11-10. レベルアップと新しい魔法(2)
『風の神々の娘たち、
気ままな風の精霊シルフィード。
汝らの優しさを以て、
今ひとときの涼を彼に与えん
…… 微風!』
サクラが唱え終わると同時に、寮の部屋の中にも関わらず、そよ風が俺の浴衣の袖を揺らし出した。
「あー、これか! なんか涼しいと思ってた。エリザがずっと魔法かけててくれたのかぁ…… ありがとなっ、エリザ!」
「……別に、ヴェリノのためじゃないわよっ」
ささっと扇で顔を隠すエリザ。
「逆ハーレム目指す子が汗だくで男の子とデートだなんて状況が許せなかっただけですからねっ……」
まくしたてる扇の紐の先では、前にあげた 『花のちちふさくん』 が揺れている。
「呪文を教えても良かったんですけど、NPCたちとの交流の方が先ですからね」
サクラが、きらりん、と青い目を光らせる。きっと早く好意値チェックをしたいのだろうが、その前にチラッと持ち物チェックもしておこう。
≡≡≡≡ステータス ②≡≡≡≡
☆持ち物☆
制服 レースのドレス 海軍制服 浴衣(紺)★ 学生バッグ★ 普通の靴★
潮干狩り基本セット スチル用フレーム♡ 記念ボールペン(虹) 名刺 竜の涙(極小)50g 王室印・花のキャンディー缶 レターセット(白)
Pブラシ Pトリミングセット(バリカン付) Pフリスビー Pゴムボール P骨付きジャーキー(鹿児島産高級黒毛和牛) P冷感シート♡
B『犬種別☆おしゃれカット集』
B『ヴェリノのお料理メモ (焼きそば)』
B『ヴェリノのお料理メモ (だし巻き卵・ふわふわ卵)』
T『ミラクル・リゾートへの旅』2枚
☆称号☆
◆潮干狩り初心者 ◆なりそこないライフセーバー ◆企画初心者 ◆生き物ふれあい中級者 ◆幸運の使者見習い ◆恋愛強者 ◆諦めない心 ◆ミス学園祭 ◆テイマー見習い・初級
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よしよし、新しく買ったレターセットやチロル用のゴムボールと骨付きジャーキー、それに冷感シートはちゃんとあるな。
――― 冷感シートは、最近急に蒸し暑くなってきたから慌てて買いに行ったものだ。
チロルは 【AIだから実は平気なんですよwww】 なんて言ってたが、舌出してハァハァしながら暑そうにウダウダされてると、無視なんてできないよなぁっ!?
夏祭り向け貯金中で多少苦しくはあったが、水色の涼しげなシートにチロルがごろんと寝転がってるのを見ると、『俺って良い飼い主!』 的な満足感に浸れるのも良い。
ともかくも、持ち物はOK。
それから称号だが……
「お! 『幸運の使者見習い』 から 『初級』 がとれてる!」
【今日くじ引きで 『大当たり』 当てたからですねwww】
「俺としてはカーペット用のコロコロクリーナーが良かったんだけどな?」
【wwww 抜け毛のお陰でお掃除レベルも上がって良かったでしょう? ww】
「おう、まったくチロルのお陰だぜ…… ってあれ? なんかおかしくない?」
【wwwwwwww】
――― と、そんなやり取りをして、次はいよいよ、交遊画面だ。
≡≡≡≡ステータス ③≡≡≡≡
☆プレイモード☆
モブコース(好意値半減)/友情
称号効果 +25%
☆交遊 (PL)☆
◆エリザ・テイラー : 公爵家令嬢・学生・ルームメイト
◆サクラ・C・R : 子爵家令嬢・学生 ※誕生日 07/07
◆エルミアさん: 男爵家令嬢・学生 ※誕生日 05/10
◆リーナ2525 : ショップ 『リーナの万屋』 店長
◆ねこねこねこん : ショップ 『Mon Chaton』 店長・猫型獣人
◆アイリス・グリーン : ショップ 『アイリス&ヴェーナ』 店長
◆ののみや しの : ショップ 『志乃』 店長
☆交遊 (NPC)☆
◆エルリック・クレイモア : 王子
(好意値)2,940 (友情値)2,404
◆ジョナス・ストリンガー : 侯爵家次男
(好意値)3,022 (友情値)1,582
◆ミシェル・ブロックウッド : 伯爵家長男
(好意値)2,930 (友情値)1,976
◆イヅナ・T・J・クルス : 海運王家・男爵家長男
(好意値)2,081(友情値)2,757
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「あれ? エルリック、そんなに一緒に遊んでないはずなのに好意値伸びてるなぁ!?」
「をんをんをんっ!」
チロルが尻尾を振りながら、俺の足に肉球パンチを繰り出した。
【 『銀のちちふさくん』 と 『金魚』 効果ですよwwww】
「あれはジョナスに預けた後、ジョナスから受付に…… って、まさか」
【無駄でしたねwwww】
「ええええー!!」
頭を抱える、俺である。
「ジョナスもそれならそうと言ってくれよ……」
言えなかったのよ、とエリザが腕組みして呟き、サクラがうなずくが…… 言えないとかそんなの、あるわけがないよな?
