11-4. 七夕・夏祭り(4)
「へー? 手違いでイヅっちがまだなんだー。…… え? 手違いじゃなくて、ジョナたまの嫉妬? え? 違うの? ってジョナたまったら、そんな怒らなくてもー! ちょっと、こわいよー?」
俺たちが口々にする説明を、いちいちちゃんと聞いてくれるエルミアさん。
――― これでヤンデレ好きでさえなければ、問題なく付き合いやすい子なのにな…… とは、思うんだけれど。
今日の浴衣も、ハロルドとお揃いの絡み合う葡萄柄。安定して、俺らが入れない世界の存在を示してくれてるよなぁ……。
「でもでも、待っとくにしたってー、ここでボーッとじゃなくても、ほら! あそこの屋台の前あたりとかー、どう?」
「僕たちはさっき食べてきたところだけれど、美味しかったよ?」
本心からニコニコしてるエルミアさんと、やっぱりニコニコしながら 『つまりは、もうこれ以上はキミ達に付き合わないけどね?』 と言外に宣言してるハロルドの勧めに従って行ってみると、そこは……。
フワフワかき氷の屋台!
エルミアさんありがとう! って心の底から言いたい件っ。
――― 振り返ってみたが、ふたりの姿は人混みに紛れてとっくに見えなくなっていたから…… お礼は、また今度にしよう。
で、問題のかき氷だが……
屋台の看板代わりに貼りつけてある写真からも、美味そうなのが伝わってくる!
――― 赤、クリーム色、紫、オレンジがかった黄色に緑……
たくさんの種類があって、しかも、白い氷にシロップがかかってるんじゃなくて、氷そのものが色付き!
【凍らせた果物やお茶を、そのまま削っているんですよww】
チロルが、下駄を履いた俺の足を、肉球でぷにぷにと押してきた。
「おおっ!? 贅沢! うまそう!」
果物なんて、地下の世界で俺たちの口に入るのはイチゴにブルーベリー、イチジクくらいのものだぞ!? (しかも、すんごい高価い!)
――― ミカンやリンゴ、柿なんかは種の保存のために地上の一部施設でロボットが世話してる、なんて噂もあるけど…… どっちにしても、放射能まみれの食べ物が俺たちの口に入ることはないからな。
俺たちは生まれてこのかた、『……風味』 とかじゃない本物は、食べたことがない。
「うわーすごいなー! 全部買って皆で分けようぜ!」
「何種類あると思ってるの」
「私は甘い物は……」
「わーい! たくさん食べられますね」
呆れ顔のエリザとジョナスにひきかえ、ミシェルはめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「ひとり1コずつでも、5種類いけるよ、お姉ちゃんっ」
「じゃあ、イヅナが来るの待つかー。そしたら、6種類!」
屋台の前で、結局はボーッとイヅナを待つことになってしまった俺たちだが、それはそれで楽しい。
商店街のアーケードにぶら下がった、いろんな色や模様の紙で作った飾りは珍しくて、ひとつひとつ見ても飽きないし、短冊がたくさんぶら下がった笹もキレイだ。
そして、その前に浴衣姿のエリザとサクラがいると、すごく絵になるんだよな。
ちなみにサクラは水色の地に細かな桜模様、エリザの浴衣は青地に菊と蝶…… 眼福あざますっ!
「おーい、2人とも何してんの?」
サクラがペンと短冊を振ってみせてくれた。
「願い事を書いて、笹に下げるんですよ」
「へえ! どんな願い事したの?」
「わたしは 『ヴェリノさんのゲームライフが成功しますように』 です」
ふふっ、と笑って見せられた短冊には、『逆ハーレム』 ってふりがなが書かれていた。
「エリザは?」
「あたくしはっ。願い事を笹にするなどという愚かな行いなど、しなくてよ!?」
何やら書いていた紙をサッと隠すエリザ。
「単に、ちょっと七夕の謂れを聞いたことがあるから…… それに乗ってるだけで、別に本気じゃないのよ!」
こんなのタダの遊びなんだから、などと言いつつ笹に結びつけるのを、見ないフリしてこっそり見ると、そこには 『今夜は空が晴れますように』 と書いてあった。
そうか。
このゲーム内でも、季節感を出すためとかで、最近よく雨が降るから…… 王宮でのパーティーのために、お天気を祈ってくれてた、ってことだな。
エリザ…… やっぱりいい子だよなぁっ……!
「じゃあ、俺も俺も!」
2枚、短冊を貰う。
1枚目はやっぱり 『サクラとエリザが楽しくゲームできますように』 だな。
それから、2枚目は…… うーん。NPCメンバーたち用に何か書きたかったんだけど…… どう書けばいいかなー…… そうだ!
『みんなでたくさん遊べますように!』
これでOKだな。
「よし、吊るそう…… あ、これエルミアさんのだ」
たまたま見つけたエルミアさんの短冊には、『織姫になりたいです♡』 とあった…… なんでだろうな?
短冊を笹に吊るしてしばらくすると、イヅナがやってきた。
「おっ、待たせたなー!」
「いいって。元々、言ってなかった俺らのせいだし…… それよりイヅナ、浴衣めちゃくちゃ似合ってるぞ!」
「そっか?」
「おう! 敢えて女の子っぽい柄に挑戦したオシャレさんに見えるぜ!」
照れくさそうなイヅナが着てるのは、学園祭のすぐ後で一緒に買った、紺地に大柄な花模様の浴衣だ。
「…… お揃いですか」
ジョナスが眼鏡の縁をクイッと押さえて、まじまじと見ている。
さすがに、イヅナがこんな可愛いの着るとは思わなかったんだろうなぁ……!
「おう、エリザとサクラに選んで貰ったんだよ。めっちゃくちゃ高価かったけど、センスは良いだろ?」
俺も、制服以外で女の子っぽい衣装には抵抗があったけど、改めて着てみると、すっごい似合うんだよなー、これが!
『おおお、浴衣美少女がここにおる!』 と鏡の前で盛り上がってしまったことは、ジョナスにはもちろん、エリザにもサクラにも内緒だ。
「ずぅるい! ボクもお姉ちゃんとお揃いにしたかったぁ!」
「よしなさい。あなたでは、確実に幼女に見えてしまいます」
ミシェルが頬を膨らませ、ジョナスにたしなめられているが……
うん、俺としては、ありだな!
むしろ、着せてみたい気もする。ジョナスもミシェルも、顔立ちだけみると、いかにも女装が似合いそうだからなー。
「よっし、また今度、みんなでコスプレして遊ぼうぜ!」
ハロウィーンですね、とサクラがニコニコしてくれたので、きっとそんなイベントがまた、あるんだろう。
楽しみだー!
……とまぁ、それは置いといて、まずは。
――― かき氷、だな……!
12/2 誤字訂正しました!報告下さった方、どうもありがとうございます。