12-1. キャンプ村モニターのバイト(1)~運河とオヤツ~
覗いてくださり、ありがとうございます。
お正月はいかがお過ごしでしたでしょうか。
今日から2週間強、連続でキャンプ編お送りします。
(今13話執筆中で、まだ続く予定…… めっちゃゆるゆるですがお付き合いいただければ幸いです)
では、本年も宜しくお願いいたしますm(_ _)m
7月18日土曜日、朝10時。
俺たちはそれぞれのガイド犬を連れて、小運河の桟橋にいた。
今日からは1泊2日予定のキャンプ村モニターのバイト。
依頼者はミシェルで、参加者はエリザ、サクラ、イヅナ、それに俺だ。
今は、ミシェルと俺たちの4人でイヅナのプライベート船を待っているところ…… ミシェルの領地だという高原には、途中までイヅナがプライベート船で送ってくれることになっている。
そこから目的地までは、馬車とロープウェイを使うんだそうだ。
「王立自然公園に行った時と同じですね」
「あれ楽しかったなぁ!」
「お化け屋敷は微妙だったわ」
「え、でも何かまた、行きたくならない?」
サクラが 「そうですね」 とニコニコし、エリザが 「改善されてたら行ってあげないこともなくてよ!」 と上からな発言…… また行きたいんだな、きっと。
そういうエリザもサクラも、今日は珍しくドレスではなく、俺とお揃いの制服姿だ。
膝上のスカートからすんなり伸びた脚が健康的で眩しい。
――― これはこれで、アリだよなっ!
内心で激しくサムズアップする、俺である。
そんな俺の腕に、ミシェルが早速、ぶらさがってきてくれる…… ううう、甘えん坊さんで可愛いぜ (こんな妹も欲しかった) 。
「その王立自然公園より、もう少し上流に遡りますよ」
「へえ…… どんなところだろうな?」
「行ってのお楽しみです。でも絶対、絶対! お姉ちゃんも気に入ってくれると思います」
「さあ? どうかしらね?」
上から目線で口を挟んでくるのは、エリザだ
「設備もロクに整ってないキャンプ場のモニターで、『絶対、気に入る』 などと…… よく、言えたものね?」
「設備はありますよ! 温泉は夏も解放することにしましたし、ちゃんと野外調理場も整えましたから」
「ふうん。ま、評価は後で差し上げるわ。あたくしは忖度など致しませんからね?」
「…………っ!」
扇で口許隠しつつ見下すエリザ、それに、大きな緑の瞳に涙をためて拳を握りしめるミシェル…… うむ、悪役令嬢と問答無用で庇護したくなる子リス的な構図、いいな。
そうこうしてるうちに、イヅナのプライベート船 『Sakura・Venus』 が白い帆を光らせながらゆったりと桟橋に近づき、停まった。
もやい綱が投げられるより前に、甲板から2回転宙返りを経て桟橋に着地する人影…… イヅナだ。今日も驚異の運動神経だな!
「おっはよ! サクラ、今日もかわいいぞ。制服が良く似合ってる」
「おはようございます」
「あら、おはよう。派手なご登場ですこと」
「おはよ、イヅナ。今日はありがとな!」
俺たちも口々に挨拶し、最後にミシェルが意外と礼儀正しく頭を下げた。
「ボクからもお礼を言いますよ。宜しくお願いしますね」
「いいって、いいって! むしろ俺も、誘ってくれて嬉しいぜ!」
イヅナは本当に嬉しそうだ。
サクラと会える時は登場時のキラキラエフェクトが倍増だもんな…… 深い愛情を感じて、癒される。
キャンプでは、サクラとふたりきりになれる機会をなるべく作ってあげることにしよう (決意)。
船に乗り込むと、俺たちは早速甲板へ出た。川風がさあさあ吹いてくるのが気持ちいい!
