとのダンスを頼んで、そしたら船長が笑顔でOKしてくれた上に、エリザに 「お嬢さま、一曲お願いできますか?」 とかスマートにダンスを申し込んで、エリザが 「そそそそんなに踊りたいなら、うううう受けて立って差し上げないこともなくってよ!」 と何か勇ましい返事をして……
「全部うまく行ったはずなのに、何か気分が良くないんだよな……」
【それはww 船酔いかもしれませんねww】
「チロルもやっぱり、そう思う!?」
【はいwwww】
くんくんと慰めるように鼻を足に押し付けてくるチロルを抱き上げて、毛皮に顔を埋め込んでもふもふしてると、ちょっと落ち着いてくる。
「あー! ヴぇっちー!」
「踊らないんですか? ヴェリノさん」
エルミアさんとサクラが揃って、こっちにやってきた。
―――― ふたりとも、パーティー楽しんでるみたいだな。ほんのちょっとピンク色に染まった顔が、かわいい。
「うん、俺なんか船酔いみたい。気にしないで踊ってきて」
「えー! 大丈夫ー?」 とエルミアさんが心配してくれる一方で、サクラはまじまじと俺を見ている。
「船酔い…… ですか」
「おう。たぶん、船に慣れれば治ると思うから、大丈夫!」
「船酔い、そんなに酷くなかったら、動いた方がいいかもしれませんよ?」
「え、そうなの!?」
「はい。この船ほとんど揺れませんから、船酔いするのは気分的なもので、動いたら忘れるんじゃないかと。
エリザさん、ダンスに誘ってみたらどうでしょう?」
「だって、エリザは船長と」
「代わってくれると思いますよ、船長は」
「けどなぁ…… エリザ、楽しそうだし」
「きっとヴェリノさんと踊っても楽しいですよ」
「そうかな?」
じゃあ行くか、とならないのは、踊ってる人たちの中にひとりで歩いて入りづらいから…… と、やっぱりエリザが何かいつもと違った感じだからぁぁぁっ!
まごまごしてる俺に、サクラがこんなことを提案してくれた。
「じゃあ、わたしと一緒に踊ります?」
※3/16 誤字訂正しました! 報告下さった方、どうもありがとうございますー!m(_ _)m