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11-8. 七夕・夏祭り(8)

 右手には、箸。

 左手には、麺つゆと薬味の入った器。


 肩にキリリとかけた、白ダスキ。


 俺たちはこんなスタイルで、ざぁぁぁぁぁ…… とそうめんが流れる 『白糸の滝』 に、飛沫がかかりそうな程に接近している。


 滝のこちら側には、俺、エリザ、サクラ。向こう側は、ジョナス、イヅナ、ミシェルだ。


 滝の横には階段があり、そこに並んで座って、各自で流れてくるそうめんを取っては食べる…… と、たすきをかけてくれたスタッフのNPCの説明によれば、そういうことらしい。


「さて、では始めましょうか」


 ジョナスが時計を確認し、俺たちはいっせいに声を上げる。


「「「「「いざ」」」」」




 討ち入りじゃぁぁぁぁっ!!!




「おっ、これは……! 燃えるな……!」


 高速の水に乗ってやってきて、あっという間に去っていく、ツルッツルのそうめんを箸で取るのは、けっこう難しい。


 ついつい夢中になり、しばらく無言で敵の殲滅(しょくじ)にかかっていた俺たちだったが。


 慣れてくるに従って、別の問題が発生してきた。



「あーっ、ジョナス! ボクのそうめん取らないでくださいよ!」


「残っているのがあるでしょう、そちらを取りなさい」


「その! 色つきのを狙ってたんですよっ……!」


「…… あさましい」


「そうだぞ、ミシェル。そうめんは味と食感だろ? 色なんかにイチイチこだわるなよ?」


「……うわーんっ…… お姉ちゃんっ…… ジョナス(悪代官)イヅナ(越後屋)が、苛めてくるよぅっ……」



 そう。そうめんは斜めの滝に乗って上から下へと流れていくから、どうしても、階段の上に座っている者が有利になるのだ……!



「まぁまぁミシェル。お姉ちゃんが色つき入れてやるから! あ、エリザとサクラもな? ほらほら!」


「カホール モ……!」


 パタパタと飛んできたカホールを見れば、小さな両手で麺つゆの入った小さな器を抱えていた。


「をんをんっ」 「くぅーんっ」 「きゃんきゃんっ」


 それぞれのガイド犬の足元にも、いつの間にか皿が出現している。


「おーっ、よしよしよし! みんなに入れてやるからなっ」


 ペットの分まで皿を用意してくれた人の優しさに、ちょっと感動してしまう俺であった。


【ちなみに、リアルでは犬に麺つゆあげると塩分過多で腎臓に負荷がかかりますので、ご注意くださいwww】


 ―――― その説明、要るのか!?



 その後、親戚に 『お友達と遊んでおいで』 と言われたとかでエルリック王子がそうめん流しに加わり、ほぼ殲滅(しょくじ)が完了したところで。



『♪ハッピーバースデー トゥー ユー……』


 どこからか、歌が聞こえてきた。

 と同時に、周囲の灯りが消える。


 明るいのは、中央の特大笹飾りと、運ばれてくる特大ケーキの上の蝋燭だけ…… 歌は、ケーキを運んでる料理人らしき皆さんが歌ってくれているんだな。


 心を震わせるような、見事な四重唱だ。


「おお! サクラのバースデーか!?」


「その通り」


 エルリック王子が微笑み、サクラが 「ありがとうございます」 と、軽く頭を下げる。


「礼なら、イヅナに言いたまえ」


「イヅナさん、ですか?」


「今回の企画は全てイヅナだよ。サクラさんに、喜んでもらえるようにね」


「じゃあ、イヅナさん、ありがとうございます」


「いいって、いいって。サクラのためならそんなの当然だろ」


 サクラより、イヅナの方が嬉しそうだ。


「お礼にデートしてくれたら、もっと…… だなんてことは、言わないからなっ?」


 えへへへ、と誤魔化し笑いをして、いつの間にか持っていたクラッカーをポン、と開く。

 中から、キラキラした紙と一緒にフェアリーが飛び出し、サクラの周りを踊り出した。


「ともかく、ハッピーバースデー、サクラ!」


「ありがとうございます、イヅナさん…… でも……」


「す、ストップ、サクラ!」


 不穏な気配…… すなわち、サクラのもう1つの顔・冷徹な乙女ゲーマーモードが発動しかけているのを、いちはやく察知した俺。


 ――― いや、ここでイヅナのデート願望をあっさり挫くのは、かわいそう過ぎるだろ!?



「そ、そうだ、それより、蝋燭消しなよ! ふーっ、て!」


「そうですね」


 サクラがとりあえず、納得してくれて良かった……!


「ほらー、イヅナ、サクラよろしく」


「どうぞ、お姫様」


 サクラの手を取り、ささっとケーキの全面へと導くイヅナ…… こんな恥ずかしい呼び掛けを、照れもイヤミもなくサラッとこなすのが、さすがなんだぜ。


 15本の蝋燭を一気に吹き消すのは、思ったより難しいようで、サクラは2回、3回と頬を膨らませては 『ふぅーっ』 とやり、それをイヅナはデレデレとした顔で見守り…… 俺にとっても、癒されるひとときだった。


 灯りがすっかり消えると、『パッパパー♪』 というファンファーレと共に現れたフェアリーたちが、踊りながら次第に文字を形作っていく。



  『LOVE ♡ SAKURA』



「………… もうっ……」



 小さい声で、「そういうのは恥ずかしいって言ってるじゃないですか!」 と呟くサクラを見て、俺は 『もう一押し』 と確信したのだった。





 ――― 頑張れ、イヅナ。


読んでくださり、ありがとうございます!

これにて11章本編終了。

ひたすらまったりした夏祭りでしたが、いかがでしたでしょうか。

明日は都合により1日お休みいただき、明後日から2日、火曜・水曜に恒例・ステータス確認編を続けてupします。宜しくお願いしますーm(_ _)m


感想・ブクマ・応援☆ いつもとっても感謝しております!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王城まで出向いてメインは流しそうめん、というのがいかにもこのゲームっぽいですやね。(笑) でも樋とかじゃなく滝ってところがいかにもロイヤル。 [一言] そうなんですよねー、基本、調味料と…
[良い点] イヅナとサクラが上手くいくかは、ヴェリノくんの活躍にかかってますね(笑) 果たして冷徹乙女ゲーマーモードから変わって、絆される流れに持っていけるのか!?
[一言] 本編終了お疲れ様です。 計画的な進行凄いです。 見習いたいですが、私には出来ないでしょうねえ。
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