「やっほー!」 「をんをんをんっ♪」 「きゃんきゃんっ」 「くぅーん……」
はしゃぎまくる俺とガイド犬たちを見下して 「ふっ…… お子様ね」 などと言うのは、当然エリザだが…… イヤミを吐き出す口の端がほんの少し、上がってるぞ。
「エリザだって本当は楽しいクセにぃ」
「なっ、そ、そんなこと……!」
「ほーれ、ツンツン、ツンツン」
「こ、このっ…… えええい、あたくしだって! ツンツンツンツンツンっ……」
「ぐはぁ、やられた……」
なんてことをやってる間にも、船はぐんぐん進んでいく。
両脇にはきれいな街並みが広がっていて、行く先には低めの山が見える。
チロルが手すりに前足をかけて後ろ足で立ち上がり、尻尾をゆさゆさ揺らしながら解説してくれた。
【マジカルーン山ですよwwww】
「おう、あれが…… 高原は、中腹あたり?」
【いえ、全然違いますww】
船の降り場は同じだが、高原の方は小運河からは少し離れているのだという。
【そろそろ隣町ですよw
今 『Mon Chaton』 を通過しましたねww】
チロルの説明を受けつつ街並みを眺めていると、「あの……」 と、サクラがひょっこり甲板に顔をのぞかせた。
「朝のおやつにしませんか? ……ってシェフが」
「おーありがとうな、サクラにシェフさんっ!」
――― 姿が見えないと思ってたら、乗船してから早速シェフの手伝いだなんて…… 今さらだけどサクラ、すごい良い子だな!
サクラとコック帽を被ったNPCが、テーブルの上と下に皿を置いていく。
下はガイド犬用のオヤツ盛り合わせみたいだ。嬉しそうに尻尾を振りながら、皿に顔をつっこむチロルたち…… ふぅぅぅ…… 平和だ。
そしてテーブルの上に置いた俺たち用の皿の方の中身は ――― アイスクリームを乗っけたフワフワのパンケーキだった。
「アイスクリームは木苺、チョコレート、バニラの三種でご用意させていただきました」
「美味そぉぉぉぉっ!」
皆で 「「「いただきまーす!」」」 と手を合わせて、早速パンケーキにグサリとフォークを突き刺す…… おおっ、生地に全く抵抗感がない!
口に入れると、すっとほどけて上品な甘味がぱっと広がり、それもすぐに消えて行く。これは、どんどんイケてしまうやつだな!
「止まらなくなりゅううう!」
「くっ…… 厚焼きの上にフワフワだなんて、生意気ねっ……」
「卵白の泡立て方がいいんですよね、きっと」
パンケーキだけでも美味くて全部食べられそうだが、次はせっかくだからアイスクリーム載せに挑戦だ。
やっぱり、最初はバニラかな。
温かいパンケーキの上に冷たいバニラアイスをのっけて、ひとくちでいくと……
「…………っ! エクセレントぉぉぉっ!」
温かくて冷たくて甘くてふんわりで…… うぉぉぉ! 口の中がマジカル・ブリリアント・ファンタジー!
サクラは赤みの強いピンクのアイスクリームを、エリザは香りの高いチョコレートのアイスクリームを、それぞれ試してるところだが、やっぱり口の中がミラクルにマジカルでブリリアントでファンタジーしてると見たっ……!
「…… 木苺の甘酸っぱさとも、よく合いますよ」
「どれどれ…… うーんスペシャリティィィッ!」
「…… 甘くもほろ苦い高貴な味わい…… 生意気だけどあたくしにピッタリね」
「ほう…… エリザがここまでデレるとはっ…… ………… うん、これは…… デレる通り越して、とけりゅぅぅ…… ほれ、ミシェルも、あーん」
バニラ、木苺、チョコレート、と順番にミシェルの口につっこんでやる。
「…… お姉ちゃん、美味しい」
「はっはっはっ。そうだろう、そうだろう」
ミシェルも、幸せそうだな。
一方では、イズナとサクラが 「はい、サクラも、あーん」 「…… 自分で食べられますから」 なんてやってるのは、見ないふりをしといてあげよう。
川風に吹かれてゆっくりお喋りしながらパンケーキを全部食べ終わる頃。
船はようやく目的地…… ミシェルの高原最寄りの桟橋に、着いた。
※ カバタ山さま、間咲正樹さまより素敵なレビューをいただきました! どうもありがとうございます!
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