12-14. キャンプ村モニターのバイト(14)~岩盤浴と露天風呂~
岩盤浴は、大浴場の隣の部屋で、中には温かな濃い霧が満ちていた。
入り口でバスタオルと枕用のタオルを受けとって、ぼんやりとした灯が四隅を照らす、薄暗い石の廊下を進む…… この廊下自体が、温かくて気持ちいいな。
両脇は人が1人寝転べるくらいの幅で、片側が磨かれた平らな石の床、そしてもう一方の床は白く丸みのある小石で覆われている。
この上にバスタオルを敷いて寝転がるんだな。
「平らな方がトルマリン鉱石の床、白い石は岩塩です。どちらも血行促進やデトックス、美肌なんかの効果が期待できますよ」
【具体的にはHP・MP中回復、オシャレ経験値upですwwww】
「なるほど……!」
エリザにサクラ、それにNPCたちは部屋の一角に並んで寝転がっていた。
エリザとサクラとイヅナが仲良く白い小石の方、エルリックとジョナスがトルマリン鉱石の床の方だ…… と見て取った俺は、さりげなくエリザとサクラから視線を外す…… うん、なかなか上手にさりげないぞ、俺。
――― その前に、湯気に覆われた身体から生えた、しっとりと汗ばんだ脚が一瞬バッチリ見えたけどな。
脚なんていつも見てるし、別にエッチじゃないったらエッチじゃないもんね!
「あら、あまり遅いからもう来ないのかと思っていたわ? サクラなんか寝ちゃったし」
「あーごめん、先にミシェルと色んな風呂に入ってたんだ。けっこう、楽しかったぞ…… ジョナス、隣いいか?」
「…… ダメです。あなたはまた、そのような破廉恥極まりない姿で……」
「いや、みんな同じなんですけど!?」
浴場に入ったら自動的にこの姿になるのだから、文句なら運営に言ってほしいな。
「いいよ」 と微笑むのは、エルリック王子だ。
「私の隣においで、ヴェリノ」
「じゃ、失礼しま…… イタッ」
ジョナスが、魔法か何かで冷たい氷を投げてきた!
「王子の隣など、ますますダメです…… 仕方ない、私の隣でいいですよ」
「なんか酷いな、あんた!」
「…… はて。何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、いいです。ゴメンナサイ…… じゃ、失礼シマス」
もー、こんな所でまで氷の魔王ぶりを発揮することないと思うんだが…… あれ。
隣に座って見ると、これが岩盤浴効果か!?
ジョナスのお肌が潤いを帯びて輝いて見える…… めちゃくちゃ、触ってみたいんですけど…… なぜ、ジョナスっ!?
俺の隣でさっさと寝転んでリラックスしてるミシェルなら、妹分だから気軽に触れる。
王子なら、触ると逆に喜ばれそうだ。
イヅナはサクラのものだから、圏外。
ジョナスは…… 絶対に怒られそう。
触らないでも祟りがありそうな魔王様、触ったらどんな祟りがあるか、わからない。
けど、けど…… 猛烈に、つついたりナデたりしてみたくなるほど、美肌にブラッシュアップされてる……!
「…… 私の顔に、何か」
「い、いや何でもっ! 触りたいとか思ってませんから、ご安心ください!」
俺は邪念を悟られないよう、慌ててバスタオルの上に突っ伏した。
「おおっ、これは…… お湯に入るのとはまた別の心地よさだな!」
お腹や胸がじんわり温かくて、気持ちいいなー!
【ここで眠ると自動的に仮ログアウトしますので、忘れず汗を拭いて、水分補給してくださいねww】
「えっ、これって、リアルでも汗かいてるの?」
【ええw 健康に問題無い範囲ですが、多少はww】
「なるほど」
せっかく皆で寝転がってるのだから、もっとお喋りできるかと思ってたんだが、温かさが気持ちよすぎて、ついぼんやり無口になってしまう……
【お暇でしたら、広告視聴かマンガの有料購入がオススメですがww ……あ、もう寝ちゃいましたねww】
チロルの声をどこか遠くに聞いて、ハッと目を覚ましたら、リアルの俺の部屋だった。
時間はいつの間にか、もう9時。急がなきゃな!
10分でトイレとシャワーと水分補給を済ませてもう1度ログインすると 「次は露天行きましょう♪」 とミシェルが言い出した。
さっそく、皆で露天風呂の方へ移動する…… エリザとサクラの方は、見ないようにっと…… …… まずい。
見えてしまった。
そして、いったん見えてしまったら、見ないフリしてのチラ見不可避……
――― 隠すなら、もうちょっと不自然にお願いします、運営さん! ナチュラルすぎて俺の想像力が刺激されちゃうからっ……!
露天風呂の方は、幸いなことに濁り湯だった。
(これで透明で女の子たちの肌色がユラユラ見えたりしたら、恥ずかしすぎて入ってられなかったと思う。)
背の高い岩で囲まれて、その上に猿がいたりして、緑色もすがすがしいモミジの枝が、頭上にかかっていて…… すごく雰囲気がいいなぁ!
ガイド犬たちが、お湯が浅い岩場で楽しそうにバシャバシャやってるのも癒される。
そして、何よりすごいのは。
「うぉぉぉぉ…… 湯煙にかすむ満天の星空っ!」
「天の川まで湯気みたいに見えますね」
「あたくしは星空なんて見慣れてるわよっ…… …… でも、特別に誉めてあげてもよろしくてよ?」
サクラもエリザも満足そうだ。
みんなで風呂にのんびり浸って星を見上げるだなんて…… ものすごい贅沢だもんなぁ……
「これを見せたかったんですよ。キャンプ村で見るのとは、また違うでしょ?」
「めちゃくちゃ、わかるっ…… グッジョブ、ミシェルっ!」
「えへ。お姉ちゃん、大好きぃぃ!」
湯気でややしっとりとしたサラツヤな褐色の髪をナデナデしてやると、ミシェルが嬉しそうに抱きついてきた…… はぁー、本当に、いつでも可愛いなぁ、この子は!
いいな、とエルリック王子が呟き、ジョナスが 「ダメですよ」 と、窘めているが…… 別にいいんじゃないかな?
何しろ、イケないところはたとえ密着してても何の感覚もない仕様なんだし!
「をんをんをんっ♪」
チロルがわざわざ犬かきでこっちに泳いできていわく、 【大人のお姉さん向け有料オプションでは、好きなNPCとお湯の中で完全密着 (感覚付き) もアリですよww 購入には年齢確認が必要ですがwwww】 ってことらしいんだが…… その注釈、要るの!?
「さて、そろそろ出ないと……」
露天風呂はずっと入っていたいくらい気持ち良かったが、この次にはキャンプファイヤーが控えている。
浴場から出た途端に、俺たちの髪は自動的に乾き、スタイルもちゃんとしたカウガール姿に変わった。
ナチュラルな透け感たっぷりの湯気にはドキドキしっぱなしだったから、やっと落ち着いた、ってところだな…… ふぅ。
「服装が自動オンオフ、便利だなー!」
「けど、ちょっとホカホカ感は残したいですよね」
「湯気をちょっと残すとか」
「体感気温もしばらくの間、少し上がるといいな!」
キャンプ場に帰る道々、そんな俺たちのお喋りを、ミシェルはやっぱり真剣な顔で聞いてくれていたのだった。
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