閑話9~夏休みの日常(5)仕事後のオヤツ②~
「ほい、イヅナ、あーん」
「その前に、オレはサクラ一筋だと、改めて言っておく……!」
「おう、もちろん! それでこそ、俺の友だぜ、イヅナ! ほれ、あーん」
俺がイヅナに食べさせているのは、牧場ヨーグルト。爽やかな酸味が特長だ。
「だが、ヴェリノに食わせてもらっても美味い……っ」
「心配するな。それは、このヨーグルト本来のスペックだ!」
「オレ一体どうなるんだろう、これから……」
「大丈夫だ! 次に、サクラにあーんしてもらえば、もっと美味いから!」
珍しく弱気になりかけてるイヅナを励まし、サクラにスプーンを渡して、スチルカメラを持つ。
――― イヅナには、俺の後にサクラがあーんしてあげることで落ち着いたのだ。
「はい、イヅナさん、どうぞ」
「………………。 サクラ、愛してる……!」
おおお、サクラからのあーんは、よっぽど美味かったらしい。良かったな。
『そういう意味でのお付き合い』 が始まったことによる本能的な効果はあっても、サクラ一筋を貫き続ける……!
それでこそ、イヅナ。俺の見込んだ漢だ。
「もう1口…… いいか?」
「仕方ないですね。はい、どうぞ」
――― くぅぅぅっ、しみる!
サクラとイヅナの半端ない癒しオーラが、全身にしみわたるっっ!
2人の姿を何枚もスチルカメラに収める、俺であった。
「さて、と。サクラはイヅナにあーんしてもらえばいいから…… 最後は、エリザだな」
エリザは、といえば。
お嬢様な外見と喋り口調に似合わず、意外と庶民的な食べ物が好きなんだよなぁ。
この 『牧場のお土産』 ラインナップでいくと……
「これだな! チーズおかき!」
どうだっ。
当たってるだろ!?
エリザマイスターの称号を俺にくれても良いと思う!
「ほれほれ、ぱっくんして良いぞ!」
おかきでツンツンとエリザの唇をつついてやる…… と。
「………… ふんっ!」
気合いと共に、手で奪い取られてしまった。
「あれ? エリザ? あーんしないの?」
「…… あたくし。気づいたのよ」
「何に」
「これまで、ヴェリノにあーんしてもらう度に感じる違和感…… その、正体に!」
「ええええっ!? なにそれ!?」
まさか俺の中身が男だとか……?
別に隠してないから、とっくにバレてる気もしてたけど…… まさか、今さら、『中身が男だなんて気持ち悪い』 とか言ってこないだろうな?
いやいやいや。
俺が女の子が好きっていうのはとっくにバレてるんだから、その辺りは既にクリアしてるはずで……
混乱する俺の前に、すっ、とエリザが立ち塞がった。
「食べさせてもらうなんて、あたくしのキャラじゃないわ!」
さっき取り上げられたチーズおかきが、俺の口にきゅっと押し付けられる (なんでだか少しプルプルしている)。
「どうせ、あなたは雑食でしょっ、ヴェリノ! とっととお食べーーー!」
「わんっ」
――― なぜだかエリザに合わせると、犬の鳴き真似よりほか無く思えてしまう件!
でも、チーズおかきはかなり美味しかった。
「ふっ、よく分かってるじゃないの!」
エリザの手がすっ、と俺の頭に伸びて……
なんだか、慈愛のこもった手付きで、撫でられてるーーー!!!
「よしよし、良い子ね」
「わんわんわんっ」
――― びっくりして、つい、犬の鳴き真似を続けてしまう、俺であった。
そしてカホールとミシェルがまたしても 『ずるい』 コールをしだして……
なぜか、今度は皆が、俺にアレコレ食べさせてくれることになった。
ミシェルとは膝だっこしてプリンを食べさせあいっこし。
カホールがミルクバウムを口にくわえて運んで食べさせてくれて。
エルリック王子が同じことをバタークッキーでやろうとして、ジョナスに取り上げられて。
ジョナスが 「仕方ないので王子の代わりにどうぞ」 とバタークッキーをあーんしてくれた。
(チロルによると 【真夏に雪が降るフラグw ではありませんww】 らしい。)
イヅナが、 「オレとオマエの間には友情しかないっ!」 と念押ししながらヨーグルトを口に運んでくれて、ひとまず一巡したところで。
話題は、今度リゾートに持っていく水着の話になった。
聞けば、エリザとサクラは前周プレイで既に買っているというので、買いに行かなきゃならないのは、俺だけなんだが……
「うーん。水着か……」
紅茶飲みつつ、うなるしかない、俺。
これまでにアニメなんかで見た、あんな水着やこんな水着が頭を過るけど…… 正直、自分で着たいと思ったことが一回もないんだよな。
「まー、店に来てみたらなんとかなるだろ」 と、イヅナは請け合ってくれるが。
「いまいち、イメージわかないんだよな……」
「心配しないでください! ボクが、お姉ちゃんに似合うの見繕ってあげる、って言ったでしょ?」
「そうだったな、ミシェル。頼りにしてるぞ!」
これまでの傾向からすると、めちゃくちゃセクシーなハイレグ水着とか選ばれるかもしれないが……
ま、似合うならいいよなっ!
ところが。
「ダメに決まってるでしょう」
…… と、口を挟んでくるのは、俺たちの風紀委員長、氷のジョナス様だ。
「破廉恥な水着で王子の心を惑わそうなどと」
「思ってないから!」
そもそもリゾートは女の子だけで行くんだぞ?
王子の前で水着披露する機会なんて、ないじゃないか。
「仕方ない。私も、同行しましょう」
「ずっるぅぅぅぅい!」 「ズルゥゥゥイィィィ!」
「王子のためです。仕方ないでしょう」
「…… ヴェリノの水着なら、私も選びたいのだが」
「王子。今日サボった分の仕事はいつ、されるので?」
「…… わかったよ」
――― 結局、明日のお買い物にはジョナスまでが来ることになってしまった。