「それより、問題はジョナスよ」
「好意値が3,000超えちゃいましたね」
好意値 3,000。別名、『プロポーズライン』 である。
「んー? やっぱり何かのバグとかじゃないのかな?」
ジョナスの態度は、思い返してもそんなに変化はなかったし……
「俺、ナメくさられてもなければ、好きとかなんとか1回も言ってもらってもないんだけど?」
「ああそれは…… ジョナスさんはジョナスさんで、エルリック王子とは違いますから」
ジョナスさんに関しては謎が多いので何とも言えませんが、と、サクラ。
「ヴェリノさん、エルリック王子、ジョナスさん三人の関係性で流れが変わることは、じゅうぶんにありそうですよね」
「1、ジョナスが抜け駆け。2、ジョナスと王子で仲良く言う…… または二人ともがガマン。3、ジョナスがガマン。
つまりはこの、どれかよね」
「2人ともガマンしてくれたらいいのにな!」
「いえ…… 」
サクラが首を横に振った。
「わたしはむしろ、2人が同時にプロポーズすることで、対ミシェルさん共同戦線を張ると思います」
「妥当ね。ミシェルの好意値が今回かなり伸びたから、警戒はしてるはずよ、当然」
「俺はこの中なら、ミシェルが一番いいのに……」
なんたって、可愛いは正義、だからな!
「2番はイヅナだなー。あいつは、周囲に忖度して俺にプロポーズするとしても、結局は本命がサクラだから断りやすいし」
「…… それ、イヅナが相当ヒドイ人に聞こえるわよ?」
エリザに言われてみれば、それもそうだ。
「ああああっ! ややこしいなぁっ!」
「くぅん……」
ついついチロルをモフりまくってしまうぜ、もうっ!
「俺はただ、みんなと仲良くしたいだけなのに!」
なんで付き合うとか付き合わないとかプロポーズとか、余計なのがあるんだろうなぁ!?
付き合わなきゃ仲良くできないのか!?
付き合わないけど仲良くしたい、なんてのは俺の身勝手なのか ―――!?
「そうですねぇ…… 」
サクラが考え込むように、耳の脇の髪をかきあげた。
「とりあえず、合同プロポーズが思ったより難しそうなことだけは、わかりました」
「もう、やめてもいいんじゃない?」
応援してくれてるのに申し訳ないとは思うが、そろそろ俺の手に負えなくなってきてる気がするぞ。
「…………。そうですね…… まぁ、ヴェリノさんの意志に反してまでは」
「ここまできて諦めるだなんて…… っ、 いえ、諦めるのは、あなたの勝手ですけどね。ふんっ……」
「あー…… いやゴメン、ちょっと言ってみただけだから!」
サクラとエリザの究極に残念そうな表情に、慌てて言い直す。
「いえ、無理強いは良くないと思っています……」
「ふっ…… 気にしなくて良くってよ、ヴェリノ。素人ゲーマーに期待したのがバカだっただけですからね」
「いや、あのだな……」
友達ふたりにそんな顔されたら、『いいよ』 って言われたからって、やめられるわけないじゃないかぁぁぁっ!
「俺も!」
こうなりゃもう、ヤケになってやるぜ!
「俺も、個別になめくさられるよりは、みんなから一斉に花もらった方がいいとは思ってるぞ、うん!」
瞬間。
エリザとサクラの顔が、光が差したみたいに明るくなった。
「ほんとですか!?」
「さすが、このあたくしが見込んだ漢だけあるわね!」
ああ…… めちゃくちゃ、喜んでくれてるなぁ…… ひしひしと、伝わってくるものがあるぜ。
これはもう、頑張るしかないよな!
「おう! サクラ、エリザ、これからもよろしくな!」
「はい!」
「まかせなさい!」
改めて共闘を誓い合う、俺たちだった…… なんか騙された感もするが、ま、いいや!
壁ドン顎クイ連発より、花の方がマシなのは本当だしな。
――― こうして方針が決まって、数日後。
ジョナスから俺に、実にそっけない文面のバイト採用通知が届いたのだった。
読んでくださりありがとうございます!
これにて七夕・夏祭り編終了~。
この後はバイト編、そしてバカンス編と続く予定ですが、ボリュームによってはどちらかを閑話にするかもしれません。
再開は早ければ再来週頭予定です。
ではでは、年末で皆様お忙しいことと思います。どうぞお身体にお気をつけて、温かくお過ごしくださいませー!
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