12-15. キャンプ村モニターのバイト(15)~星空と焼き魚~
「あ、あれって蠍座のアンタレスじゃない? なんとなく!」
【残念w 火星ですww】
「蠍座はあっちですよ、お姉ちゃん。ほら、あれがアンタレス。一等星で 『火星に対抗する者』 という意味です」
「へぇ…… じゃ、あれは?」
「こと座のベガ。夏の空で一際明るい星ですが…… ご存知なかったようですね?」
「まぁまぁ。仕方ないよ、ジョナス…… ちなみに、あれが鷲座のアルタイル、白鳥座のデネブ。ベガと結ぶと、天の川を挟む 『夏の大三角』 になる」
「みんな詳しいなぁ…… さすが!」
サクラの星座がないのが残念だな、とか言いながらイヅナも空を指して、教えてくれる。
「ほら、あのちょっと北にある適当に明るい星な、あの辺が竜座だぞ」
「カホール、元気かなぁ…… お土産買ってやろっと」
キャンプ村に戻った俺たちは、焚き火を起こして周りに串刺しの魚 (昼間釣ったのだ) を立てた後、芝生の上に寝転んで空を見上げている。
星座は理科でちょっと習ったことがあるけど、その時は全然興味が持てなかった…… でも、こうして実際に、大きな夜空にたくさんの星が見える場所に来ると、急に気になってくるものなんだなぁ!
星はキレイで珍しくて見飽きないし、夜風は涼しくて気持ちいいし、そんでもって赤々燃えてる焚き火の熱が時々ぱっと迫ってくるのも、気持ちいい。
そして、次第に濃くなる魚の焼ける匂いが、めちゃくちゃ美味そうだ。
「そろそろ、魚が焼けましたよ」
「おっ、ありがとサクラ! イヅナも、ありがとな!」
「魚の処理なんか、どうってことないぜ」
魚は俺たちがログアウトしている間に、イヅナが処理して塩を振っておいてくれたのだ…… さすが、海の男。
【ちなみに、実際にするとなかなかグロいですwwww】
チロルが尻尾を振って説明してくれたが…… その注釈、いるの!?
夜の焚き火は、三角屋根みたいな形に組んだ薪で、大きく強く燃えている。
その周りを、エリザ、俺、ジョナス、エルリック王子、イヅナ、サクラの順でぐるりと囲んで座ったら、いよいよ昼間の釣りの成果を試食する時……!
(ミシェルは当然、俺の膝の上にちょこんと座っている。)
「「「「「いただきまーす!」」」」」
熱々の魚を頬張ると、なんとも言えない旨味と程良い塩味が口の中に広がった。ほんのちょっぴり、甘い気もする…… 絶妙なバランス、としかいいようがない。
「ヤマメ、美味いな!」
「こっちも美味しいよ、ヴェリノ。アマゴだ」
食べてみて、と王子に勧められて、ひとくちかじると……。
「なにこれ……! もう旨味しかないっ……!」
癖がなくて食べやすくて、なんというか、じっくり噛み締めたくなる味わいだ。塩加減も最高…… 『美味い!』 としか言えないな、これは!
「エリザも食べてみて! ほれほれ、あーん」
エリザは、丸焼きの魚に 「あたくしはこんなもの食べなくってよ!」 と引き気味だったのだが……
これは食べなきゃもったいない!
ほぐした身を、ちょっと無理やり口に入れてあげたが…… どうだろう?
「………… 美味しくないこともなくってよ」
「つまり美味いだろ!?」
「し、仕方ないから、もうひとくち食べてあげるわ……!」
「………… はぐぅっ!」
――― お口を開けて待ってくださるのは反則ですっ、エリザ様。
意外なところでダメージを受けてよろめいてしまった俺の口に、つっこまれる、新たなアマゴ。
「うご…… むぅ…… んんんっ」
んまいんだが、グイグイと押しつけられても困るぞ!? それに皆の分も残さなきゃ……!
(釣果は、アマゴ3匹にヤマメ2匹だったからな)
「…… んぐっんん…… 何すんだ、ジョナス。ウッカリ全部食べちゃったじゃないかぁっ!」
「はて。残飯を処理していただいただけですが。皆さんはすでに召し上がっていますし」
「ほんとか? ならいいけど…… ミシェル、ちゃんと食べたか?」
「お姉ちゃんがたくさん食べてくれた方がボクは嬉しいです。ボクはいつでも食べられるもん!」
膝の上から俺を見上げて、嬉しそうに笑うミシェル…… くぅぅぅ、可愛いやつめっ……!
「サクラは? ちゃんと食べたか?」
「はい! ばっちりです! すごく美味しかったです」
スチルカメラを振ってみせ、御馳走さまです、とニッコリするサクラ。
――― 魚食べながら撮影もしてくれてた、ってことか…… さすが、気が利いてるな。
きっとまた、ベストショットをあれこれ見せてくれるはずだ。楽しみにしておこう。
魚を食べ終わった後、俺たちはコーヒー飲みながら、あれこれとお喋りをした。
天の川がくっきり見える、澄んだ星空と澄んだ夜の空気…… そんな中で飲むコーヒーは、いつもより美味しくて、焚き火に照らされた皆の顔を見ながらのお喋りも、なんだかすごく楽しくて……
俺たちは、焚き火が消えて空に見える星座が変わる頃まで、喋ったりゲームをしたりして過ごして、テントに潜り込んだのだった。