12-4. キャンプ村モニターのバイト(4)~テントと海の男~
「ここ! ここがいいんじゃないかな?」
「じゃあ、早速テント張ろうぜ!」
俺たちが決めたのは広々としたキャンプ場のかなり端っこ…… 崖っぷちの、柵が巡らされている一角になった。
崖っぷちっていうと危険なイメージだけど、柵はしっかりしてる。
木が植わってて木陰ができてるから過ごしやすそうだし、何より景色がいい!
青い山並がいくつも続いて、その間を川がキラキラ光りながら流れていく。遠くにすごい小さく、街と海。
ロープウェイの駅で見たのと同じ感じだが、それよりも、もうちょっと視界が開けていて、キレイに見える。
「えっと、テントの位置…… この 『焚き火台』 の前でいいかな?」
「もう少し離した方がいいと思うぜ…… ほれ、こっち」
『焚き火台』 っていうのは、元から設置されていた焚き火用の台。上に網を乗せると、料理ができるようになっている。
イヅナが言うには、火の周りは十分に距離をとってテントを張らなきゃ、ってことらしい…… 詳しいな。
テントは仮ログアウト・ログインの拠点にもなるから、確かに火からは離しておいた方が安全だ。
そこまで考えているとしたら…… さすがイヅナ、海の男だぜ!
受付でもらった 『キャンプセット (お試し用)』 から折り畳み式のテントを取り出し、広げる。
【杭と杭ハンマーも入ってるはずですよww 取り出してくださいwwww】
チロルの注意に従ってもう一度袋に手をつっこみ探ると、確かに冷たい金属棒の感触。
掴んで引っ張ると、先が丸く曲がってる杭が4つとハンマーが1つ、出てきた。
「けっこう重いな…… これ、何に使うの?」
「それにロープを引っかけて、テントを固定するんだ。風で飛ばないようにな。
貸してみろ」
イヅナが俺からペグとハンマーを受け取り、コンコンと地面に打ち込んだ。
「こうやって、地面に斜めになるように、深めに差すんだ」
「うまいなぁ、さすが海の男!」
「サバイバル知識は任せろ」
イヅナは海で遭難した時のために、サバイバル知識を一通り叩き込まれているそうだ。
「ま、テント持ってサバイバルすることはほぼ無いし、このゲームでサバイバルすることも、ほぼ無いけどな!」 などと笑いつつも、コンコンとペグを地面に打ち付けていく。
「まずは片側2ヶ所を固定させれば、テントを張りやすい」
「ボクも!」
ミシェルが張り切ってハンマーを構え、「えいっ!」 と杭を地面に打ち込もうとしたが……
「イタっ! 固いよぉ……」
どうやらミシェルの力では、反動の方が大きかったらしい。
ハンマーを放り出して両手をふーふーと吹いている……。
「どれどれ。グッパできるか?」
「うん!」
「よし、ならいい! よく頑張ったな、ミシェル」
小さい頃にばあちゃんがやってくれてたおまじないを思い出し、ミシェルの手を撫で回しながら 「痛いの痛いのとんでけー」 と唱えてやる。
「わぁー! 痛くなくなったよ、お姉ちゃん」
「良かった! …… はっ。もしや俺、回復魔法を会得したのかな!?」
【残念wwww それは違いますww】 と、チロルが吠えた…… ガイド犬たちは、それぞれ気持ち良さそうに広場の芝生の上をゴロゴロしている。
「ま、後はお姉ちゃんがしてやるから」
ミシェルからハンマーを受け取り、構えたところで。
「おっと。こちらは、私に任せてくれないだろうか」
頭上からここにはいないはずのNPCの、いかにも育ちの良さそうな声がして、ハンマーがひょい、と取り上げられた。
「いやダメ、俺がやりたいの!」
ハンマーをひょい、と取り返しながら挨拶する。
「エルリックにジョナス! どうしたんだ? カホールは?」
「カホールは留守番だ。高地が苦手だそうで、残念がっていたよ」
「そっか…… で、どうしてあんたらは来たんだ?」
「どうしてだと思う?」
「王子。そのような言い方をされても、彼女は気づきませんが」
微笑むエルリック王子の背後から、そう注釈をつけるのはジョナスだ…… 相変わらずの氷の魔王っぷりだぜ。
『気づかない』 ってなんだ!
「俺だって、分かってるって!」
「ほぉお…… では、お伺いしましょうか」
「あんたらも、ミシェルのことが気になったんだろ? モニターは多い方が良いもんな!」
「…… だそうですが、如何でしょうか、王子」
「うん、まぁ…… ヴェリノらしくて素敵な答えだね」
ぷう、と頬を膨らませるのはミシェルだ。
「ボク、お二人は呼んでません! だって、忙しいって言ってたでしょう?」
「だから急いで終わらせて合流したんだ…… だって 『皆で仲良く』 した方がいいだろう? ね、ヴェリノ?」
「あ、ああ…… まぁ……」
「王子殿下とジョナスさんだって、先週バイト頼んでましたよね? ボクに黙って!」
俺は、ごくり、と喉を鳴らした。
――― なんか雲行きが怪しいぞ。
知らない振りしてトンカンとハンマー打つには、話題の中心が俺すぎるし!
「あれはバイトだから」
「これだってバイトです!」
「泊まりでかい?」
「何か、いけませんか?」
「君はもし…… ジョナスと私が、ヴェリノに王城で1泊2日のバイトを頼んだらどう思う?」
おお、王子が珍しく粘ってるぞ。
――― 出会ったばかりの頃は 『公平にしなきゃ』 てなことしか言ってなかったヤツが……! 成長したなぁ……
なんとなく感動している俺に、ミシェルがプルプルと震えながら抱きついてきた。
「そんなの、ずっるぅぅぅぅいっ……!!!」
「そういうことだよ、ミシェル」
大絶叫にも臆さず、なんだかスッキリした感じの笑顔を見せるエルリック王子である。
「おーい、そこの暇そうな男ども」
タイミングよく、イヅナが声を掛けてくれた…… 助かったぜ…… さすがイヅナ、海の男!
「ロープをつけんの手伝ってくんねえ? ああ、そこの杭は打ち込んどいてな。もう1張り立てるから、急がねぇと」
「ああ分かったよ。ジョナス、手伝ってくれ」
「かしこまりました、王子」
「俺も! 俺もやりたい!」
「おぅ、じゃあヴェリノは残りの杭打ち頼む!」
「らじゃっ」
やりたがってただろ? と笑うイヅナ…… よく見てんだなぁ!
これが 『将の器』 ってものなのかもしれない。
「うーんイヅナ惚れる! まじカッコいい! 見習いたい」
「いやぁ、ンなこと言われたら、照れちまうぜ! けど、俺にはサクラがいるからなぁ」
「それは俺、応援しまくってるから! 頑張れイヅナ!」
「おー、サンキュ」
うん、これが 『男同士の熱い友情』 ってやつだよな……!
――― 澄んだ青空の下、爽やかに笑い合う俺とイヅナを他のNPCたちが非常に複雑な表情で見ていた……
と、後程エリザとサクラから聞いたのだが、それはまた、別の話。
テントを張り終えれば、次はいよいよ 『カレー』 作りだ。




