12-11. キャンプ村モニターのバイト(11)~カウガールと魚釣り~
後半、釣り餌を探す描写があります。
虫が苦手な方はご注意ください。
「うーん、でもなぁ…… 全員と 『そういう意味』 でお付き合いってのも」
サクラにアドバイスされてもまだ悩んでいた俺だったが、その時。
すっと木陰からもう1つの人影が現れた。
「ふっ…… この期に及んで 『No』 などとおっしゃらないわよね?」
エリザ…… 妹の少女漫画の悪役令嬢、と言いたいところだけど、カウガール姿とポニーテールがすごく似合ってて、正義の味方みたいだ。
ひゅん、と手に持った鞭を鳴らすのも、決まってるぜ……!
「漢ならば、サッサと覚悟を決めておしまい!」
「お、おう…… じゃあま、みんな。これからも、よろしくな!」
俺はイヅナ、ミシェル、ジョナス、エルリックとひとりひとり握手した。サクラがスチルカメラに、その様子を収めている…… めちゃくちゃ嬉しそうだ!
「これで正式に逆ハーレム成立ですね。どうもありがとうございます」
「いや、俺、大したことしてねーから! でもそれだけ喜んでくれたら俺も嬉しいぞ」
「まさかこんなに早く、生でこの瞬間が見られる日が来るなんて…… ヴェリノさんと出会えて、本当に良かったです」
「ま、あたくしからも誉めてあげても良くってよ! よく、ががが頑張ったわねっ……」
おおっ…… あのエリザが誉めてくれてる! 照れて噛みまくってるのが可愛い。
サクラもうんうん、と、うなずいている。
「合同プロポーズも楽しみにしていますね」
「ちょっと複雑だけど、まぁ…… 任せろ!」
ここまで来ればこう言うしか、ないんだぜ……。
ま、いっか。チロルも、ふさふさの尻尾をちぎれそうなほどに振ってくれてるしな。
【そういう意味で付き合う、と言いましてもww 全年齢対象だけに、手つなぎ+α程度なので、ご安心くださいww
大人のお姉さん用特別パックも3万マルからございますが、年齢確認が必要ですからww あ、年齢詐称はなさらないでくださいね、念のためww】
「いや絶対そんなのいらないから!」
けど、手つなぎ+α程度なら、ミシェルやエルリック王子にいつもやられてるから……
今さら、問題にならないよな、うん。
さて。
そうと決まれば……
「魚釣り! 魚釣りやりたい!」
そんなわけで、俺たちは川原に降りてミシェルとイヅナから釣りの手解きを受けることになった。
けっこうなスピードで流れる青緑色がかった水は底の石が1つ1つハッキリ見えるほど澄んでいて、手を入れると意外なほど冷たい。
「魚の影とかは全然見えないのな?」
「魚がいるのは、ああいう所ですよ。そこの岩陰とか」
ミシェルが指すのは、川の真ん中あたり、木が生えた小さな島と、やや大きめの岩が点々と連なって、水が白い泡を立てているところだ。
「ここで釣れるのはヤマメとアマゴです。もう少し上流に行くと、イワナが釣れますけど…… キャンプ村からは離れてしまいます」
「へぇ…… 聞いたことない魚だな」
「どれもキレイな魚ですよ、お姉ちゃん」
「まー川魚は匂いにクセがあるが、このゲームではある程度カットされるからな」
「えっ…… 食べるの?」
「もちろんだ。食べなきゃただの虐待だろうが」
イヅナが針に赤く透き通った丸い粒を付けていく。ツヤツヤしてて真ん中にプチっとした珠が浮かんでて、キレイだなぁ!
「なにそれ?」
「イクラだ」
「あ、お正月に食べるやつ」
もちろんリアル世界の方は代替品だけどな。
「サケという魚の卵ですよ」 と、解説してくれるのはジョナスだ。
「サケは海でも川でも獲れる魚ですが、そのうちの一種類が川にだけとどまって進化したのがヤマメやアマゴと言われています」
「へぇ…… ジョナス、何か優しいな…… バカにしてる感じが全然しないぞ、珍しい!」
「バカなこと言ってないで、エサの付け方をちゃんと見てなさい」
ジョナスの横では、エルリック王子がしきりと浅瀬の石をひっくり返している…… 楽しそうだな。
「エルリックは? 何してるの?」
「ああ…… 川虫を探しているんだよ。あれもいいエサになるからね」
「カワムシ?」
「そう。川原や浅瀬の石の裏にいる虫だよ。主にカゲロウの幼虫やカワゲラの仲間だ」
「詳しいな、王子!」
「釣りは子どもの頃によくしていたから…… 最近はさっぱりだったが、たまにはいいものだね」
君のおかげで来れて良かった、と言う王子の周囲にはキラキラエフェクトが現れているから…… きっと今良いシーン、ってことなんだろうな。
実際には、俺じゃなくてミシェルのおかげだけど。
一方でイヅナはというと、『川虫』 の発言でエサをつける手が止まってしまった…… よく見ると、鳥肌立ってるな?
「ぅわぁ…… やめてくれ…… そんなグロいもの。せっかくミミズやブドウ虫じゃなくて、イクラにしたのに」
ミミズは分かるがブドウ虫は分からん…… が、イヅナの感じからすると、きっと俺も苦手なやつだな。
エルリック王子は不本意そうだ。
「川虫は、ヤマメやアマゴには最高の餌だが」
「乙女ゲームの扉で、ラストに一番キラキラして出てくるキャラだって自覚お前あんのか、エルリック?」
「…… いいじゃないか。釣りなんだから」
「ダメだダメだダメだ! 全乙女が許してもオレが許さんっ」
「不敬ですよ」
「いいんだよ、ジョナス。確かにイヅナの言う通りだ」
エルリック王子、残念そうだな……。
「まぁまぁ、せっかく楽しくやってたんだし、王子はその、カワムシとやらでもいいんじゃないのか?」
「うーん、そっか…… ヴェリノが言うなら仕方ねーな」
「じゃあ、ボクもそれで♪」
イヅナが不承不承といった感じでうなずくと、ミシェルも鼻歌まじりに石をひっくり返し始めた。
「あっ、いたいたー! オニチョロ♪」
「どんなんなの?」
「あっ、お姉ちゃんは見ない方がいい…… って、遅かったですね」
「うん…… 俺、悪いけどイヅナに賛成だわ、これ…… ミシェルは大丈夫なの?」
「うんっ、ボク、男ですから!」
…… 幼い美少女顔が胸を張っても、可愛さしかない件!
虫は気持ち悪いけど、ミシェルが可愛いから良しとしよう。
こうして準備が完了した。釣り竿は3本しかないので、2~3人ずつで適当に使い回すことになった…… NPCたちは遠慮してたが、せっかくだから、みんなで楽しまないとな!
サクラとイヅナ、エリザとエルリック王子とジョナス、俺とミシェルのペアに別れて、それぞれ適当な岩の上に立って、川の中に釣糸を垂らす。
…… さて、何か掛かるかな?
読んでいただきありがとうございます。
渓流釣りの服装、私たちの世界の方では川の中にジャブジャブ入れるウェーダーやブーツなどが必要のようです。
遊漁券の購入などもあるようですし、ゴミ捨てないとか、クマ・イノシシに気をつけるとか、自然の中で遊ぶならではの注意事項も色々。
カウガール姿で気軽に渓流釣りできるのは、ゲームならでは、ですね。
では、次回も引き続き渓流釣りです。お楽しみにー!
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※1/18誤字訂正しました!報告下さった方、どうもありがとうございます!